第10話
——————今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!——————
「あはははははっ!!」
寝起き早々僕は笑い声をあげてしまった。
もう笑うしかない。
僕の心が絶望感に埋め尽くされていく。
正直お手上げだ……
百歩譲って僕が殺されるのは良い。
だけどこうも家族を狙われるとは……
ただ、今回は2つ収穫があった。
犯人は僕の家族に警戒されていない、または警戒されずに玄関ドアを開けられる人物。
まあ、強盗とかだとどうしようもないけどね。
ただ、僕を殺した犯人と同一人物なら、強盗犯って線はなくなるから、あながち僕の推理は間違っていないと思う。
それともう一つは、どうして僕の入院先を知り得たのか……
もうこれじゃあ、僕の近くにいる人が犯人だって言っているようなものじゃないか……
輝か……
愛理か……
美冬か……
一馬か……
他に誰かいるなら教えてほしい……
誰でもいいから教えてくれないかな……
そう考えなければ、僕は誰も信じられなくなる……
僕は虚無感を抱えたまま、布団にくるまる。
今は何も考えたくなかった。
考えれば考えるだけ、皆を疑いたくなるから。
「悠一、大丈夫なの?朝ごはんはどうする?」
僕が起きてこないことを不審に思った母さんが、心配になって声をかけてくれた。
正直大丈夫とは言い難いけど、心配させるわけにもいかないか……
「ごめん、今降りるよ。先行ってて」
僕はそう言って重い腰をベッドから降ろす。
今までかつてこれほど重いと思えたことはなかった。
相変わらずサイレンがあちらこちらから聞こえてくる。
カーテンから差し込む日差しに気が付いたけど、僕はカーテンを開けることはしなかった。
それにしてもやっぱり気になるな……
どこからか視線を感じる気がする……
それが本物かどうかは分からないけど。
気持ち悪さだけは間違いないと思う。
そうでなければ僕の行動がことごとく読まれるなんてありえないから。
——————臨時ニュースです。昨夜○○県✕✕市の路上で、男性の遺体が発見されました。状況から殺人とみて警察が捜査を開始した模様です。詳細については……——————
やはり朝からこのニュースが流れていた。
父さんも母さんもニュースの内容に不安の表情を浮かべている。
洗面所から遅れてきたルリも同様だ。
「犯人捕まるといいわね……安心して出かけられないもの……それにご近所さんの噂話がねぇ……そうだと決まったわけじゃないのに、聞いているとどんどん不安になっちゃうのよね。悪いことだと分かってはいるのに……」
母さんがどこか申し訳なさそうに項垂れていた。
不安を隠せないのは仕方がないことだと思う。
誰だって町内の人間が犯人じゃ中なんて噂が流れたら、警戒してしまうものだから。
いい意味で人を信じる母さんからしたら、それこそ心が痛いんだろうな。
「そうか、今日は母さんが町内会に出る日か……よし分かった。今日は俺も一緒に行こう。なに、会社にはうまく説明するから心配はいらない」
あれ?今までこんなことあったか?
父さんはいつも普通に会社に行っていたはず……
何かが分かった?
だけどそれが何かは分からない。
僕の今までの行動は、大まかには変わっていないはず。
それなのにここにきて父さんの行動が変わっているのはなぜだ?
僕の行動だけで決まるわけじゃない?
まさか僕以外にループしている人が?
なんて非現実な考えが頭をもたげる。
僕がループ世界に閉じ込められているのに、さらにほかの人持ってなったらそれこそ手が付けられない。
そんな現実離れした世界なんてまっぴらごめんだ。
「ルリは悠一と学校へ行きなさい。出来れば友達も含めていくように。それと帰りは父さんが迎えに行くから、悠一もそのつもりで」
父さんは考えを変えるつもりはないようだった。
僕としても身の安全が守れるなら全く持って問題はない。
ピンポーン
それから学校の準備をしてリビングに戻ると丁度良く輝の到着を知らせるチャイムが鳴る。
さすが輝、いつも通りの時間に到着だ。
「おはよう輝」
「おはよう悠一。あ、今日はルリちゃんも一緒なんだね?」
輝は僕の後ろで準備しているルリに視線を送ると、ニコリと微笑みを浮かべている。
何このイケメンスマイル⁈
僕が女性だったらときめきを覚えたかもしれないが……僕は男性で良かったと心底思った。
「あ、ひ、輝君。お、おはようございます!!」
ルリは緊張したように、声を上ずらせ、頬にイチゴを載せているみたいだった。
これはこれは……もしかしてルリの奴……
「それがさ、朝のニュースみただろ?それで父さんがみんなで学校行けって。これも安全対策って言えば安全対策だしね。途中で愛理の他にもルリの友達とも合流する予定になってる。輝に相談なしで悪いね」
「構わないさ。それに安全に行けるならそれに越したことはないからね」
チリン……
え?なんであの鈴の音が?
