第6話 不審な男と再会
近づくに連れて確信に変わる。
あの男だった。やっと話が通じる人間に会えて、安堵が胸いっぱいに広がった。
「アハッー、お待たせーした。君がーきていることは感じていたが、他の招待客を案内していたので遅くなってしまった。あまりに広いので驚いただろう。人類700万年の遺物が展示されているから夥しい数なのだよ」
『人類? 20万年くらいではなかったか』
「アハッー、現生人類ばかりではなく君達が旧人、原人、猿人と分類している人類が生きるために使用した遺物が含まれているんだ。ある特定の地域のサルが、岩を使って貝を割って食べたり、木の実を砕いたりして食していることは知っているだろう。
初期の化石人類も似たようなものだった。君達にはただの石ころにしか見えないだろうが長年人類に寄り添ってきた我々には、唯の岩石と人類が使用した岩や石を区別できるのだ」
『この男は何を話しているのか。狂っているのか、ペテン師か。一体誰なんだ』
「アハッー、申し遅れた、私は、示現航≪じげんわたる≫というものだ」
驚いた表情をしているだけで何も言っていないのに心の中を見透かしたように話が進む。先ほどから異常な空間を彷徨よいこれは現実か、それとも自分が狂ったのかと思っていたことも忘れ、またまた狂った男が現われたと懐疑の目を向けた。
「土岐君、君が混乱して疑り深くなっている事は理解できる。近年、初めてここに招待された者に特有な反応だ。一昔前ならおとぎの国、魔法の国で理解してもらえたが、科学が発達した現代で、科学知識のあるものは一様に訝しく思うようだ。心霊現象を信じているものはそれなりに納得してくれるが・・・・・・ 私は、君達の世界と私たちの世界をコーディネートする者だ。それを説明するのは招待した私の責任だからゆっくり話すことにしよう」
「私たちの世界の事を話す前に先ず君達の世界の言葉で君達の世界の事を話そう。その方が理解しやすいだろう。君達の科学レベルでは、世界は縦、横、高さの三次元である事を認識している。時間軸を入れて四次元時空ということもある。
時間は空間と一体化していて歪んだ空間では時間の流れが変化するのだが、君たちにとって時間は、過去から未来に流れるように感じられるだけであって、時間を操作できないので君達は基本的には三次元の住人ということになるだろう。
三次元の住人には二次元を例にとって話すと理解が早い。君達は、空中と水面と水中を区別することができる。縦と横しかない二次元を水面とすると高さの次元を持たない水面に住む住人には空中と水中は認識されないことが理解できるだろう。
水中の物をつかむように君が指をゆっくり水面に突っ込むとどういうことが起こるだろうか。まず一番長い指の指先が水面に触れ、次に長い指の指先が触れ、長い順番に指先が水面に触れ水中に沈んでいくだろう。五本目の指が少し入ったところで止めたとする。二次元の世界の住人にはどのように見えるだろう。
最初に点が現れそれが指の断面に変わり、五回繰り返される。君が水面から手をさっと引き抜いたらどうだろう。住人には一瞬で五本の断面が消失したように見えるだろう。
一本の指を差し込んで素早く右に移動しながら引き抜いたらどうだろう。二次元の住人には円のようなものが高速で移動しながら消失したように感じられるだろう。
三次元の世界では円が円盤に変わる。これと似た現象を君は三次元の世界で聞いたことはないか」
「み、み、未確認航空現象!!」
「未確認航空現象のすべてが我々の世界と関係しているわけではないが、時々意図せずして交わることがある。そろそろ私の正体が判ったのじゃないかな」
「ま、まさかとは思うけれど、今の話を信じるとしたら、あなたは四次元の世界の住人ですか?」
「さすが、アカデミックの世界に身を置いているものは理解が早い。私も招待した甲斐があるというものだ」
「信じられない。本当ですか?」
「うそを言って私に何の得があるというのだね。ここ三次元アーカイブは、君たちの世界におけるアルバムと同等のものである。写真に写った宝石類を持ち逃げしたとしても何の価値もないだろう。
ここにあるものを君に売りつけることはできないし、三次元の世界に持っていくこともできない。ここにあるものを持っていくには別の手続きが必要なのだが、今は置いておこう。私が君を招待したのは、少しでも君たちに過去の埋もれた知識を与え、我々を理解してもらうために来てもらったのだ。私が、ほかの招待客の扱いに手間取ったことは事実だが、君が三次元アーカイブに慣れるための時間を与えたのも事実だ。混乱していることは理解できるが、自分の目と感性でこの三次元アーカイブの壮大さを理解してもらえたことだと思う」
土岐は、普段は人を疑うようなことはしない、典型的なお人よしの日本人の範疇に入ると思うが、それでも示現の言葉を素直に信じることはできなかった。
「疑ってすいませんが、心の動揺を落ち着かせるために、二,三質問をしても良いですか」
「お答えできることなら、なんでも話しますよ。アーカイブ介入へのチューニングが改善して滑舌がよくなってきているので正しく答えられるでしょう」
確かにおかしな男のように見えた示現は、今は、まともな男のようにふるまっていた。
「このアーカイブに入るときに、カーテンで隔離されていた場所を通過したが、その時に、幻覚を生じるガスを嗅がされて、私は、幻覚を見ているのではないのですか?」
「幻覚は、存在しないものが、見えたり聞こえたりする現象だが、多くは人や動物など身近なものが現れる。あるいはそれらが多少変形して現れる。なぜなら脳の記憶にないものは呼び起せないからだ。想像力が豊かで変わった幻視を見る人もいるかもしれないが、全く新しい見たことも聞いたこともないものは、幻視に現れることはないといってよいだろう。今君が幻視を見ているとして、ここに展示されている遺物は、すべて君の記憶の中にあるものだと断言できるかね」
