27. 情報のために
暗殺者の絶叫が止み、部屋の中に静寂が訪れる。
どうやらヴィンセントが驚いた弾みで爪を剥がしてしまい、その痛みで気絶させてしまった様子。
暗殺者の指先からは血が流れ出していたから、私は治癒魔法で元通りに治す。
「ビックリしたー。心臓が止まるかと思ったわ」
「……相談って何だ?」
コニー達は暗殺者のことを気に留めず、私に視線を合わせてきた。
ヴィンセントは何事も無かったかのように振舞っているけれど、さっき肩を跳ねさせていたから、強気になっているだけだと思う。
「人を雇うことにしたから、一回目の面接を二人にお願いしたいの。
今日はお客さんが減っているから、今のうちに本部の完成に備えたいわ」
「分かった。俺は商人の息子だから、人を見る目には自信があるぞ」
「私も大丈夫だと思うけど、ヴィルみたいな自信は無いから、見逃しがあったらごめんね」
早速本題を口にすると、そんな答えが返ってくる。
私の予想通り、二人とも人を雇うための手法は学んでいるらしい。
ヴィンセントの自信には不安を感じるものの、二人で面接することになるから大丈夫だと思う。
ここで見落としてもルイスと私も確認するのだから、気にはならなかった。
「二人ともありがとう。明日、募集を出しに行くから、希望者が来たらお願いするわ。
面接の場所はここで大丈夫かしら?」
「うん、ここで良いわ。細かい事は夕食のときに話しましょう」
「ええ。相談はこれで終わりだから、私は戻るわね。
邪魔してごめんなさい」
そろそろ暗殺者が意識を取り戻す頃だから、私はそう口にして扉の方へと向かう。
けれども、コニーに引き留められてしまった。
「私、新しい拷問の方法を思いついたの。協力してもらえないかしら?
この人、中々口を割らなくて……」
「どうするの?」
「爪を剥がすたびに治癒魔法をかけて欲しいわ。
そうすれば何回でも痛みを与えられるから、きっと口を割るわ」
「……恐ろしいことを思いつくのね。あまり気は乗らないけれど、協力するわ」
人を救うための治癒魔法を拷問に利用するのは気が引けるが、相手の考えていることは早めに知っていた方が良いのよね。
だから、躊躇いながらも頷いた。
少しして、暗殺者が意識を取り戻したようで、目が合う。
彼は私の姿を認めると嫌な笑みを浮かべ、私の身体を舐めまわすように視線を移動させた。
……私、完全に見下されているみたい。
そう思うと、ふつふつと怒りが湧いてくる。
この暗殺者が何かを盾に脅されて私を襲ったことも考えて私自ら拷問することに抵抗があったが、今の行動を見たらそれも無くなった。
だから、私は防御魔法を使った状態のままコニー達の前に出て、口を開いた。
「ようやく気が付いたのね。まずは名前から言いなさい」
「誰がお前なんかに言うか。先にお前が名乗れ」
「言わないなら、もういいわ。二度と喋れなくするだけだもの」
雷の魔法を使って暗殺者が口に力を入れられないようにすると、彼は私の意図に気付いたようで目を見開いた。
それでもまだ余裕はあるらしく、視線からは嫌な感じがする。
だから拷問器具を使って口を開かせ、ハサミを舌に触れさせ、手に力を込めていく。
すると暗殺者はガタガタと震えはじめ、視線が何かを懇願するものへと変わった。
「話す気になったのね。早く言いなさい」
「……モーガンだ。言ったから舌は切らないでくれ」
「残念だわ。二度と魔法を使えないようにしようと思ったのに。
誰の指示で私を殺そうとしたのかも言えるわね?」
「父に言われた。あんたを殺せば、公爵家に戻してくれると約束されたんだよ
そもそも、お前のような平民に指図される筋合いは無い。俺は公爵家の血筋なんだぞ!」
様子を見ている限り、モーガンの言葉に偽りは無いと思う。でも、彼の父はモーガンを使い捨てにするつもりだったに違いない。
ファンタム公爵家の嫡子は今も健康そのもので、養子を招き入れるような状況ではないのだから。
「下品な振舞いしか出来ない人が貴族だなんて、信じられません。
平民でも、今のお前よりずっと上品ですもの」
「それが何だっていうんだ! 血筋の方が大事なんだぞ!」
「そもそも、お前は囚われの身。私はお前をこの世から消しても良いと思っていますわ。
大した情報も知っていないなら、もう用済みです」
「分かった、全部話す! だから殺さないでくれ!」
「人を殺そうとしておいて、よく堂々と言えるわね? やっぱり消してしまいたいわ」
そう口にしながら、私は魔力を込めていく。
今の言葉はただの脅しだが、モーガンは私の行動が本気だと思っているようで、ガタガタと震えている。
「セシル、ここで消すのは不味いわ。あとは私達で処分するから、その魔法は止めて」
「そうね。情報が聞き出せたら、消すのも止めましょう」
これ以上の拷問を加えなくても、モーガンは知っていることを口にすると思う。
だから、私はこの場をコニー達に任せ、まだ作れていない夕食の準備をすることにした。
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