元・ひねくれ防御術士はなにもしたくないのに
@oomaguro
第一章
第1話 元エリート、無敵の人と化す
「ミーシャ。君には今日限りでパーティを抜けてもらう」
リーダー・キラザの言葉を聞いた時の私は、それは大層間抜けな面をしていたと思う。
「はい。……はい、え?」
あまりにも突然の通告に、内心の動揺を悟られないようつとめて冷静に。
小柄な自分と比べてゆうに三周りは大きいであろう、屈強な勇者を見上げる。
我らがリーダー、Aランク王選勇者第7位たるリーダー・キラザは、感情のない目でわたしを見下げている。
ちらりと奥を見れば、気まずそうに屈強な巨体を揺らす彫りの深いの男のタンク戦士と、うつらうつらと舟をこいでる攻性呪文担当の女魔術師。
こういう時に大騒ぎしそうな魔獣使いは、今は斥候という名の使い走りでいない。
それはまあともかく、誰も余計な助け船を出してくれるつもりはないらしい。
「理由が聞きたいか。一つは、王都から本物の聖女様が援軍が来るのが大きいな、魔法省の公認補助・回復術師も何人も来る。君自身の要因としてはそうだな、自分で考えてこその成長だと思うのだが、まあいい。まず君は戦闘においては防御しかでいないが、それだけではここから先、役割がない。生活術式を担当していたって?あぁ、あんなのはやろうと思えばだれでもできるんだよ。そもそも君は攻性術式の才能がからっきしで----------」
思いのほか饒舌に喋り出した我らが勇者様。
朗々となんか言っているが、残念ながらわたしの耳には右から左だ。
攻性魔法もまともに使えない未成年が、こんな魔王領の只中で突然の別れを言い渡されているのだ。
見た目というか脳神経回路まで物理的に少女のわたしに、平静を保てというのは酷な話だ。そうに違いない。
「……そして何より、体力がない。君に合わせて進んでいては、そろそろ他のパーティや帝国軍に先を越される。一言で言えば、もういらないんだよ」
「わたし」は、ミーシャ・ゼレンディアは、勇者様のありがたいお言葉を受け流しつつ、心の内だけで魂の叫びを放つ。
(……や)
震える拳を、なんとか押さえつけて。
(や、や、や、やったぁぁぁぁあああああああ!!!!!)
──
というわけで、どうも、初めまして。
「わたし」の名前はミーシャ・ゼレンディアだよ。
苗字は拾ってくれた教会の名前で、名前はそこのシスターから貰ったものだ。
名前のほうは本当はもうちょっと長ったらしいけど、とにかく周りからは縮めてミーシャと呼ばれるよ。
リーダー・キラザ率いる帝国公認冒険者パーティの防御・補助術式使い。
ランキング急上昇中の『冒険者』パーティの一員だ。
「自分」の年齢もはっきりしないのは、この世界にわたしが最初に来たのがいつか、正確にはわからないから。
記憶にある『前世』では、「私」はくだらない企業でくだらない出世争いをしていて、気付かぬうちに出世レースで蹴落としていたらしい壮年の先輩氏に、夜道で襲われあえなく死んだ。
わたしが当時28かそこら、その先輩様が50いくつかの年齢だったと思う。
その時は刺されたことをそれなりに怨みもしたが、振り返ればそれなりに迷惑もかけてきたし、去年急逝した親父のことで人は死ぬときは死ぬ、ということも感じてはいたから、死んでから純白のローブ一枚の超絶美少女(後光付き)の前に立たされた時は一週回って変な笑いが出た。
神様、いたのか。
やるじゃないかゴッド。世界がお前の創作物なら、事実は小説より奇なりという言葉も面目躍如というものだ。
そんな感じでヤケクソで煽り散らかしていたら、案の定神の怒りに触れたらしく、こっちの世界に落とされた。
なにやら、「そんなに言うならすんごい神の奇跡を授けてやる」「適合車でなければこの場で細切れにしてやるんだからね」「神の力をもってしても世の中の悲哀すべては救えぬことを痛感なさい」みたいなことを涙声で言われたが、よく覚えていない。
現世の頃からどうにかして会議を長引かせようと腐心する御年配方には辟易したものだったが、聞く価値のない言葉というのは、悲しいことに神の御前にすら存在したようだ。
ともかくめでたく異世界に落とされた「私」は、「わたし」としてこの世に二度目の生を受けた。
それまでよかった(?)のだが、明らかに新生児のわたしを無人の森の中に落としていったのは、ゴッドさんサイドのせめてもの嫌がらせだったのだろうか。
もっともこちらで暮らしていくうちに前世の記憶なんてものはほとんど消え、わずかに知識のようなものがぼんやりと残るだけなので、実は刺されたことなんかも実感はない。
かろうじて近くの教会に拾われ、素寒貧の清楚系小娘らしく質素かつ敬虔に生活していたら、こんどは教会が村ごとゴブリンと火炎蜥蜴と盗賊に襲われ、家族に等しい人たちはみな焼け出された。
わたしも死を覚悟したところに、通りがかった駆け出し勇者パーティ------今の仲間たちだ-------に救われたのが、今となっては運の尽きだ。
なにやらわたしを気に入ったらしい勇者様が、焼け野原でへたり込んでいたわたしを、半強制的に召し上げたのだ。
その時は無意識に垂れ流した力だけでゴブリンを寄せ付けなかった魔力の高さを買われた、と説明されたけれど、本当のところは親しい人を失い、焼け野原で座り込んでいたわたしを気まぐれに憐れんだだけなのだろう、と、年齢相応にデバフを受けていた思考回路なりに察したのを覚えている。
