10.卑怯でも勝てれば良いのよ

 アンフェタの発明者を探しにエルフの里まで来たのに戦争をする事になってしまったの、野盗を退治した事はあるけど、戦争は専門外よね、

「……オーガ族の軍勢は一旦体勢を整えている、だが奴らは必ず攻めて来る……」

 ギュンターが地図を指さし敵の攻撃進路と、防衛線を示している、

「つまり我々はこちらの防衛線の前哨陣地に配置される訳ですね」

 ニンファがいつになくキツイ口調で言う、


「そうだ、敵の来襲を告げる重要な仕事だと思って頂きたい」

 わたし達は最前線ですり潰す作戦なの、冗談じゃないわよ!

「ちょっと……」

「ギュンター殿、我々を最前線に配置するとは捨て石と考えて宜しいのですね」

 ニンファがわたしの言いたい事を言ってくれた、

「最初に戦う栄誉を与えたのだが、気に入らなかったかね」

「いえ、あまりの戦音痴でビックリしただけですわ、こんな作戦を立てている様ではエルフと言う種族は早晩駆逐されてしまうのでしょうね」

「ニンファとやら、ちょっと口が過ぎるのではないか」


 怒り心頭な族長を無視してニンファは矢を取り出す、

「これが軍隊だとします、最前線で戦うのはここ」

 矢じり部分を指さすニンファ、

「ここは硬いですよね、わざわざ強い部分を攻撃しなくても、弱い部分を叩けば良いのです」

 そう言って矢の真ん中を爪ではじく元令嬢、


「戦闘部隊ではなく後方の補給隊を叩けば良いと言う考えか、確かに弱い部分ではあるな」

「またれよギュンター殿、補給部隊は戦闘員ではないぞ、その様な者達に無体とはいくら相手がオーガでも卑怯のそしりを受けるのではないか」

「うむ、我々エルフの矜持から外れた戦いに見えるぞ」

「これで勝てたとしても、自慢できるものなのやら」


 自分達の一族が存続の危機だと言うのに一体何を言っているの、

「エルフの皆さま方、後方の補給部隊を叩くのは卑怯だと言う考えでしょうか?」

「ミヤビとやら、お前達ヒト族では違うのか」

 ここは自分を通さないと、


「違います、我々は勝利の為にあらゆる手を尽くします、エルフ族が卑怯だと言う作戦、我々が引き受けましょう、それでよろしいか?」

 そこまで言うと、ニンファから矢を貰い半分にへし折ると、地図の上に投げ捨てた。



 ▽▼▽▼



 片側はガケ、反対側は深い谷になった狭い山道を、ゴロゴロと音を立てて進む荷馬車の列、

 まだ朝早い時間帯、先頭を歩くオーガは、足元に何か引っかかった感触、どうせつる草か何かだろうと思って右足を力の限り前に出した次の瞬間丸太の束が頭上に降って来たのが最後の記憶だ。


 オーガの荷馬車隊は大変な事になっているみたいね、半刻もすれば丸太を押しのけて前に進むでしょうけど、その次に待っているのは落された橋よ、

「ミヤビよ、上手く言ったのか?」

「まだまだこれからですよ、勝負は今夜ですギュンター殿」

 順調に進めば今日中に深い谷を抜けられるはずだけど、わたし達の嫌がらせで荷馬車は大渋滞、今夜は深い森の中で一夜を過ごす事になりそうね。


「夜襲をかけるのか」

「そんな大層なものではありません、遠くから火矢を放ち荷物を燃やすだけですよ」


 わたし達の予想通りオーガの補給部隊は長々と無防備な脇腹を晒しながら谷底の道で一晩を過ごす事になった。



 ▽▼



 徴用されたオーガの馬飼いは荷馬車の脇で外套に包まりながら浅い眠りについている、

“まったく、戦に勝っても俺達にはたいした褒美は出ないのに、こんな役務を果たしやがって”

 あれ、向こうの尾根の方が明るくないか?


 立ち込めた雲を照らす流れ星が幾つも、

“えっ、曇りで流れ星?”

 まっすぐ飛んでいた流れ星は点になって次第に大きくなる、

「敵襲だ!」

 夢うつつな馬飼いを現実に引き戻す怒声、山奥の静かな夜は一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図となって、全ての火を消し終わる頃には東の空が明るくなっていた、

 矢を放った尾根筋に護衛隊が向かったのは敵襲から四半刻を過ぎてから、もちろん敵の影も形も見つけられない。


 ▽▼▽▼


 オーガ族、巨躯から鬼の様な外見と恐れられている、戦闘に特化した種族、常に戦いに身を置いている彼らは壮年の死亡率が異常に高く、生き残っているのは真に強い者だけ、

 そんな強い者だけが次の世代を残す事が出来、種族はより強くなってきた。

 だがここ数世代大きな戦も無いので、弱いオーガが淘汰されずに生き残り部族の土地は狭くなる一方。


 惰弱なエルフは我らのエサ、住処を襲い女を手篭にする、最初のうちは泣き喚いているが、三人目くらいで自分から股を開く柔らかいエサだ。

「……御注進、キング、御注進でございます!」

 作法も知らぬ伝令が騒いでいる、我の名を忘れたとは、

「偉大なる英傑オーガキング様、御注進でございます」


 やっと我の名を呼んだか、馬の歩調はそのまま、卑しい伝令に顔を向ける事も無く答える、

「何事か」

「我が軍の補給部隊が敵の夜襲を受け、小荷駄は殆どが消失した模様です」


 どうせ部族同士のつまらん諍いかと思っていたが、とんでもない事だ、

「偉大なる英傑オーガキングよ、いかが致す?」

「このまま進めばよかろう、小荷駄が燃えてもエルフ共の村を襲えば食料は困らん」

「それは宜しくないであろう、次の村までは五日はかかるぞ、兵達は食わせておかんと暴れ出す」

 オーガ族では力が全て、強い者が弱きものを従えるのは当然の事だが、ただ力を示せば良いと言うものではない、

 従った者達を食わせなければあっという間に不満が溜まりだす、

 だが今は戦だ、何が一番大切か、分かっているだろうに。


「食料なんて山の獣を狩って食えば良い、伝令兵よ、お神酒は無事だろうな」

「いえ、偉大なる英傑オーガキングよ、お神酒も全て燃えてしまいました」

「えーい、一旦止まれ、後方の三分の一を次の小荷駄の警備、まん中の三分の一は街道の周りを消毒しろ。

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