第33話 「普通」と「良い」は異なる
ミズキさんにメッセージを送った。送ったあとで我に返った。今、夜中の2時過ぎ、普通は寝てるし、起きててもこの時間はさすがに迷惑過ぎる。
ただ、送ったが最後、勝手にこちら側は返信を気にしてしまうのだ。いっそ、「無かったこと」にしてしまうか、今ならまだ取り消せる。
そう思って自分の送ったテキストの吹き出しを見ていると、その隣りに小さく「既読」のマークが付いた。
いやいや、この前もそうだけどミズキさん読むの早いって……。
けど、ここで冷静になって考えてみた。ミズキさんって週4日はコンビニで深夜勤務してるんだもの。お休みの日であっても、その時間に起きてる習慣になっているんじゃなかろうか……、ここにいる私がそうであるように。
私は改めてほんの少し前に送ったメッセージを見返した。
『いろいろと会ってお話がしたいです! いつでもいいです! 返信待ってます!』
頭が興奮気味だったので、なんて頭の悪いメッセージを送っているのかと冷静さを取り戻し始めた私は後悔した。
しかも、すでに読まれている。対面じゃなくて、メッセージの交換レベルでも空気を読めないのが私なんだ。
スマホの画面を見つめながらとぼとぼと帰路に着いていると、ミズキさんからの返信が来た。
『夜中にごめんなさい。ひょっとしてお店に来てる?』
背中からなにかぞわぞわと湧き立つものを感じる。それは寒気じゃなかった。
ミズキさんはあれか? なんか第六感的な勘があるとか――、いやいや、ひょっとしてあの店長さんとかムハンマドくんあたりが連絡してたりとか? 後者の方がありえそうな気がする。
私はゆっくり歩いて家の近くまで戻って来ていた。ミズキさんのメッセージにはまだ返事をしていない。家の前で立ち尽くして、少しの間考え事をしていた。
非常識、迷惑――、こんな私ですら最低限兼ね備えている常識から逸脱する。けど、とうの昔に「普通」からは脱線しているんだ。
珍しく、私の内なる「私」が揃って同じ方向を向き、同じ指令を下していた。今はきっとそれが最善・最良で、最高の選択。
『ご迷惑だったらすみません! 今電話で話せませんか!?』
文字を入れてから、送信に躊躇はなかった。これまでため込んでいたモノがはけ口を求めているかのようだ。衝動にブレーキがかからない。
数秒の後、スマホが小刻みに震え出した。画面には「かわせ みずき」の表示。ミズキさんと話したい、なにを伝えたらいいかわからないけど――、とにかく今は話したいし謝りたい。けど、いきなり謝られても脈絡なさ過ぎてミズキさんが戸惑うだろうな……。
いつもはほとんど役に立たない脳内準備をするのだけど――、今だけはなにも考えずに私は緑の受話器マークをタッチして滑らせた。
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