第6話
——————今日は20✕✕年8月5日の朝です!!朝です!!起きるのです!!——————
「ルリ!!」
僕が目を覚ますと、いつもの光景だった。
いつもと変わらない、僕の部屋。
輝から貰った目覚まし時計がまた繰り返されていることを教えてくれた。
そうだルリ!!
僕は慌ててベッドから飛び起きると、すぐにルリの部屋の扉を開ける。
そこには起きたばっかりのルリの姿が。
僕はそのままルリを抱きしめた。
良かった……ルリ……無事だった……
バチン!!
「ちょ、お兄ちゃん!!何すんのよ!!」
僕の左頬にルリのビンタが炸裂する。
でもこの痛みが現実だと僕に教えてくれる。
本当によかった……
「変態スケベ!!そんなんだから輝さんみたいにモテないんだからね!!」
ものすごく怒っているルリからの、厳しい一言……
そうだよ、輝みたいに僕はモテないよ……
想像以上に心のダメージが大きかった。
人生で初めてだよ、うなだれて地面に突っ伏したのは。
それでもルリの無事を確認できただけでも良かった。
あの犯人は絶対に許さない。
今でも僕の脳裏に刻まれているルリのあられもない姿が鮮明に思い出される。
それに伴って沸き起こる憎悪と殺意。
それを僕は止めるすべを知らない。
「ちょとお兄ちゃん?どうしちゃったの?ご、ごめん……そんなに痛かったの?」
ルリが勘違いしてしまったのか、半泣きで謝ってきた。
しまった、誤解させてしまったらしいな。
「ごめん、違うんだ。ルリのせいじゃないから。それと僕こそごめんな?」
「いいの、ちょっとびっくりしただけだから」
ちょっとびっくりしただけであのビンタが飛んでくるんだから、今度からは気を付けよう。
僕たちは顔を見合わせると、自然と笑みがこぼれてきた。
あぁ、生きててくれてありがとう、ルリ。
部屋に戻った僕は、慌ててベッドから降りたせいか、ぐしゃぐしゃになった布団類に辟易してしまった。
とりあえず気分転換にとカーテンと窓を開け、空気の入れ替えを行った。
生温い風が部屋に入り込み、うっすらと汗がにじんできた気がした。
窓の外に見える景色は、いつも通りだった。
それから僕らは一階に行きいつものように朝食をとる。
ここでの一コマが、僕の大事な家族との時間だと実感できる。
それだけでもありがたいな……
——————臨時ニュースです。昨夜○○県✕✕市の路上で、男性の遺体が発見されました。状況から殺人とみて警察が捜査を開始した模様です。詳細については……——————
そして流れるいつものニュース。
僕がどれほど気を付けても対応してもいつも殺されてしまう。
本当にこの犯人と一緒なのか……一緒と考えていいのか……
判断材料が少なすぎて判断に迷ってしまう。
ただ言えることは、犯人は学校に侵入する事が容易で、ルリが全く警戒しない人物だって言う事だ。
その姿を思い浮かべると、僕の背中に嫌な汗が流れる。
そんな人物は一部の人間しかいないはずだから……
ルリのクラスメイト?まさか……ね。
とは言えルリのクラスメイトに狙われる理由が分からない。
だとしたら違うのか?
やっぱり物証不足で、どれも推測の域を出ることはなかった。
「本当に怖い事件よね。そう言えば最近近所で猫の死体とか動物の死体が目に付くって町内会でも話題に上がってたわね」
食事が終わるころに流れたいつものニュースを見て、母さんが思い出したみたいだ。
町内会でも少し前から話題に上がっていたみたいだけど、様子見でってことで終わっていたらしい。
それもあってこの事件の犯人がその事件と関連性が有るのでは?って思考に傾いているのかもしれないな。
「そうはいっても、同じ犯人と決まったわけではないんだろ?まずは身の安全を考えていかないとな。幸いにもこうして警察が動いてくれているんだから、数週間の我慢だろうね。」
父さんは僕たちを安心させるためか、いつもよりも少し砕けたような話し方をしていた。
少しだけおどけたように肩をすくめて見せる父さん。
何だかんだで一家の大黒柱なんだなと思った。
「よし、無駄に考えても意味ないし、たまたまあの時間で刺されたんだったら、本当にたまたまだったのかもしれない。今回同じ場所で殺されるなら、犯人の行動に裏があるはず……ってなんか僕、死ぬのに慣れてきてる?」
そう思うと途端に自分の命が軽く感じてしまった。
死んでも生き返る……は違うか。
死に戻るって考えると、僕の命は大分安いのかもしれない。
僕はいつも通りの時間で準備を始める。
ルリがスマホ片手に身支度をしているけど、髪の毛は安定のぼさぼさ……
仕方がないなと思いながら、つい手を貸してしまうのが兄としての性なのかな?