僕の心臓が一気に凍り付く思いがした。
慌てて周囲を確認するがそれらしき人物が見当たらない。
フードを目深にかぶった人物がいれば、それこそすぐに見つかるはずなのに。
チリン……
え?どういうことだ。
どこから……
そうして周囲を注意深く探っていると、ルリのカバンについているお守りに目が行った。
そこには交通安全のお守りと共に、同じ色の鈴が取り付けられていた。
「ルリ……そのお守りってどうしたの?」
「え?これの事?」
ルリは鞄を軽く持ち上げると、そのお守りを見せてくれた。
お守り自体は何処にでもありそうな交通安全と書かれたものだった。
「これね、いつも初詣行く神社で、先週から発売した新しいお守りなんだって。それで一昨日友達から貰ったの。可愛いでしょ?」
ルリはそれを自慢するようにニコニコと笑っていた。
確かに水色のお守りと、同じく水色の鈴はルリのイメージにぴったりだった。
ころころと変わる表情と言い、空手の時の凛とした眼差しと言い、水の流れを思わせるから。
ただ、これはこれでおかしい……
前回までのループ世界でルリはお守りを付けていなかったはず……
でもなんで今回に限ってお守りを付けていたんだ?
「確かに可愛いね。ルリちゃんにぴったりだ。お友達もセンスがいいね」
「あ、ありがとう……ございます」
ぎこちない返事に、僕は苦笑いを浮かべてしまう。
我が妹ながら、なかなか難儀だなと。
輝はというと、あまり気にした様子もないみたいだ。
がんばれルリ!!
それから僕たちはいつも通りに通学していく。
「おはよう愛理」
「おはよう、輝君、悠一君。今日はルリちゃんも一緒んなんだね」
愛理は僕たちへの挨拶もそこそこに、ルリに駆け寄ると、朝のあいさつ代わりと、キャッキャとはしゃいでいた。
ルリは愛理を年の近い姉のように慕っていた。
初詣の時も昔はよくルリも一緒にいってたっけ。
今は友達と行くって言って、3人での初詣が定番になってたけど。
ルリと愛理の関係性は変わりないみたいだね。
「あれ?今日はみんなおそろいだね」
「お、ほんとだ。おはようさん」
坂を上り始めると、ルリの友達も合流したんだけど、それとは別に幼馴染の美冬と一馬も合流した。
これもまた初めての状況に、僕は困惑を覚えた。
今まで一馬や美冬とは教室で挨拶していたくらいだ。
それが今回はどうして……
分からないことだらけで、僕は思考を停止しそうになった。
「おはよう一馬、美冬。二人そろってこの時間は早いね?」
「あれ?学校メール見てないのかよ?登校時間が急遽早まったって。ほら例の事件あるだろ?それもあって教師も早出して通学路の見回りをしているらしいぞ?」
そんなメール来てた?
おそらく父さんや母さんに届いてはいたろうけど、僕はそれを確認するすべはない。
それにしても変わり過ぎじゃないか……
別世界にきてしまったかのようだ。
もしこのまま何事もなく過ごせたらなんて期待してしまいそうになる。
でも奴は必ずやてくる。
それは可能性じゃなく、確信に近いものがあった……
「そうだ悠一……あとで渡したいものがあるんだけど」
「なあ、輝。まさかと思うけど……」
輝がそっと僕に近づき、こそりとそう告げる。
こういう時は決まってアレの受け渡しの時だ。
僕はこくりと一つ頷くと、輝と受け渡し場所の詳細を小声で相談した。
「おいおい、二人で何やってんだよ」
僕らが話をしていると、割って入るかの様に一馬がやってきた。
「面白そうな話なら、俺も混ぜてくれよ」
二人の間に圧し掛かるように腕を肩に回した一馬は、ぼそりと呟く。
一馬はニヤリと笑みを浮かべていた。
僕と輝は互いに顔を見合わせると、軽いため息と同時に同じくニヤリとして見せる。
実際問題、一馬はこういった類の話が大の苦手だったりする。
見た目的には、ガタイも大きくスポーツが得意な短髪イケメンだから、免疫ありそうなんだけど、実際はものすごく奥手だったりする。
一馬は美冬にぞっこんの割に、いまだ手をつないですらいない。
美冬も前に言っていたけど、せめて手くらいはつないでほしいらしい……
リア充爆発しろ!!
そしてそんな一馬に輝は鞄から例のモノをチラリと見せつける。
『秘めた花園の誘惑~少女の花の散るころに~』
表紙絵と共に一馬に見せつけると、一馬は一転顔を真っ赤にして目を背けてしまった。
僕は心の中でやめた方が良いのになって思ってしまったのは内緒だ。
それから僕らは何事もなく学校へ向かい、何事も授業を受け、そして何事もなく帰宅してしまった。
そう、何もなかったんだ……
おかしい……明らかに変だ……
僕が殺されなかったなんてありえない。
ここはそう言う世界じゃないのか?
なのになんで僕は生きているんだ?
死ななきゃおかしい世界じゃないのか?
僕の思考がおかしな方に走り始めてしまった。
自分でもおかしいと思っているのに、その思考を辞めることができない。
あぁ、そうか……
〝僕がリセットしなきゃ〟
そして僕はキッチンに向かい……
自分の首を包丁で掻き切った。
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