第15話 聖夜至りて、災禍は終わる

「それでは一応事件を解決したということで、乾杯!」


 聖夜前災せいやぜんさいから二日後、俺たちは文野ふみのの部屋で祝勝会を始めていた。が、いくつか気になることがある。

「なんでそこに車いすに乗って包帯でぐるぐる巻きになっている奈穂なほさんが居るんですか。」

「全身に火傷を負ってるけどそっちはそこまででね。体中に筋肉と骨がズタズタになっていたみたい。あの時はアドレナリンのおかげで痛みがなかったけど今じゃ腕を動かすのすら至難の業って感じ。まあ、あと二、三日したら回復するだろうけどね。」

霞城かじょうさん、それ結構人間やめてませんか?」

「そんなことよりさ、なんで私の部屋で祝勝会してるのさ。家主である私は納得してないんだけど。」

「まあまあ、皆さん落ち着いてください。色々話したい気持ちもわかりますけど、まずはそこでしゃべりたがっているまもるさんに話させてあげましょうよ。」

 皆それぞれが生きているという現状を噛みしめながら和気藹々わきあいあいと今を過ごしている。

「よし、じゃあ飯を食べながらでいいから今までとこれからの話をする。まずこがらし。お前には昨日に伝えた通り今後どうするかを決める必要がある。祝勝会が終わった後に聞くからよく考えてくれ。それと、他のみんなもだ。青木あおき文野ふみの和泉いずみ。お前らもこれからどうするか考えておくといい。もっとも、文野ふみのには面白いやつが来ているみたいだけどな。」

 そう言いながら坂下さかしたさんはひらひらと一通の封筒を見せつけている。

DEMデウス・エクス・マキナ社から直々の封筒だなんて結構将来が有望じゃないか。まあ、一つ気になるのはこれがゴミ箱に捨てられていたことなんだが。そこんところ、どうなんだ。」

 DEMデウス・エクス・マキナ社。確か俺の記憶違いじゃなければIT企業の最先端を進む大企業のはずだが。わざわざ一個人に直接送りつけてくるってことは、想像以上にこの人優秀なんじゃないのか。

「どうなんだって言われても、わざわざそんなところに行く気にもならないし。それに、あそこに行かなくても私が大天才ということに変わりはないからね。そんなことに時間を費やせるほど暇はないのだよ。」

「そうか。まあ、お前がそう考えるのならいい。ちゃんと未来のことを考えているんだからな。さてと、まあ今回はそんなことを話すために集まってもらったわけじゃない。お前たちも気になっているだろうアレについて少しわかったから共有することにする。」


 長い話だったから要約をすると『アレは光プロジェクトと呼ばれるものによって生み出された産物らしい。そして、本来はあそこまでの凶暴性はなく友好的な存在らしいが、何らかの影響で凶暴性が高まりあそこまでの被害を起こしたらしい。また、捜査を進めていくにつれ鈴埜宮すずのみや烏丸からすまの双方が関与していることが判明。その後、両企業に捜索が入り結果的に鈴埜宮すずのみや家現代当主である鈴埜宮すずのみやさかえと本プロジェクトに関係するそれぞれの企業の研究員、作業員、従業員含め37名をテロ等準備罪として書類送検した。』ということらしい。

 なんともまあ、あっけない幕切れではあったがいつものような日常が戻ってきたと考えればこれでよかったのだろう。そして、俺はこれからのことを考えなければいけない分岐点にいる。

 あの事件聖夜前災で結局俺の両親が死に、頼る先がなくなった俺は坂下さかしたさんと昨日話していた。最終的に、高校の卒業までは国から支援をしてくれるのだそう。だから、坂下さかしたさんが聞きたいのはその後、卒業してからどのような道を選ぶのか。今まではぼんやりと生きてきたが今の俺には明確になりたいものがある。それは、―――




 祝勝会もほとんど終わりみんなが片づけを始める中、俺と坂下さかしたさんは文野ふみのの家のベランダに出ていた。

 雪も降り始めており、吐く息すら白く空気を濁らせた。けれど、あまり寒く感じはしなかった。

 そして坂下さかしたさんに向けて一言、俺がどうしたいかを伝えた。

「その選択に後悔はないんだな。今なら引き返すこともできるが、本当にいいんだな。」

「何度も聞かなくても、俺の意志はそう簡単には変わりませんよ。俺は、公安になりたいんです。」

「・・・そうか、わかった。だがそこまで行く前に、まずは警察になる必要がある。ただ、そこまで気張らなくていいさ。これから頑張ればいい。だから、しばらくは普通の日常を噛みしめろ。戻りたくなっても、入っちまったらもう戻れないからな。」

そう言うとポケットから煙草とライターを出して煙草に火をつける。そして、雪の降る空の下に煙草の煙が混じり、消えていく。

 今年のクリスマスはいつもと違ってなんだか暖かくて、そして今までのどんな時よりも冷たかった。

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