29. 対策のために

 翌朝。

 私はルイスと共にデストリア公爵邸へ歩いて向かっていた。


 魔道具店からはそれほど離れていないものの、いつ襲われるか分からないから防御魔法を使い続けている。

 一晩で防御魔法を常に起動させることに慣れたから、周囲の警戒は怠らない。


「……狙われている感じはしないよ」


「嫌な気配もしないから、今日は大丈夫そうね」


 幸いにも今日は誰も狙ってきていないようで、私達は無事にデストリア公爵邸の門に着くことが出来た。

 すると、門番からこんな問いかけをされる。


「ご用件をお願いします」


「取引のお話をする約束をしていたセシルと申しますわ」


「隣の方のお名前をお願いします」


「ルイスと申します」


「ありがとうございます。玄関までお進みください」


 私達が名乗ると、門が開けられ中へと通される。

 玄関の方に視線を向けると侍女がこちらの様子を伺っているところが目に入った。


「セシル様、ルイス様。お待ちしておりました。

 旦那様は応接室にいらっしゃいますので、ご案内いたします」


 玄関に差し掛かると、その声に続けて重厚な扉がゆっくりと開かれていく。

 そこには大きく煌びやかなシャンデリアが煌々と輝いていて、派手さは控え目でも美しい装飾品の数々に目が奪われそうだ。


 王宮に居た頃はこれ以上の豪華な装飾を見ていたとはいえ、あれはギラギラとした権威を主張するためのもので美しさは感じられないものだった。

 それに比べ、芸術品のような雰囲気があるこの場所はいくらでも眺めていられる。


 けれど、今日はデストリア公爵邸を見に来たわけではないから、私は侍女の案内でユリウス様が待っているという応接室へと向かった。


「旦那様、お客様をお連れしました」


「お待ちしておりました。どうぞお入りください」


 侍女が扉の外から伝えると、中から執事と思わしき男性が出てきて、そう口にした。

 言われるままに中に入るとソファーに腰かけていたユリウス様と目が合い、私は頭を下げた。


「本日はお招きいただき、本当にありがとうございます」


「今日は商人同士として話がしたいので、あまり堅くならないでください」


 この言葉に続けてソファーに座るように促され、それに従う。

 それから、ユリウス様が本題を口にする前に、私は襲撃されたことと、モーガンが口にしたファンタム公爵家の計画について説明した。


「……そうでしたか。魔道具潰しの計画は早急に対策する必要がありそうですね。

 もっとも、事件が起きたとしても規制されることは無いでしょう。いくらファンタム公爵家の権力が強力でも、既に多くの貴族が魔道具のとりこになっています」


「それは心強いですわ。ですが、罪の無い人々の命が奪われることは阻止したいのです。

 防御魔法の魔道具を大量に作って、安く売る事も考えていますけれど、今の私達には実現出来ませんの」


「言える範囲で構いませんが、魔道具はどのように作っていますか?」


「魔道具を利用して作っていますわ。今は魔道具が不具合を起こした時に手を加えるだけで完成させています」


「……なるほど。驚異的な販売数には、そういう秘密があったということですか。

 しかし、それなら魔道具を作るための魔道具を増やせば良いように思えます」


 私が説明すると、ユリウス様は驚いたような表情を浮かべた。

 魔道具で魔道具を作っていたことが衝撃だったようで、興味と感心の色も見える。


 もっとも、売りに出している魔道具が小さいから、作るための魔道具も小さいと思われているみたいだけど、実際は違うのよね。


「魔道具を作るための魔道具は、かなり大きさがあるのです。今の私達の拠点で作れる数に限界がありますわ。

 新しい拠点を作る計画も動かしていますが、私達の予算では完成まで一年はかかるそうです」


「ファンタム商会の工場のようなものを作るお考えですか?」


「工場……ですか?」


 公国でも王国でも、お店で売られているものは職人さんの手作りだ。

 商品は工房やお店で作られていることが殆どなのだけど、ファンタム商会は工場というもので作っているらしい。


「工場です。水車ではなく、蒸気機関というものを用いて機械を動かしているようです。

 公国で流通している衣服が安いのは、工場で大量に作っているからだと考えられます」


「その工場、一度見てみたいですわね」


「敵対している以上は無理でしょうね。ファンタム公爵家を倒したら、いくらでも見られるでしょうが」


「その工場なら、何回か見たことがあります。実をいうと、今の私達の魔道具作りはそれを参考にしています」


 私とユリウス様で言葉を交わしていると、ルイスが衝撃的なことを口にする。

 そういえば、魔道具で魔道具を作る方法を言い出したのも、魔道具を作る魔道具の配置が一直線になるようにアドバイスしてくれたのも、全てルイスだった。


 成功者を真似ることが成功への近道と聞いたことはあるが、もう実行していたとは思わなかったわ。


「そうなると、エトワール商会の工場を早く完成させる必要がありそうです。デストリア公爵家として、援助をさせてください。当家で懇意にしている建築家達の手もあれば、かなり短期間で完成させられるでしょう。

 見返りは求めないと約束します」


「ありがとうございます。私の方から、依頼している建築家にも伝えますわ」


「お願いします。ところで、その建築家の名前を伺っても?」


「バーナードさんですわ。私でも知っている方なので、ユリウス様もご存じかと思います」


「彼にはこの屋敷の改修工事をお願いしていましたが、後回しにさせましょう。

 今はエトワール商会の工場建設が優先です」


 どうやら私が依頼していた建築家はデストリア公爵家とも取引があったらしい。

 今日の午後には打ち合わせを予定していたそうで、急遽その時間で私達の新しい拠点についてお話することが決まった。

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