流転の塔

D.I.O

★☆第一話★☆~プロローグ~

 移り変わり、やむことのない、巡り巡る想い。理に適っているようでどこか矛盾してて、私の感情は留まることなく、どんどん積み重なっていく。

 それはやがて塔のように高くそびえ立っていき、見上げても見上げてもてっぺんが見えなくなってしまった。



 好きってなんだろう・・・?



 いつだったっけ。そんな事を真剣に考えた時があった。人に好きになるって何なんだろう?結局、答は出なかったな。正直なところ、相手に対する気持ちって、色々な事があって揺れてしまうし。

 色んな人に相談してみたこともあった。皆それぞれ考えがあって、どれもが答であって答じゃなかった。『答じゃなかった』というのは、私にとって。になるのかな。



 子供を寝かしつけ、その寝顔を眺めながら、ちょっと昔のことを想い出す。これまでの人生、色々とあったな。きっとこれから先もまた色々とあるんだろうけれど。



「すみません・・・」

 私がそう告げると、その男の子は、『あっ』と言って椅子を引いてくれた。私は彼の後ろを通って、自分の席についた。もうすぐ講義が始まるチャイムが鳴るので、私は急いで戻って来たのだった。前後の机の間隔がせまく、三人掛けの席は人が座ると中に入りづらい。

 当時、私は千葉県のJR松戸駅にある大手予備校に通っていた。現役で大学合格が叶わず、一年間予備校生活を送ることになる。浪人なんて言葉は、今となっては死語かもだけど。


 数学の講義が始まると、教室の皆は真剣に先生の話に耳を傾け、一生懸命にノートを取っていた。知らない人ばかりだけれど、目的をもって勉強してるんだよね。

 私はふと、さっき椅子を引いてくれた男の子のほうを見た。色が白くて、顔の肌と手がきれい。真面目そうだけど少しシャイな感じの男の子。そんな印象だった。悪い印象は受けない。でも強くもない。

 いずれ忘れちゃうんだろうな。・・・だって私、忘れっぽいところあるし。


 事実、その男の子のことは大学生になるまで思い出すことはなかった。でも、あの時だったっけ?その男の子(『**君』と呼ぶことにする)とカラオケに行ったことがあった。見た目に似合わず、なかなか強烈な歌唱力だったけれど、


迷う花と手と繋ぎ

忘れたくない


っていう歌詩が不思議なカンジで、何となく思い出すことがある。



『迷う花』って今の私のこと、かな?

そう思ってるの?

・・・いやいや。

違うよね?

ふふふ。

『**君』のことだよ。

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