第20話

「女の子ですよ」



 そう言われて、聡美は小さく笑った。

 待合室に戻ると、座っていた尾高が立ち上がって傍に寄った。


「女の子だって」

「……そうか」


 尾高は笑うと、聡美の肩を抱いて外に出た。

 車の助手席のドアを開ける。

 ふっくらと目立つお腹を、両手で優しく包み込むように座る聡美を、優しく抱きしめる。


「幸せにしよう。俺たち2人ならきっと大丈夫だよ」

「……そうね」


 聡美は黙って目を閉じた。





 ――互いに感情的になった夜。

 家を出た尾高が帰宅したのは明け方だった。


 聡美が、自分の母親の事を尾高に話したのは、その時が初めてだった。



 母親になるのが怖い。

 自分も母と同じ感情を持ち、母と同じことを我が子にしてしまうのではないか……そう思うと恐ろしくてたまらない――そう正直に打ち明けた。



 子供が欲しかったわけじゃない。

 でも事実は事実として受け入れなければいけない……

 尾高への愛も、我が子への愛も。

 なにもかもが疑わしく思えて自信が持てない。


 こんな気持ちで、自分は本当に母親になれるのだろうか?

 母になる資格があるのだろうか?


 ありのままを、隠さずに聡美は打ち明けた。

 初めは驚いていた尾高だったが、それを聞いて頷くと、


「聡美だけじゃないよ」


 と、素直な気持ちを打ち明けた。


「俺だって不安だよ。でも、みんなそうじゃないの?最初から自信満々な奴なんていないよ。初めはそう思ってても、産んだら変わるんじゃないかな?」

「そうかな?」

「聡美はお母さんとは違うよ。だって、子供の気持ちが分かるんだから……」

「……」

「自分がされて嫌だったことを、子供にはしないだろう?それが分かっている聡美は、お母さんみたいにはならないよ」




 聡美は大丈夫――



 そう言って、尾高は優しく聡美を抱しめた。

 聡美のお腹の中で、小さな命がトクン、と跳ねたような気がした。


 自分の心音と重なる様に、トクントクンと跳ね続ける。


 トクン

 トクン

 トクン

 トクン



 命の鼓動を聞いて聡美は強く、産もう――と決意した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る