胡蝶の夢~平行世界を根性で突破した胡蝶、神になり旅を始める

雑草魂

第1話 胡蝶はあきらめない

 ひらりひらり……

 暗闇を、虹色の胡蝶が舞う。


 胡蝶は、不運だった。


 ──日本という国に生まれ、

 生まれた時には、すでに母はいなかった。


 ひらりひらり……

 それでも胡蝶は、舞い続ける。


 胡蝶は、父にも愛されなかった。

 日々の暴力に耐え、懸命に生きてきた。


 ひらりひらり……

 それでも胡蝶は、愛していた。


 日本の、大阪の人々の温もりを。


 ひらりひらり……

 だから、胡蝶は諦めなかった。


 たとえ肉体を失おうとも──

 舞い続ける。


 そして胡蝶は、世界を渡った。


 これは、胡蝶の成長の物語。


 儚く、弱かった胡蝶が、

 叶えられなかった夢を果たすための、途方もない旅路。


 胡蝶は諦めない。


 儚いと囁かれようとも、

 彼女は、強く舞い続けるのだった。


 ──そして、胡蝶は目覚める。


「……ん? あれ? ウチ、なんでここに……?」


 目を開けると、そこは見覚えのない薄暗い部屋だった。

 壁には拷問器具のようなものが並び、

 ところどころに血痕のような跡がある。


 そして──


 自分の両手には、冷たい手枷がはめられ、

 身体はボロボロになっていた。


 そんな彼女の横には、

 自分と同じように傷ついた少女がいた。


 銀髪が美しくはためく、その少女は、

 胡蝶──ちがやの目が覚めたことに気づき、心配そうに見つめていた。


「あなた、目が覚めたのね。大丈夫?」


「はっ!? ここはなんや!? なんでウチはこんなとこに捕まっとるん!? それに君も!?」


 ちがやは慌てて辺りを見渡す。

 しかし、少女──ルナは落ち着いた様子で答えた。


「……落ち着いて。混乱するのも分かるけど、あなたと私は帝国の研究材料として捕まったの。」


「研究材料……?」


「私は後から捕まったんだけど、その時には、もうあなたはボロボロで意識を失ってたわ。」


 ──どうやら、自分は囚われの身らしい。


 一瞬、ちがやの心に暗い影が落ちる。

 だが、すぐに首を振り、キリッと表情を引き締めた。


「君の名前は?」


「……私はルナ。魔法使いよ。」


「ウチは子夢茅(こゆめ ちがや)! よろしゅーな!」


 明るく名乗るちがや。

 その屈託のない笑顔に、ルナは驚きつつも、ここに来て初めて微笑んだ。


「……それでルナ、今は誰もおらんのか? ウチらが話してても平気なん?」


 ちがやは小声で尋ねる。


「うん……。この時間は特に何もされない。 でも、夜になると……。」


 ルナは俯き、震える。


 ──きっと彼女も、身も心もボロボロなのだろう。


 そんなルナを見て、ちがやはニカッと笑った。


「ほなら、さっさとこんなところ逃げ出さんとあかんな!」


「え……?」


「なんか夢みたいやし、いける気がするで! こういう悪夢にはパターンがあって、逃げ出せるのが定番やねん!」


 ──自分が見ているのは、ただの悪夢。

 ならば、脱出できるはず。


 ちがやは あれこれ考えながら、打開策を探し始めた。

 そんな彼女の姿に、ルナは励まされ、一緒に方法を考え始める。


 ──その時だった。


 奥の暗闇から、怒声と悲鳴が響いた。

 次いで、激しい衝突音。


「え……? 時間には、まだ早いし……。なんで?」


 ルナが混乱する。


 しかし、ちがやはすぐに覚悟を決め、暗闇を睨みつけた。


 ──そして。


 暗闇の中から、にゅるりと現れたのは──。


 2m近い大男。


 おぞましいお面を被り、死体を引きずっている──。


「ひぃ!?」


 ルナが悲鳴を上げる。


 だが、ちがやはその異様な姿を見て、すぐにピンときた。


 ──この姿、この雰囲気……知ってる。


「……ジェイソン!? うそ!? 本物!? いや、これは夢やんな!? ウチ、うっかりしてたわ! あはは!」


 ──B級ホラー映画のダークヒーロー、ジェイソン。


 彼が、そこにいた。


 ルナは ちがやの反応に困惑する。


 しかし、大男──ジェイソンは、ちがやにじっと目を向け、

 一言だけ呟いた。


「見つけた。よかった。」


「……!?」


 どうやら彼は、ちがやたちを探してここに来たらしい。


 ちがやは、臆せず話しかける。


「おっさん、ジェイソンやんな!? その姿形、ジェイソンそのものやん! なんでこんなところに!?」


 ──しかし、ジェイソンは何も言わず、

 ちがやの頭に手を置き、優しく撫でた。


「助けに来た。」


「やっぱりな! 言ったやろ! なんとかなるって! な! ルナ!」


「え!? え!? でも……」


 ルナは困惑しながらも、ジェイソンの大きな手の温もりを感じる。


 その瞬間、ジェイソンは2人の手枷をいとも簡単に破壊した。


「うお!? さすがジェイソンやな! これはもう勝ち確やろ! ガハハハ!」


 ──ちがや、大歓喜。


 ジェイソンは転がっていた死体を、入口目掛けて投げつけた。


「ひぃぃ!? もうやめてぇ!」


「大丈夫やて、ルナ。ほら、残党でもおったんやろ? な? ジェイソン?」


 ジェイソンは無言で頷く。


 ──その行動は唐突で奇怪だが、間違いなく守ってくれている。


「ちがやちゃんは、なんでそんな安心してるの……? 怖くはないの?」


「だって、ジェイソンは子供と動物には優しいダークヒーローやん? 敵なわけないやろ?」


 ──ちがや、確信の笑顔。


 そして、彼らの脱出劇が始まる──。

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