男女比がおかしくなり貞操観念も逆転した世界で女の子たちをからかいたい

エティ

第1話 ママと申したか!?



『ブブブ、ブブブ』


 ベッドの小物置きにあるスマホがバイブしている。木の素材の上でスマホが振動しているからか、バイブだけでもそれなりにうるさい音は鳴る。



 いつもこの音で一日が始まる。



「ふわぁ……ねむ」


 相変わらず触ってあげないといつまでもぐずっているスマホに手をやり、アラームを止める。


 まだまだぽかぽかのベッドで眠っていたい選手とそろそろ起きなければいけない選手がリング上でファイトしているが、惜しくも膀胱限界です選手が起きなければ選手に加勢し始めたので、眠っていたい選手の敗北が濃厚となった。


「……さむ、はぁトイレいこ。……ん?」


 ベッドから起きた俺だったが、ふと視界に映ったいつも通りの自室の風景に違和感を覚えた。



 ……何かが足りない。けど、なんだっけ……。



 んー、まぁ後でかんがえよ。今はおしっこ、おしっこ。


 自室のドアを開け二階のトイレに行き、今日一発目の弧を描く。


「ふむ……。今日も良い色をしておるな。健康で結構」


 シモの用事は済ませて、今度は顔周りの用事をこなすため、一階の洗面台へ向かう。


 こう寒いと顔を洗うのが億劫でたまらん。水がお湯に変わるまでの間に出続ける水も勿体無いが、他に手は無いしなぁ。


 とかなんとか思いながら、一通り朝の用事を終わらせリビングへ向かう。


 すでに母ちゃんと弟は起きているようで、リビングからは二人分の物音が聞こえる。おそらく父ちゃんはもう出勤しているだろう。


 俺も早く朝ご飯を食べて、登校の支度をしないとな。


 そんなことを思いながら、リビングのドアを開けた。



「え……。りっくん……? どうしたの?」


「お兄ちゃんがこんな朝早くにリビングに……」


 とんでもなく可愛い女性が二人して、リビングに想定外の生物が入ってきたかのような反応をした。


 てか、お二方とも誰?


「あの……。どちら様ですか?」


 状況が分からず、混乱しながらもとりあえず大人の女性の方に質問してみる。


「りっくん? 何言ってるの、ママだよ? ママのこと忘れたの?」


 キッチンに立って朝ご飯を作っている二十代後半(推測)の茶髪の女性。おっとりしてしていそうで、全男子の理想のママを体現したかのような聖母に似たお方が不安そうな表情でそうおっしゃった。


 え、ママ!? ママと申したか!? 俺の母ちゃん、こんな美人でボインなママだったっけ!? ご近所に俺を紹介するときは、肩バシバシ叩きながら俺の恥ずかしい過去を暴露する肝っ玉母ちゃんだったんだけどなー!? いつの間にこんな甘やかし属性MAXな美人に生まれ変わったんだ?


 想定外の回答に余計に困惑していると、ソファでくつろいでいたもう一人の女性が立ち上がった。


 こちらの方も『アイドルのトップやってます!』と言われても、なんの疑いも持たないほど顔が整っている年下(恐らく)の女性。サイドテールにした聖母と同じ色をした髪を微かに揺らしながら恐る恐る近づいてくる。


「お兄ちゃん……? ママのこと忘れたの?」


「お兄ちゃんって俺のこと?」


「もちろんそうだよ」


 何故か俺のことを兄だと言ってくる『アイドルのトップやってます!』って言ってきそうな……とりあえず、呼び名はアイドルさんにしておこう。もう一人は聖母様で。


 アイドルさんは俺のことを兄だと言う。もちろん俺に妹などいない。両親に俺、弟の四人家族だ。


 それがいつものリビングには、俺のママだと言う聖母様とお兄ちゃんと呼ぶアイドルさんが占拠していた。


 どう言うこと? 弟と母ちゃんはどこに行った?


「いや、俺には妹はいない。弟ならいるんだが……。ゆうはどこいった?」


「え、目の前にいるでしょ? 私、優羽ゆうだよ?」


「俺が探してるのは弟の悠。間違っても貴女みたいな可愛いの頂点に君臨するアイドルさんじゃない」


 そう言った途端に、目の前のアイドルさんが分かりやすく頬を染めて俯いた。


「わ、私のこと可愛いって……? は、初めてそんなことお兄ちゃんから言ってくれた……」


 ちょっと冷たくあしらってみたが、不思議な反応を見せるアイドルさん。


 それより、弟は? まだ登校の時間には早いから、家に居るはず。


「ゆうー? ゆうー! まだ寝てんのかー!? リビングにめっちゃ美人な女性が二人もいるぞ! 早く降りてこーい!」


「「美人!?」」


 リビングのドアを開けて、二階に向けて叫んでも、全然反応がない。


 まだ寝てるのか、仕方ない。起こしに行きますか。


 大股で二階に登り、弟の部屋のドアを開ける。


「悠! 起きろ……。……は?」


 弟の部屋のドアを開けたつもりが全く見覚えのない部屋だった。


 白とピンクを基調とした家具で揃えられ、ベッドには可愛らしいぬいぐるみが何体か鎮座し、おまけに鼻腔をくすぐる甘い花の匂いがする。弟の部屋とは遠くかけ離れたものだった。


「なんだこの部屋……。こんなのまるで女の子の……」


「どうしたのお兄ちゃん、私の部屋なんかみて。あと、いっぱい私の名前呼んでくれるけど、優羽はここにいるよ?」


「あ、アイドルさんの部屋? い、いやここは弟の部屋……。ま、まさか他の部屋も!?」


 弟の部屋がこんな風に変わってしまったのなら、他の部屋もおかしくなってるんじゃないかと思い、母ちゃんと父ちゃんの部屋も確認する。


 母ちゃんの部屋も知らない部屋になってる。父ちゃんの部屋なんか物置きになってるし……。


 どうなっているんだ……。



 一応俺の部屋、トイレ、バスルームなど誰かの部屋以外も確認したが、そこは変わりなかった。いや、俺の部屋だけやっぱり物足りない感じがあるんだけど……。


「母ちゃんがめっちゃ美人な聖母様になって、弟がアイドルのような妹になって、みんなの部屋も一日でできない規模の模様替えしてて……。もう意味分かんない。何、ドッキリなの? 民間人狙いの無差別ドッキリか?」


 キョロキョロ家の中を見回してカメラを探すが、見つかって欲しいのにカメラなんて当たり前に無かった。


 自室の前で混乱して蹲っていると先ほどの聖母様とアイドルさんが心配そうな顔つきをしていた。


「りっくん大丈夫? 何があったのか分からないけれど、ひとまずリビングで落ち着こ? ね?」


「……そうですね。俺も聞きたいことが山程ありますので、行きましょうか」


「なんで敬語!?」


 だって、初対面ですし……。



 少し落ち着いたことで敬語を使ってみたが、それによってお二人がショックでフリーズしてしまった。


 いずれ復活するだろうし、先にリビングで待っておくか。



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