第17話

このクリスマスイヴで、パパはグリーンのTシャツとタイツ、ママはレース付きのキャミソールに手作りの羽を背負い、ピーターパンとティンカーベルが迎えに来たようにリビングの出窓から入って来た。


『ピーターパンとティンカーベルのように』ということは後々の感想だ。

この時はまだピーターパンもティンカーベルも知らなかったのだから。


窓の外は、美しい三日月の夜空。

部屋中に響き渡る優しい女性ヴォーカルの『星に願いを』。

とても幻想的な光景だった。

私は、大きな妖精が来たと本気で思って、暫く茫然自失状態だった。


今でもあの夢のような美しい光景を度々思い出す。

パパとママが『メリークリスマス!』と叫びながらクラッカーを鳴らして私は夢から覚めた。

パパのTシャツに有名ブランドのロゴが付いていたし、ママの羽には縫い目が有った。

それでも私は充分夢を見れた。

ピーターも楽しそうに飛び回っていた。


                      私はと言えば、金色の色紙を星型に切り、幼稚園の時お遊戯ゆうぎ用に作った冠の要領で頭に乗せるためのベルトも付け、それを被った。

身体には白いバスタオルを巻き、天使のような姿で登場すると、


「星になった赤ちゃんが来ました〜!」


と大声で叫んだ。


すると、当然大喜びすると思っていたパパとママは予想外の反応をした。

目を見開いて絶句したのだ。


「星になった赤ちゃん……………だよ……」


私はすぐマズいことを言ってしまったと分かった。

パパとママは泣き笑いしながら拍手をくれたけれど、ママはその後トイレに駆け込んで暫く戻らなたかった。


私は尋常じんじょうでは無い心の重みを感じて、心臓のドキドキする音が聞こえる程だった。


そのうち胸が異常に苦しくなり、息が出来なくなった。


                      気がつくと私は真っ白い部屋の細長いベッドに寝ていた。

パパとママが両側で心配そうに私を見つめている。

腕に刺さった針がチクリと痛んだ。

針には細い管が付いていて、ママの脇に有る金属製の棒にぶら下がった袋に繋がっていた。


私は救急車で運ばれたと後から聞いた。


私が


「ママ………」


と小さな声で呼ぶと、ママは涙をボロボロ流しながら


「もう大丈夫よ………」


と囁いて私の頬を撫でた。

パパも反対側の頬を包んだ。

その時の手の温かさは忘れられない。


                       

ピーターの泣き顔を見たのはその時が初めてだ。

暫く不安そうに私の顔の上でグルグル回っていた姿が今でも目に浮かぶ。


この時両親は、医師から私が喘息を発症したと告げられたのだった。


                  

             つづく


挿し絵です↓

https://kakuyomu.jp/users/mritw-u/news/16818622170163395678

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