第41話 鳳凰との対峙
「千鶴って、今日はリコリス寮の子のところに行くの?」
「え、えっと……。あれだけ誘われたけども、やっぱり気まずいというか……。あんまり行く気は湧いては来ないんだよね……」
放課後になり、彩芽と話していると、予想通りアイツがやってきた。
姫宮は二学年の教室にズケズケと入ってくると、私の机に一直線にやってくる。
「おい、行くぞ! お姉様が待ってるから!」
机越しに睨んでくる姫宮。
まるで喧嘩を売られているみたいだ。今からなにをしようかって言うと、仲良くお勉強をするのだと思うのだけれども……。
「逃げるんじゃねぇぞ? 逃げたらどうなるかわかってるのか?」
なんだか、体育館裏にでも呼ばれているような。
決闘する気なのか、それともリンチでもされてしまうのか……。
絶対に行きたくないという気持ちしか湧いてこないけれども……。
「鳳凰お姉様は、勉強できるから。絶対に、千鶴の力になるはず!」
口は悪いけれども、姫宮なりに私に借りを返そうとしてくれているのだと思う。
悪いことなんて、一切考えていない真っすぐな瞳。その純粋さが、私に突き刺さる。
「……ちょっと苦手だけど、藁にもすがりたい気持ちはあるよ」
「なら、行くぞ!」
強気な姫宮に手を引かれて、私はリコリス寮へと連れていかれた。
◇
「咲子、これはどういうことだ? どうしても勉強を教えて欲しいっていうから早く帰ってきてみたら、なんでコイツらがいるんだよ」
私たちの方が先に部屋に着くと、あとから鳳凰が帰ってきた。私が答える前に、姫宮が答える。
「私が連れてきました。コイツら、次のテストで成績上げないと部活できないらしくって……」
「だからなんだ?」
相変わらず、鳳凰は人当たりが厳しいようだった。妹だろうと分け隔てなく厳しい。
姫宮を睨んでいたかと思うと、こちらにも睨んだ顔を向けてきた。
鳳凰が言わんとすることはわかるけれども、半分は私の意思で来たようなものだ。だから、私が言わないとダメだろう。鳳凰は、筋を通さないと納得しない性格だと思う。
「鳳凰、私に勉強を教えて欲しいです。どうしても、成績を上げたい」
真っ直ぐ見つめ返し、素直に教えを乞う。
私にとっては、昔のことなんてどうだっていいし。それよりも、これからの未来のことが大事。舞白と一緒に学園生活を送れるように。
そのためだったら、なんだってする。
苦手な相手に頭だって下げる。
「お願いしますっ!!」
精一杯のお願いをする。
鳳凰に教えてもらったとしても、成績が上がるかはわからない。教え方が下手なことだって、相性が合わないことだってあるかもしれないし。
けど、出来ることは全部するって決めたから。
私が膝をついて、土下座をしようとすると、鳳凰がそれを制止した。
「そこまでしなくても、教えてやるよ」
鳳凰は笑ってこそいないが、少し優しい表情になったように感じた。
「なにがそこまで必死にさせるのかはわからないけど、一生懸命なヤツは嫌いじゃないからね」
鳳凰のことは全然わからないままだし、仲良くなりたいとも思わないけど、本当は優しいヤツなのかもしれないな。
「ありがとう」
私と鳳凰は無言で見つめ合うと、少しわかり合えた気がした。
そこに、姫宮が割り込んで入ってきた。
「お姉様。最近、『お風呂勉強法』っていうのが流行っているらしいのです。こんな千鶴でも成績がメキメキ上がってるらしくて。せっかくならやってみませんか?」
私と鳳凰は同じ顔をしていた。
姫宮の顔を、ギョッとした顔で見つめた。
この雰囲気で、風呂に入るって言ってるの?
空気読まないにもほどがあるでしょ、姫宮……。
だが、鳳凰はなぜだか表情が少し緩んでいた。
「風呂に入って勉強するのか? まぁいいか。白川とは腹をわって話したいと思ってたし」
「……えっ?」
意外な言葉にびっくりしてしまった。
腹の底から、驚きの言葉が出ちゃったよ。何言ってるんだ、この二人は……?
「私も、髪のことは悪いと思ってる。身体でも洗い合って、文字通り水に流してくれないか?」
「い、いや。私と舞白でおソロになったから、大丈夫だよ。気に入ってるよ、この髪型? 償いの気持ちあるなら、勉強教えて欲しいんだけど?」
姫宮はコソコソと鳳凰に告げ口をする。
「お姉様、お風呂で勉強するのが一番効率良いらしいです。一緒に勉強しましょう!」
「おう、わかった。お前の言う通り身体を洗いながら、教えてやるよ。これも償いだと思って受け入れてくれ」
……あれ? どうして、そうなるの?
……勉強できるのは嬉しいけど、なにかおかしいぞ?
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