第21話 昔懐かしこの浮世、一寸先は地獄行き

2017年07月20日(木)11時34分 =喫茶店「klak」=


「ですから、そこはそう考えても破綻するのであり得ないのです。」

「しかしだな、この部分を君の理論で考えようとするとこことここが繋がらないから全体が破綻する。そうじゃないかな。」

 店内に入るとあまり人がおらず、二人の客が一つの紙面を挟んで口論をしているのが全体に聞こえわたる。そして、りくさんはその口論している二人のもとへと歩いていく。そのため、俺とおおとりさんも不本意ながらその後ろをついていくこととなる。

 りくさんが近づくと二人のうちの女性の方が反応をする。

「あなたたち、来るの遅かったのです。もうカフェラテ4杯もいただいちゃったのです。」

「いやぁ、申し訳ない。ちょっとしたトラブルがあってね...。」そう言いながら俺の方に視線を誘導する。

「それよりも彩花あやか、その後ろの人は一体?」

「この人ですか?旅行で来てるみたいで、たまたまここで出会ったのです。お名前は...」

小熊おぐま燈樫ひがしって言います。東京で探偵業をやらせてもらってます。本当は連れが居たんですが、まあ、色々あって...。」

「そんな彼の暇つぶしをしていたのです。」と、彼女は堂々と胸を張っている。にしても小柄だな。150、いや160ギリあるか?

「そうなのか。まあ、ここで会ったのも何かの縁です。ご一緒しませんか?」と、燈樫ひがしさんの方へりくさんが語り掛ける。存外、この人はお人好しなのかもしれないな。

「えっ...、まあいいですけど。でも流石に奢ってもらうのは気が引けますのでその分は自腹で払わせてもらいますよ。」

 この人、結構ちゃんとしてるな。にしても白い髪に、サングラスで見えずらいけど紅い眼...。俗にいう先天性白皮症アルビノって奴か。

 ・・・さっきから、おおとりさんが何も言わないのでちらりと表情を見ようと体を傾けた瞬間におおとりさんが口を開く。

燈樫ひがし君、久しぶりだねぇ。今日は、あの子は居ないのかい?」

「・・・そいつが予定をすっぽかした連れですよ。」その質問に目を逸らしながら燈樫ひがしさんは返答する。

「あの、お二人はお知り合いなんですか?」気になった俺は二人の会話に割って入った。

「ああ、昔の仕事で知り合ってね。まあ、その一件以降出会うことはなかったけどこんなところで出会えるとは思ってもみなかったけれどね。」とおおとりさんはケラケラと笑いながら喋る。

「まあ、そうですね。それよりも、彩花あやかさんから少し聞きましたけど鈴埜宮すずのみやさんでしたっけ。他の方々に何かお願いがあって呼んだんじゃないんですか?」

「・・・まあ、そうですね。いやはや、こんな大所帯になるとは思っても居なかったものでね。いつ切り出そうか悩んでいましたが、まあ人手は多い方がいいですもんね。」そう言いながらもテーブル席に全員を座らせて、それぞれに注文を促す。そして、全員が注文し終わったあたりで彼は一枚の写真を取り出し皆に見える位置に置く。

 その写真に、見覚えがあった。

 今も忘れない。

 銀色の長髪をたなびかせ、強く握るだけで折れてしまいそうな華奢な体。

 そして、神々しいほど輝く笑顔。


 あの時、この場所で、出会った。あの聖夜前災せいやぜんさいのあの化物。それと瓜二つな姿をしていた。

ひかり鈴埜宮すずのみやひかり。俺の姉の一人娘だ。そして、今日、行方不明になった。姉の代わりに今まで面倒を見ていたんだが、忽然と消えてしまったんだ。」

「なぜあなたの姉の娘をあなたが面倒を見ているんですか?」そう疑問を持ったのであろう燈樫ひがしさんがりくさんに疑問を投げつける。

「・・・俺の姉は、先月死んだ。山の中で夫と一緒に体を真っ二つに切り裂かれてな。それで、この子は残された。言うなれば置き土産みたいなものさ。」そう言う彼の目はどこか物憂げだ。

 にしても、だ。何故、あれがまだ残っているんだ?

 聖夜前災せいやぜんさいの時に回収しきれなかったが、娘...。アレはどう考えても人間とは思えない。であれば、鈴埜宮すずのみや家自体も人間ではない...のか?

 そう悶々と思案に耽っていると、おおとりさんが話し始める。

「まず、その子を探すとしてだが。居場所の心当たりとかないか?」

「そうだな、時折萌葱山もえぎやまに連れて行ったりしていたからそこら辺にいるかもしれないが、どうだろうな。」

「うん、であればその山には居ないね。」と、急に燈樫ひがしさんが口を挟む。

「通常、行方不明の場合よく行きそうな場所を探すことは多いですが時間が経てば経つほど同位置に居る可能性は下がる。それもこの写真、見る限り美人と形容してもかまわないとは思うが、そこまでであれば何者かに誘拐されている可能性もある。まあつまりは、時間がかかればかかるほど発見可能確率は下がるということだ。」

それに同調するように彩花さんも、

「私も同意見なのです。聞く分に、居なくなってから6,7時間は経っているはずなのです。であれば、街中に居る可能性は高いのです。でも、誘拐されている場合は話は別なのです。と言うか、警察には届け出を出したのですか?」と、りくさんに問いかける。

「ああ、この後に行く予定だよ。本当に時間がないものでね、会社の指示をできるだけやってから君たち二人に連絡をしたんだ。」そう言う彼は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

すると、店員が「おまたせしました!」と言いながら多くの注文品を卓上に置きだす。皆々が自身が注文したものを奪還して、食し始める。りくさんはカラスの見事なシュガークラフトを真っ二つにして食べていた。映えとか気にしないタイプなのかな...。

 驚きのあまり呆然としている俺と燈樫ひがしさんに対して、黙々と食べていたおおとりさんが

「食える時に食っとけ。特に他人の奢りはたんと食え。」

「お前...、確かに奢りはするがそんなことを言うならお前の分だけ自腹で払わせるぞ。」と、怒りをあらわにしたりくさんが凄むと、「ごめんごめん。」とおおとりさんは軽い謝罪を返していた。

 そして、りくさんの皿に目を落とすともうすでにからっぽで、食後のコーヒーを飲んでいた。それに驚き目を点にしてそれを見ていると、

「仕事柄、早く食べ終えないと時間が足りなくってね。恥ずかしながら、今から警察に行かないと時間が厳しくてね。」そう言って伝票を持ったりくさんが立ち上がると、すぐさまレジへ会計をしに行った。

 すると、「あれ、俺の伝票は?」と燈樫ひがしさんが素っ頓狂な声を出して伝票を探していた。

「たぶん、りくが持って行ったのです。ここは、好意に甘えるべきなのです。」と一言彩花あやかさんが伝えると、「じゃあ、今回ばかしは行為に甘えますか。」と注文していたティーセットのケーキを食していた。

 俺も、さすがに腹が減ったので食事を摂ることとする。腹が減ってはなんとやらというからね。

 一旦は、この事件のことを置いておいて食事を楽しむこととした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る