冷酷公爵の溺愛はチョコレートのように甘くなる〜婚約破棄したら溺愛がはじまりました〜

葉南子@アンソロ書籍発売中!

第1話 餞別の義理チョコです

 甘くてとろけるチョコレートの香り。

 ふわりと混ぜた生クリームに、ほのかに感じるバニラの匂い。そして口いっぱいに広がる幸福感。


「……できた!」


 木製のテーブルに並べられた小さな生チョコを見つめ、私はふうと一息つく。

 様々な材料を駆使して、ようやく完成させた手作りチョコレート。

 けれど、ひとかけらの愛情も混ぜてはいない。


 ──このチョコを餞別せんべつにするんだから。


 私は決別の真心を込めて生チョコをラッピングした。


 *


 私は「冷酷公爵」と呼ばれているエヴァン=ベルメールの婚約者だった。

 もともと私たちの間に愛なんてない。

 政略ともいえる婚約に、冷酷と呼ばれる男の妻。


 ──もう無理!


 と、我慢の限界にきた私は考えたのだ。


 ちょうどこの日は二月十四日。

 異国の地では「バレンタイン」という日なのだと、何かの本で読んだことがある。

 そのイベントにあやかって、というわけじゃないが、女から贈り物をするのにはちょうどいい日だろう。

 

 ──せめて最後くらいは礼儀正しくしなきゃね。


 そう、これはただの餞別なのだ。


 私はこの日、婚約破棄を切り出すつもりでいた。

 最初で最後の贈り物。だからこそ、心を込めて贈りたかった。


 ──すんなり「はい、よろこんで」とでも言ってくれれば楽なんだけどなあ。


 そんなことを考えながら、私は婚約者のいる執務室へと向かった。

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