黄昏の英雄

@takayoshi0425

第1話 辺境の地

1 辺境の地


「もう最後の厄災から十年か…」


 厄災…それは天から与えられる災害。天変地異やこの世の理から外れた存在の侵略など、天が選んだ”遊び”に対して人類が挑むもの。


 最初の厄災は十五年前。当時十五歳だった俺、ジーク・グレイは自分の強力な力に対して疑問を抱いていた。

そこそこのレベルの強さなら悩むことはなかっただろう。しかし俺の力はそんなレベルのものじゃなかった。

”最強”、その言葉に相応しかった。


 数分あれば一つの山を平地にできるし、人なら一秒もかからず殺せる。

そんな天から与えられた力に俺は疑問を感じていた。


 そしてその悩みが解決することとなった出来事が”厄災”。

最初の厄災は天の創造物である”魔獣”が侵略してきた。偶然、俺が住んでいた国に出現したため出来心で厄災の全貌を確認してみると非常に興味深かった。


 四足歩行であったが、高さは五メートルほど。背中には羽がついており飛ぶ。そして何より”魔法”を使ってくるのだ。


 動物で魔法…その存在に興味を持った俺はそいつに挑んだ。

楽しかった。何よりも楽しかった。

小さな村でしかコミュニティを築いていなかったこともあるが、これほどの強者と戦えるのは楽しかった。


 結果的には俺の圧勝で終わったが名残惜しかった。

”まだ戦いたい”。”もっと強い奴とやりたい”。恥ずかしながらそう思ってしまった。


 すると後日、また厄災がやってきた。

今度は違う魔獣。

俺は挑み、以前の奴よりも強いことを肌で感じた。


 そして厄災に挑み続け、最後の厄災との戦闘中に悲劇が生じた。

俺は暴走してしまったのだ。

目の前の敵のあまりの強さに俺は限界を超えるしかなかった。そして自我を失い、人々を大量虐殺してしまった。

厄災は倒したが人は殺してしまった。しかしそんな俺に人々は英雄と称えてきた。


 国は崩れ、数多の人を殺してきた厄災。そんな厄災に挑んだ俺。

俺は力を封印し、誰も近寄ることのない辺境の地へと逃げた。



 それが十年前、最も最悪な日だ。


 片手にコーヒーを持ちながら肌寒い外に出る。

太陽が地を照らし、花たちは今日賑やかに咲いている。


 家も作って、花も植え、はたまた自家農業までもしてしまった。いい人生だ。

一生この平和な生活を送りたい。少々人が恋しいが俺に人と触れ合う権利なんてない。


 目の前に咲いているバラの花を触り匂いを嗅ぐ。

すると、右方向に懐かしい匂いがしてくる。人だ。


 次第に足音が俺の方に近づき、十年ぶりの人との出会いに緊張が走る。


 姿が見えた。


「あ、あのーー」


 何を話そうか迷っていると、人が俺に気づく。

すると、何やら武器みたいなのを腰から取り出し、撃ってくる。


「ちょっ、ま、待ってーー」

「おい人がいたぞ!しかも魔銃まとうを撃っても避ける!かなりの手だれだ!」


 まずい、仲間がいたのか。このままだとあの変な武器に体を撃たれる。どうにかしないと。


 俺は手を挙げ、戦いはしないとの決意を見せる。


「た…頼みます。攻撃しないでください。

私はただここに住んでいるだけです」


 人は一瞬、攻撃する姿勢を見せたが、数秒ほどすると武器を腰に直す。


「お前は誰だ。王からこの地は誰も住んでいないと聞いている」

「私は…カムイです」


 人々から英雄で讃えられているジーク・グレイの名を口に出せば面倒なことになるだろう。

俺は英雄なんかじゃない。クソ野郎だ。

讃えられる気はさらさら無い。


「カムイ…なぜお前はこの地に住んでいる?」

「昔、親と喧嘩をしまして、家出をしたらここに辿り着いたというわけです」


 しまった。流石に出来すぎた話だったか。目の前にいる三人の男の顔が険しくなっている。

 

「そうか、相当派手な喧嘩をしたんだな。それで、どうやってここに辿り着いた。

ここは三百キロほど陸から離れた島だぞ」

「船を作り、そのまま漕ぎました。

体力には自信があるので」


 即興性を求めすぎてしまった。今度は流石に…


「そうか。ぜひうちの部隊に入ってもらいたいな」


 案外いけるかも。


「よし、事情は分かった。しかしだ。

お前はここの地を離れてもらう。王からの命令だ」


 そんな…何で急に?

そもそもこの島は何で見つかったんだ?


「そんなことを言われましても…この通り私はこの地に住み始めて十年の時が経ちました」


 俺は家と花園を指差しどれほどの年月を費やしたのか確認させる。


「そんなことは知らん。王の命令だ」


 …正直この地にはそれほど縁はない。ただ逃げてきた場所が偶然ここであって、他のところでも全然いい。

しかし、十年ここで過ごしてきたんだ。ただ王の命令の一心で譲るほどヤワな男じゃない。


「検討は致しますが、まずは説明をしてくれませんか?

なんせ十年もこの地で過ごしてきたので、今大陸で何が起きてるのか知りたいんです」

「そうか。すまんな。

どこから聞きたい?」

「最後の厄災を倒した後の出来事からでお願いします」

「長いな」


 この男たちは謎だらけだ。

なぜ厄災によって腐敗した世界でそんな立派な黒服を着ているのか。

なぜ十年前にはなかった武器があるのか。

一瞬魔法か?とも思ったが、鑑定すると魔力は微塵もない。

そして最大の謎。それはなぜ王がいるのかということ。


 男たちが指している王はある集団の王かもしれないが、もし”一国の王”、すなわち国王のことを指すのであれば一大事だ。新しく国ができたことになるからな。


 ちょうどいい。この辺で今世界で何が起こっているのか定めよう。



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