魔女狩り異世界で魔術を極める
katura
現代日本での生活
コーヒーの香りが鼻をくすぐる。
藤崎蓮は、大学近くのカフェの窓際に座り、スマホを机の上に置いたまま、一冊の本に目を落としていた。店内は夕方の混雑が少し落ち着いた時間帯で、静かなピアノのBGMが流れている。
ページをめくる指が止まる。
——人類は古来より、未知の存在に恐怖し、それを神話や宗教の形で体系化してきた。しかし、それらが真実である証拠はなく、科学が発達するにつれ、次第に迷信として扱われるようになった。
「……まぁ、そうだよな」
蓮は独り言のように呟いた。彼は昔から、こうしたオカルトや宗教に対して懐疑的だった。人は説明できないものを恐れ、それを神秘的なものに仕立て上げる。その結果生まれたのが、神話や魔術といった幻想だ。科学技術の発達した現代において、それらはもはやファンタジーの域を出ない。
彼が本を閉じたところで、向かいの席に友人の遠藤悠斗が腰を下ろした。彼は派手な金髪にピアスをつけたチャラい見た目をしているが、大学では民俗学を専攻しており、特に魔女や呪術に関心を持つ変わり者だった。
「また難しい本読んでんな、お前。相変わらず頭固いわ」
「お前の方こそ、また魔女の話でもする気か?」
「おっ、話が早いな。実はちょうど面白いネタがあるんだよ」
遠藤はスマホを取り出し、何かのニュース記事を開いて見せる。
『ヨーロッパの小村で「魔女狩り」が復活? 宗教団体が異端者を迫害』
「なぁ、これやばくね?21世紀にもなって、まだ魔女狩りとかやってんだぜ?」
「どうせカルト集団の妄言だろ。今さら魔術がどうとか言われてもな」
「それが、そうでもねぇんだよ。地元の奴らは本気で信じてるらしいし、実際に行方不明者が続出してるって話だ」
「それなら警察が動くだろ」
「それがさ、政府関係者すら絡んでるって噂があって、まともに捜査できないらしい。なぁ、こういう話を聞いてさ、お前は何も感じないの?」
「感じるわけないだろ。俺は現実主義者だ」
蓮はコーヒーを一口飲みながら、遠藤の顔を見据えた。
「魔術なんて存在しない。どれだけ神秘的に語られても、結局は嘘か誇張だよ」
「はぁ……お前はつまんねぇな。もうちょっとロマンを持てよ」
「現実に生きてる人間が、そんなもんに惑わされる方が馬鹿だ」
遠藤は呆れたように肩をすくめたが、すぐに笑いながら話題を変えた。その後は他愛もない会話を交わし、日が暮れる頃には解散した。
カフェを出た蓮は、駅へと向かう道を歩いていた。
冷たい風が頬をかすめる。街灯が柔らかな光を投げかけ、遠くでは車のクラクションが鳴っている。いつもと変わらない日常。しかし、なぜか今日は妙な違和感があった。
彼はふと足を止め、空を見上げた。
月が、不気味に赤く染まっていた。
その瞬間——
街灯が一斉に消えた。
辺りは完全な闇に包まれ、車の音も、風の音すらも消えた。まるで世界そのものが凍りついたかのような静寂。
そして、頭の奥に、誰かの声が響いた。
「生きなさい……真実を知りなさい……」
蓮は目を見開いた。
「……誰だ?」
返事はない。しかし、彼の心臓は不規則に鼓動し、額にはじっとりと汗がにじんでいた。
——おかしい。何かがおかしい。
彼は背後を振り返る。しかし、そこには誰もいない。
「気のせいか……?」
自分を納得させるように呟いたその瞬間、車のヘッドライトが目前に迫る。
次の瞬間、衝撃とともに意識が途切れた——。
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