第1話

 念の為にと呼ばれた医師に診察してもらったが、特に異常は何もなかった。

 ホッと安堵するも、体の問題が心配なくなれば今度は記憶に疑問が残る。

 落ち着いて思い出してみると、この体で生きてきた記憶が浮かんでくる。


 私の名前はラビル=シュデリウス。伯爵位を授かっていて、それなりに名誉ある家柄だ。

 幼い頃に両親二人を亡くしてしまった事は前世と同じだった。

 しかし、前世と異なって貧しい生活をせずに済んだのは3歳しか変わらない兄が幼いながらに必死に教養やら経営学を叩き込んでいたからだ。

 両親が亡くなって兄が継いでからも我が家の経営が傾く事は無かった。それどころか、様々な商才を発揮したり、剣の腕も優れたので我が家の評価は上がるばかりだった。

 そんな兄こと、ビリアス=シュデリウスにはどうやら、前世の記憶は無いようだった。見た目も前世と黒髪という部分だけは同じだが、瞳の色は宝石のように真っ赤なルビーの色。

 それでも、わたしには分かった。目の前の兄は、前世の兄と同じ魂だと。

 瞳の色は変わろうとも、瞳の奥にある力強くも優しげな色が前世の兄、紅輔と同じだったから。

 兄に記憶が無いのは寂しい気持ちもあったが、今世は今世だ。前世とは関係ないと割り切ろうとするが、鏡を見る度に前世が過ってしまう。


 兄もわたしも、燃えるような赤い瞳を持つ。宝石のように美しいと人々は賞賛するが、前世を思い出してからはこの色は複雑だった。

 薄れゆく意識の中、最期の瞬間に見えたのも赤だった。


 「あれ? でも、お兄ちゃんとは違う声もしたような……?」

 「呼んだか?」

 「うわぁ!? お兄ちゃん!?」


 気付いたら向かい側の椅子に腰掛けていた現世の兄であるビリアスが苦い笑みを浮かべた。


 「ラビル。淑女はそんな大声を出さないぞ」

 「うっ……。き、気をつけます。ごめんなさい……」


 素直に謝罪をすれば、こくりと頷いて少しだけ微笑む。

 こういった所は前世と同じだ。兄はあまり感情を出す方では無かった。

 施設でも施設長のサポート業務をしていない時は静かに読書をしたり、常に勉強をする物静かな性格だった。

 たまに感情を出す時と言えば、わたしが怪我をしたり熱を出したりとわたしに関連する事ばかり。もしくはあみ姉とかが関係したりーー。


 「あーーーーー!!!」

 「ら、ラビル……だから、いきなり大声はやめなさい……」

 「あ、ごめんなさい!」


 突然のわたしの絶叫で耳がキンキンしている兄に申し訳なさを感じながらも、わたしは脳内に浮かんだ人物の事しか考えられなくなっていた。

 名前は亜美歌、わたしはあみ姉と呼んで慕っていた。施設では年長組として、よく小さな子供達の面倒を率先して見る優しい女の子だった。

 そして、兄が初めて妹のわたしと同じか、それ以上に大事に想っていた女の子。

 わたしだけでなく、兄も転生をしていた事を考えるとあみ姉も転生している可能性があるはず。


 わたしは決意した。

 必ず、あみ姉を見つけだす。

 そして、兄と幸せに一緒に幸せにしてみせると!!




 

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