「いや、全く見たことのないものばかりで、本音を申し上げればその真贋さえ判断できません。捏造されたものではないですよね」
「君やそのほかの数人の招待客のために、これらすべてを捏造する労力はいかほどのものなのか、見積もってごらん」
「想像もつかないが、あなたの言葉を借りれば700万年ですか?」
「いいや、それ以上だ!現生人類のほか、複数の化石人類が、種族の生存をかけて血と汗と時間を使って作り上げてきた遺物なのだ。我々は、その遺物を君たち人類が写真を撮って分類しているように三次元的に採取してこのアーカイブに展示しているに過ぎない」
「本当ですか?私としては、思いっきり冗談を言ったつもりでしたのに」
「すぐには信じられないかもしれないが本当だ。このアーカイブは、君たちの世界の写真集の一つと同等なものに過ぎない。ほかにも、たとえば、5億年以上前のカンブリア大爆発のアーカイブでは、ここ以上のものが見られし、38億年前から続くバクテリアのアーカイブでは、数多の数の属と種が、分類展示されている。
地球上のすべての現生生物すら把握していない人類にとっては、途方もない数といえるだろう。人類史に関係する複数の招待客がいたので、このアーカイブを選んだのだが、容量が大きすぎたようだ。もう少し小さなファイルにすべきだった。申し訳ない。ただ、このアーカイブでは、君たちの世界で本のページを指でめくるように、心に見たいものを念じることでほかのファイルへ、あるいは、ゾーンへ移動できるようにしてある。
600万年前のアフリカゾーンから4000年前の中国ゾーンに君が移動したのはそういうことだよ。慣れると見たいものにすぐに近づけるだろう」
「本当に途轍もない話で、正直すぐには納得できません。落ち着くまでもう少し質問をしていいですか?」
「質問と議論は学者の習性みたいのものだし、ここに招待する人間は、アカデミックに携わっている人ばかりだ。一般人を招待しないのは、秩序だった議論をしても混乱するばかりで、堂々巡りをするからだ。不合理だと思うなら、どうぞ納得できるまで質問してくれ。私を信じてもらえないのなら、本当に話したいことを伝えられない」
「あなたを信じていないわけではありません。現実からの乖離が大きすぎて、心の整理がついていないだけです。一つ一つ説明してもらって、三次元展示物の概念が分かってきました。我々の世界における百科事典のものだと解釈すればよいのですね」
「そう思ってくれて構わない」
「では、なぜこれを見せるために、私を招待したのですか?」
「それは、我々は表裏一体の存在だからだ」
「人類とあなた方が表裏一体?」
「そうだ、先ほど説明したように二次元の住民は、三次元の住民を感じることはあるだろうが、実態として認識できない。同じように三次元の住人は我々四次元の住人を感じることはできても、実態としてつかめない。人類の多くの人が、我々の存在を認識していないのだ」
「感じることはできても認識できない? あなたは神なのですか?」
「我々に神という概念はない。我々の存在は、五次元時空における意思を持った素粒子といえるだろう。例えるのが難しいが、意志を持った雲のようなものだ。形があって常に変化して、いつか消失したとしても意思は存在してまた新たな形を作る。そのような存在なのだ。そしてその存在範囲は、三次元の世界を薄皮のように取り巻きつつ三次元を内包しているのだ。人類は宇宙では小さい存在だ。だが、その小さい存在が惑星一つ破壊するまでの力を持ったのだ。
人類の科学発展は、遠くの銀河内の超新星爆発を観測できるまで進歩した。それは、同じような観察をしている知的生物がいれば大気圏内核実験は観察され、人類の存在を認識しているものがいるということだ。その存在が、友好的であれば、不平等条約を結ぶだけで済むかもしれない。しかし、三次元の生物は、基本的に弱肉強食だ。食物連鎖を否定することはできない。その存在が、肉を求めて地球に訪れた場合、家畜の定義はいろいろあるが、人類自身が家畜化している現状では、地球上の最大多数の家畜は人類となるだろう。これは一般論であって、警告ではない。
人類は、ほかの存在に無頓着過ぎるということだ。現在、人類は、宇宙が九次元でできていると考えている。三次元に存在する人類は他の六次元を観察できないのだから身近にコンパクトに折りたたまれていると解釈しているが、二次元の住人が三次元を理解できないように、三次元の人類は、四次元を十分に把握できていない。
ただ、四次元の空間距離を計算する方程式は発見できていないが、方程式を解かなくても解の性質が分かるようになってきている。
また、三次元空間で起きている重力現象を二次元の壁に投影して表現することができるように、次元の低い住人であっても、一つ上の次元を観察機器の工夫よって理解することができる。
ホログラムは、三次元の立体像を二次元の平面上に記録した干渉縞によって再現する方法だが、重力のホログラフィー原理を利用して、人類は少しずつだが、四次元空間を理解し始めている。
我々は、九次元のうちの四次元以下の次元を理解しているのに過ぎないのだから、この大宇宙を理解していると言えない。君たちが、二次元アニメから知識を得るように我々も三次元の人類から知識を得ている。その知識を利用した方が理解しやすいだろう。
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