ピンポーン
いつも通りの時間に輝の到着を知らせるチャイムが鳴る。
「いってきまーす」
「あ、お兄ちゃん待ってよ!!行ってきます!!」
慌てるようにルリも玄関を出ようとして、玄関ドアの枠に躓く。
あわや転倒って時に颯爽と駆け付けるイケメン輝。
さすがとしか言いようがないよね。
実は主人公特性がついてるんじゃないの?って思いたくなるようなぐっとタイミングだった。
「あ、ありがとう輝君」
「ルリちゃん、ケガはない?」
これがイケメンのなせる業か⁈って冗談を言いたくなるほどだ。
ルリも顔を赤らめて……ほう……なるほどなるほど……
お兄ちゃんは応援するぞルリ!!
「どうした悠一?」
「ん?なんでもないさ。ルリ、足元には気を付けないとな。」
ルリは「分かってる!!」って少し焦り気味に答えてきた。
よほど気恥ずかしかったみたいだな。
それから僕たちはいつも通りに学校に向かって歩き出す。
途中ハナの行方不明が妙に気になったので、おじさんに気を向けると、前回同様にハナの行方を捜していた。
やっぱり今回もハナは行方不明みたいだ……おじさんは昨日からって言ってたな……
「ん?どうしたんだ悠一……って、あの人ハナの飼い主さんだよね?なんだか元気ない気がするけど……」
「いや、ハナが昨日から行方不明らしいんだ。だからおじさん大丈夫かなって……」
輝は「へぇ~そうなんだ……」って言って黙ってしまった。
輝も実はハナが大好きで、ハナも輝に良く懐いていた。
登校中に出会うと、いつもハナから寄ってきて撫でてほしいとお腹を見せるほどに。
「心配だよな……見かけたら声をかけてあげるくらいしか俺たちに出来ることはないよな……」
「それが僕たちに出来る精一杯ってやつだな」
これについてどうにもできないもどかしさで、いたたまれない感情になってしまった。
これから向かう先に自分の死が待っているのに。
「それじゃお兄ちゃん、私友達と行くね」
「おう、気負つけてな。それと一人で行動しないようにな。それと、知らない人について行かないように。それから……」
前回の事もあり、ルリには余計気を付けてほしいと思ってしまった。
ルリからも、「お兄ちゃんうざいよ?」って返ってくる始末で……
流石にショックが大きかったけど、兄として心配なんだから仕方がないじゃないか。
それから坂を上り始めると、愛理と合流してさらに坂道を登り始める。
やっぱり最初にここに学校を建てようとした人に、文句を言ってやりたいと思ってしまっても不思議じゃないよね?
それから少しして最初と同様に、輝が忘れ物をしたと帰ろうとした。
「それって必要なの?あとで僕が輝の家に取りに行けばいいでしょう?」
「……そっか。確かにそうだね。ごめん、やっぱりいいや」
一瞬考えるそぶりを見せた輝だったけど、僕の提案に納得したのか、結局3人で坂を上り始めた。
ドクン……
来た……またここにきてしまった……
僕の心臓の鼓動が速度を上げていく。
僕の呼吸もそれに合わせて荒くなっていく。
深く吸い込むことができず、浅い呼吸を繰り返す。
うまく呼吸ができない……
ドクン……
もうすぐそこだ……
ここで僕は左側から来た犯人に刺される。
だけど今は左に輝、右に愛理。
この二人を避けて僕を刺してきたのなら、犯人の目的は僕で間違いなくなる。
しかも犯人の行動は徐々にエスカレートしている気がしてならない。
ドクン……
ついにこの場所に来た。
犯人は……いない?
