第22話 舞白の家

「お姉ちゃん、今日行くよっ!」

「はぁー……? どこ行くの……?」


「私の家っ!!」


 朝一でそんなことを言ってきた舞白。外はまだ暗いというのに、早起き過ぎるでしょ……。


「……今日行くって言われてもさー。そんなの学校終わってから教えてよね。今何時なのよ……」

「違うの。今から行くの! お父さんの予定空いたからって、呼び出しがあったのっ!」


「……んー、はぁ?! 舞白のお父さんって、勝手過ぎない?」


 いつもは寝起きの悪い舞白なのに、逆に私が叩き起こされるっていう。そんなに、お父さんに会うのに緊張しちゃっているのか?

 親子で久しぶりに会うっていうんだから、もう少し気楽にして欲しいのにな。


「……あれ?……っていうか、今日って平日じゃないの? 学校は?」

「学校は休む。今日しかチャンスがないんだよ!」


 舞白の真剣な口調と顔。

 段々と舞白のことがわかってきたけれども、こういう時の舞白は本気だ。


「うーん、まぁいいけど……。変なお父さんだね……」


 本当は外出届が必要なんだけれども。緊急事態ってことにして、柊お姉様に後で出しておいてもらおう。すっごい怒られそうだな……。



 ◇



「う、うわぁ……。何このお屋敷?」

「んっ? これが、うちだけど?」


 舞白の性格とか考えて、私と同じく『団地住まい』かと思っていたんだけれども……。


 どデカいお屋敷へと案内された。

 西洋のアンティークのようなゴージャスな門。身長の二倍以上もあるような、見上げちゃうくらいの大きさ。


 柊お姉様の自宅にもお邪魔したことがあるけれども、それよりもすごいお屋敷なんてあるんだ……。



「あのさ、舞白ってさ。私と同じじゃなかったの……?」

「えっ? どういうこと?」


「てっきり、私と同じ境遇かと思っていたのだけれども……?」

「勝手に勘違いしてただけでしょ?」


 そう言われれば、舞白って飛び級なんだよね。

 それってもしかして、教育に必要十分のお金を掛けられて英才教育で育てられたのかもしれない。そのくらいの頭脳を持っているわけだし。


 よくよく考えれば、出生が悪くて、この可愛さなんてあるわけないか……。



 門の前で呆然と立ち尽くしていると、舞白は人差し指を口に当てて「しー」って言ってくる。


「……このことは、他のお姉様たちには内緒でお願い」


「えっ、なんで? 舞白自身がこんなにお嬢様なのに? 他の寮のやつとか、ビビッて舞白に喧嘩売らなくなるよ、きっと!」



「……うん、そういう目で見られるのが嫌なの。生まれとか、そういうの関係ないじゃん。一人の人間として見ていて欲しいっていうか」


 舞白はしゅんとなって、うつむいてしまう。お金持ちには、お金持ちなりの悩みがあるのかもしれないのか……。


「だから、千鶴をここに連れて来たくなかったし……」


 舞白の気持ちを素直に受け入れたい気もするけれども、ただテンションが上がてしまうことは抑えられないな。


「内緒にはするけどさ、やっぱりすごいよ?」


「はぁー……」




 舞白は溜め息とともに門の隣にあるチャイムに手をかける。すぐにインターホンから声が聞こえて来た。


「舞白お嬢様ですね。お待ちしておりました。いま、お開け致します」


 大きな門は、自動で中へと開いていった。

 もしかすると、そこらかしこにカメラが付いているかもしれない。それか、舞白に発信機でもついているのだろうか?

 すぐに舞白が本人だって判断できちゃうらしい。


「それじゃ、いくよ! 気合い入れてね!」

「……うぃ!」



 門の中に入ってみると、これまたすごい。

 まず驚くのは、中庭がとても広いこと。門から屋敷までの道のりがやけに長いのだ。道の周りにある芝生だって、綺麗に整えられていること……。


「あのさ、なんで都心の一等地に、こんな屋敷が立てられるわけよ」

「うっさいなー。知らないよ!」


 舞白は、やっぱり家のことには触れられたくないらしい。プリプリと怒った口調で言ってくる。


「お父さんとアポイント取れた時間に遅れるわけにはいかないからね。早くしてね」

「はーい」


「あと、お父さんの前で、そんなに浮かれた風にしてたら許さないからね!」



 舞白から再びくぎを刺されると、少し早歩きで屋敷へと向かう。屋敷の前には、専用のメイドさんらしき人が立ってた。


「お嬢様。おかえりなさいませ。お荷物お持ち致します」

「はいはい。そういうのいいよ、もう。早く案内して」


 舞白が断ると、メイドさんは私の方へと向いてきた。落ち着いた仕草で手を差し出してくる。


「お嬢様のお友達ですので、丁寧に対応させて頂きます。お荷物お持ち致します」

「あ、はい」


 言われるがままに、私は荷物を預けた。

 舞白は、なおもプリプリしているようだった。


「この人は、私の一番大事な人だからね。丁寧にしてね!」

「はい。かしこまりました」


 照れる舞白に、メイドさんは優しく微笑んでいた。

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