それが多分、7か8歳の頃だ。それからは地獄だった。
なぜって、普通に当時Cランク相当のキラザのパーティになんの戦闘スキルもない幼女が連行されてるんだ。
そりゃもう何度も死にかけたし、普通に死んで復活させられたことも両手の指じゃ足りないくらいにある。
一応タンク役の重戦士はいたけれど、なにもできない幼女の優先順位は当然低く、守ってもらえずダンジョン内に放置なんてこともざらだった。
文字通り必死に覚えた防御と回避の技術がある程度ものになり、日常的に半死半生の目に遭わなくなるまで5年かかった。
何で生きてるのか、自分でも不思議だ。
話を戻そう。
教会で暇つぶしに読んだ魔導書の中身を転用した防御・補助系統の術式が、他人にも使用可能だと気が付いてからは、わたしのパーティ内での役割は大きく変わった。
防御・補助系統のいわゆる【青色術式】を(うろ覚えでこねくり回したから原型はないけど)、戦闘中のキラザたちにひっきりなしにかけて周り、死なないようにバックアップをする。
これでまあまあパーティの損傷率、撤退率が下がり、わたしは仲間内の雑用係兼炊事係兼防御術師として一応の立ち位置を得た。
とはいえ、死ななくなっただけで、クエストや魔王領遠征、ダンジョン漬けの生活は劣悪の一言だった。本当にひどかった。本当に。
物語の主人公のようなヒロイックでサイケデリックな成功はいらない。今度こそのんびりとした仕事について、それなりでいいからストレスフリーの生活をしたいのだ。
そう心に決めてからはもう、死に物狂いで努力した。味方全員を保護する範囲守護術式から、吶喊用の威力防壁、ステルス、スケープゴートの術式。効率的かつ強固な身体強化術式の開発。
我ながらブラック企業時代もかくやという勢いで研究を進め、死にかけた数が40を超え、魔術についての脳内ノートが200冊を超えた頃、わたし独学理論はある程度の体系をなし、国内でも一目置かれる冒険者パーティの一翼を担うまでになっていた。
英雄の三歩後ろで甲斐甲斐しく防御・強化術式を振りまく様子と、それはもう非常に大変とっても愛らしい容姿から、いつしか『安楽椅子冒険者』だの『暗黒のフィクサー』だの『キラザの白い影』だの『白衣の悪魔』、ありがたい二つ名までついた。
……………………。
トレードマークの長い銀髪に、高い魔力で自然に防護されて日焼けのない肌、防御術式の概念強化のための白基調の改造法衣。そんな白ずくめの女に、よくもまあここまで悪意マシマシのあだ名をつけられるものだ。ギルドでそんなふうに呼ばれていることを知った当初は、ずいぶん憤慨したものだ。最後のに至ってはわたしの姿見たことないだろ。
とまぁ、そんな感じで、さっさと魔王をぶちのめしてくれよ前衛殿と後方で旗をぶんぶん振っていたら、冒頭の通達につながったのだ。
今世の「わたし」はミーシャ・ゼレンディア。
元・Aランク、リーダー・キラザのパーティの一員にして、現在無職。
無敵の人だ。
「うーっ、くぅぅ……!!」
魔王領手前のなんとか言う名前の広大な草原で、わたしは一人、大きく伸びをする。
往路はそれなりに強力な魔物の度重なる襲撃にげんなりしたものだが、復路はこんなにも晴れがましい。
一人、一人だ。
もう魔物を見つけてもわざわざ戦わなくていいし、夜中に他人の寝床に気を遣わなくていいし、自分の防御に隙を作ってまでアホ共の状態に気を配らなくていい。
空を見上げれば春の陽気が優しく降り注ぎ、さわ、と乾いた風が全身を打つ。
長い銀髪がふわりと後方に流れて、首元に気持ちのいい陽風が吹き込んだ。
「なんだ、この平原ってこんなに明るかったのかぁ!うん、いいな!やるじゃないか世界!!あは、あはははは!!」
どうせ一人だ、誰に憚ることもない。
気分は戦争映画のラストシーンだ。両手を伸ばしてぐるぐると回転し、全力で春の陽気を享受する。
いかん、幸せ過ぎてなんかちょっと涙出てきた。
自由、自由かぁ。
もう戦わなくていい、もう魔王に向かっていかなくていい、もう仲間たちに頼られなくていい。
何もしなくていい。
そうだ。
やりたいことがたくさんあった。
行ってみたいところもたくさんあった。
さて、てはじめに、まずは。
「…………これから、なにしよっかなぁ」
ぴたり、と動きを止めて。言葉がこぼれる。
「あれ?」
冒険中には確かにあれがしたい、これがしたいというのが沢山あったはずだ。なのに、いざこうなってみるとぱっと思いつかない。
「いかんいかん、突然のこと過ぎてまだ頭が追いついていないな。ま、時間はたっぷりある。これからのことはこれから考えればいい」
わざと大声で響くように独り言を放って、頭をブンブンと振る。
とりあえず街まで帰ろう。この辺の魔物は強力だが、防御に特化した体系である【青色術式】のリソースを自分だけに使えるなら問題にならない。
倒すとなるとまあ、人並み以下の攻性(あかいろ)術式がどこまで通用するかわからないが、別に戦う必要も無し。
「とにかく南だな、うん。ナザングルの街まで戻ろう。そこでしばらく休むとしようか。宿屋のロースト肉と葡萄酒がかなりいけた覚えがあるし、そこそこ人も多い」
うんうん、と頷いて、歩き出し、そして、
「待てっ!!」
背後から、男の声がした。
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