第二章:変革の足音

第7話 農業改革の成果

 パルメリアの主導で始まった農業改革が少しずつ軌道に乗り始め、数か月が経過していた。村では輪作や農具の改良、排水路の整備といった施策が進み、最初は戸惑っていた農民たちも、彼女が現場で丁寧に説明を重ねるうちに、新しい耕作法に慣れ始めている。


(やり方が従来と違えば、混乱が起きるのも当然。それでも地道に取り組めば、こうして成果を出せる)


 ある晴れた日の午後、村の畑では多くの農民たちが忙しく働いていた。耕し直された土は柔らかく、水はけの改善で余分な湿気もなくなっている。夏の初収穫期を迎え、試験的に導入した作物の一部は、従来の品種をはるかに超える実りを見せていた。


「見てください、こんなに大きな豆が採れました!」


 中年の女性が、収穫したばかりの豆の房を誇らしげに抱きかかえて笑う。かつては頼りないさやしか実らなかったはずの作物が、今では一回りも二回りも大きく成長している。その様子を目の当たりにし、周囲からも驚きの声が次々に上がった。


「土が全然違う!」

「こんな大きな作物を見たのは初めてだ!」

「以前のやり方では、こんなに採れませんでした。ありがとうございます、パルメリア様!」


 深々と頭を下げられたパルメリアは、少しだけ苦笑を浮かべた。ほんの少し前までは冷ややかな視線を向けられることも多かったのに、今ではまるで救世主のように感謝される。それでも彼女は、素直にその言葉を受け取ることはせず、淡々と返す。


「いいえ。私が口を出しただけでは成果は出せません。実際に畑を耕したのはみなさんです。胸を張ってください」


「それでも、お嬢様が導いてくださらなければ、こんな成果は到底出せませんでしたよ」


 遠慮がちな言葉に、パルメリアは胸をなで下ろすような気持ちを覚える。確かに喜ばしい成果ではあるが、まだ気を緩める余裕はない。他の地域への普及や税制の見直しなど、課題は山積みなのだ。


(こうして努力を続ければ、領民の暮らしを少しずつでも良い方向に変えられる。もう追放の恐怖に縛られるだけで立ち止まる必要なんてない)


 生き生きと畑で働く村人たちを見渡すほどに、パルメリアの心は熱く燃え上がる。気づけば、もはや自分のためだけに動いているのではなく、領内の人々を豊かにするための改革だと強く意識していた。


 実際、他の村からも「同じ方法を試したい」「新しい品種を導入するにはどうすればいいか」といった要望が次々と届き始めている。土壌改良や品種改良に挑戦する地域も少しずつ増えていた。


「こんなふうに直接助けてくれるお嬢様がいるなんて……」


 そんなつぶやきが聞こえ、パルメリアは一瞬そちらに視線を向けたものの、言葉にはせず手元の報告書へ目を戻した。保守的な貴族たちが、いつまでもこの動きを黙認してくれるとは思えない。今はここで成功例を確かなものにすることが最優先だった。


 改めて畑を見渡すと、どこからともなく笑い声が響いてくる。それを背に受けながら、パルメリアは毅然きぜんと前を見据えた。この光景と人々の感謝こそが、自分を前進させる原動力なのだ――そう確信しながら。

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