周囲を見回しても、それらしき人影は見当たらない。
「大丈夫か悠一……顔色が悪いぞ?」
「大丈夫?悠一君……つらいなら休んだ方がいいんじゃない?」
二人は心配そうに僕を見てきたけど、今はそれどころじゃない。
犯人がどこから来るか分からないんだから。
そして次の一歩を踏み出した時、僕から安堵のため息が漏れる。
緊張のあまり、肺に目いっぱい空気をため込んでしまったらしい。
そのせいで呼吸も荒くなってしまったみたいだ。
「ごめん……大丈夫だから。心配させたね」
二人とも「そっか」というと、一応の納得を示してくれた。
まずは第一歩……次は学校の廊下。
後者に入るところから、僕の緊張は膨れ上がってきた。
まさに疑心暗鬼……すべての場所、人が怪しく見えてくる。
ガサゴソと鞄を漁るあの女子生徒とか……
廊下の角で何かを見つめている男子生徒とか……
玄関フロアの正面にある職員室の出入り口からこちらを見ているあの教師とか……
「なあ悠一……やっぱり変だぞ?本当に大丈夫なのか?」
「あ、あぁ。大丈夫だ。そう、大丈夫だから」
僕はぎりぎり残ったなけなしのプライドで、消えそうな声で二人に大丈夫と告げた。
でもやっぱり納得は言っていないみたいだ。
それから靴を変え廊下へ向かうと、通学完了している生徒たちが廊下で何か話し合いをしていた。
その行動一つ一つが怪しすぎて、今の僕からすれば何がOKで何がNGなのか分かりづらい状況になってしまった。
そして次の場所……僕の教室手前の廊下。
僕はここで背後から刺されたんだ。
「悠一……保健室行こうぜ?」
「そうだよ悠く、悠一君……」
取り繕う様に愛理は呼び名を普段のモノに戻した。
僕としてどっちでもいいんだけど、愛理的には照れ臭いらしいね。
その場を過ぎても殺されなかった。
ということは、僕は歴史を塗り替えたのか?
これでハナとかが密かると、立場がなくなってしまいそうだ。
それから教室に入ると、特に変わったことはなく、スムーズに授業が消化されいき、ついには何事もなくお昼の時間を迎えた。
僕たちの学校には給食が無く、弁当持参か購買での購入がメインになっている。
僕たち3人はいつも通りに校舎の屋上に向かった。
普段だったら教室か中庭で食べることが多かったんだけど、今日に限って愛理が屋上で食べたいって言い始めた。
まあ、夏休み中の学校だし、いくら人気ナンバーワンの屋上でも人がいないだろうという愛理の予測だった。
到着すると案の定人影はなく、僕たちの貸し切り状態になってるみたいだ。
「やっぱ屋上で食べるご飯はおいしいよね!!」
愛理はご機嫌で昼食を進めていき、あっという間に食べ終わってしまった。
僕はあまり急いで食べる派ではないため、まだ半分くらいしか進んでなかったりする。
ご飯を食べ終わった僕たちは、普段とは違う景色を眺めていた。
手すりがあるとは言え、4階建ての校舎と言う事もあり、下を見ればその高さで足がすくむ思いだ。
それからなぜか輝と度胸試しをすることになってしまった。
輝は僕が高いところが苦手だって知ってて、この勝負を仕掛けてきたんだろうな……卑怯だぞ輝!!
勝負は簡単。
どちらがより怖がらず端まで行けるかってやつだ。
とは言え遊びの範疇だし、柵を超えていこうった話にはならないはずだ。
僕と輝はじゃんけんをし、順番を決める。
見事に負けた輝が先攻、僕が後攻。
二人とも遊びと言う事もあり、わざと怖がるふりをしつつ、徐々に手すりに近づいていく。
すると輝は何を考えたのか手すりに手をかて、乗り越えようとし始めた。
さすがにそれは危険だ。
なんていったって、手すりの先はすぐ空中だ。
幅としても50cmはないはず。
「冗談だって、さすがに俺だって死にたくないしね」
「びっくりさせるなよ……」
僕は輝のいたずらに見事に引っ掛かってしまったらしい。
どうやら愛理は事前に教えてもらっていたらしく、少しバツの悪いと言わんばかりの表情を浮かべていた。
安堵した僕は何の気なしに手すりに手を付いた。
その時だった……
突然支えを失ったかのように僕の身体が傾いていく。
手すりに目をやると、根元が腐っていたのかぽっきりと折れてしまっていた。
どうにかバランスを取ろうと必死にもがくも、僕の身体は急に浮く。
僕はそのまま地面にたたきつけられてしまった。
僕が最後に見た光景は、愛理の泣き顔だった……
ちくしょう……せっかくここまでこれたのに……
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