16. 公都だけのもの
あの後、コニー達も冒険者ギルド前の建物で納得してくれて、ここを借りることに決まった。
建物を借りる時は、看板に書かれている不動産屋さんに行って契約を交わすのだけど、その時に代表者と保証人を決める必要があるのよね。
お店の名前は決まっていなくても大丈夫だから、まずは代表を決めることになった。
「セシルが居なければ魔道具は作れなかったから、ここはセシルが適任だと思う」
「ルイスの方が適任だと思うわ。私よりも色々なことを知っているもの」
「それを言ったら、経営の知識はセシルの方が上だと思う」
「私達はセシルかルイスが適任だと思っているわ」
……でも、中々決まりそうになかった。
代表者ということは、何かあった時に責任を負うことにもなるのよね。
だから魔道具を作っている私かルイスが適任というのは間違っていないけれど、ここから決めるのが難しい。
「決まらないなら、ここは公平に多数決にしよう」
「その方が絶対に良いわ」
私達が悩んでいると、アルベルトの言葉に続けてコニーが頷く。
こうして多数決をすることになったのだけど……。
「公平になるように俺達は目を覆うから、人数はルイスとセシルで数えて欲しい」
「分かった」
「それじゃあ、聞いてもいいかな?」
ルイスが問いかけると、コニー達の頷きが返ってくる。
それから少しして、彼が質問を投げかけた。
「……セシルが代表に相応しいと思う人」
一斉に四つの手が挙げられる。
まさか全員私が良いと考えているとは思わなかったから、曖昧な笑みしか浮かべられない。
「全員セシルに手を挙げたから、セシルが代表で決まりだな」
「……本当に私で大丈夫かしら?」
「セシルなら大丈夫だ。俺もしっかり補佐する」
「私達も協力するから、大丈夫よ」
ルイスとコニーはそう言ってくれているけれど、やっぱり不安は拭い切れない。
でも、これは私を信頼してくれているということ。だから断ることは出来なかった。
「代表に相応しくなれるように頑張るわ。改めて、これからよろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくお願いします、商会長!」
店長ではなく商会長なのは、店を出すためには商会に属する必要があるから。
どこかの商会に入れてもらうという手もあったけれど、今は魔道具の中身を広めたくないから、秘密を守るためにも自分たちで商会を立ち上げることに決めたのよね。
ちなみに、店ごとに店長を決める必要もあるけれど、今は規模が小さいから、私が店長も兼任することで話が纏まっている。
「他の人に取られる前に借りに行きましょう」
「分かった。早速商会長らしくなってきたな」
この建物を借りるために、看板に書かれている不動産屋に足を向ける私。
丁寧に地図も描かれていたから、この辺りのことを知らない私でも迷わずに目当ての看板を見つけることが出来た。
それからしばらくして、私は無事にあの建物を借りる契約を結ぶことが出来た。
賃料の支払いは毎月末で、払えなければ即追い出されるらしい。
私は金貨五十枚しか持っていないけれど、ルイスは私の何十倍もお金を持っているというから、揉めない限りは住む場所にも困らないと思う。
いつまでも彼に頼るのは申し訳ないから、早くこの事業を成功させたいと思った。
「それじゃあ、開けるわね」
借りたばかりの鍵を正面の鍵穴に差し込む私。
鍵を開けることに慣れていないから、慎重にそれを捻ると、ガチャリと音を立てた。
「お、開いたな」
ルイスの言葉を聞いて扉を開けると、広々とした空間が目に入る。
床から天井まで、飾り気の無い白一色。これは私達で塗り替えても大丈夫と言われているから、お店の雰囲気になるように手を加えた方が良さそうだ。
ここを引き払うときには元に戻さないといけないから、程々にしようと思う。
「思っていたよりも広いな」
「これだけ広ければ、色々出来そうね」
そんな言葉を交わしながら奥の方に足を進めると、階段の隣に扉があることに気付く。
「ここは何かしら……?」
「お手洗いだな。しかも、このレバーを捻れば流れるらしい。確か……」
「このタイプは水洗トイレと呼ぶらしい」
ルイスが言葉に詰まっていると、アルベルトが答えを言ってくれる。
公都は他の町よりも清潔に保たれていたから不思議だったけれど、これを見て理由が分かった。
「これなら処理をしなくて済むから楽ね」
公都には水道があるから、他の町とは違って汚物を捨てに行く必要が無いらしい。
掃除は必要だけれど、この水洗トイレの方がずっと楽だ。大量の汚物を浄化魔法で消すことは難しくても、汚れは浄化魔法で消せるから。
「……こっちは何かしら?」
反対側の扉の方は、見慣れない形の管と大きな受け皿のようなものが置かれた部屋になっていた。
「ここは洗い場だな。飲食店だと、ここで調理したり皿を洗ったりするんだ」
「ちゃんと水は出るみたいだな」
「シンクの水漏れも無い……この建物は当たりだな」
「使われていなかったはずなのに、綺麗だから安心したわ」
コニー達も色々なところを確認しているみたいで、そんな会話が聞こえてくる。
ここは埃っぽさが無ければ汚れも見えないから、きっと丁寧に管理されていたのだと思う。
とはいっても、一階はこれで見終えたから、私は階段の方へと足を向けた。
「二階に行ってみるわ」
「次も楽しみだな」
私が先頭で階段を上ると、今度も扉が二つ目に入った。
片方は一階と同じお手洗いで、もう片方はお風呂になっている。
でも、他に部屋は無いから、ここで暮らすなら壁を作らないといけないわ。
「三階も見てみよう」
ルイスの言葉で三階に向かうと、今度は広い空間ではなく扉が並ぶ廊下になっていた。
ここは七部屋に分かれていて、貴族の屋敷の部屋よりは小さくても、ベッドを置いても余裕がありそうなくらい広い。
流石に部屋の中には何もなかったけれど、物を揃えれば生活には困らなさそうだ。
でも、まだ何も準備出来ていないから、まずは決めないといけないことを決めようと私は口を開いた。
「まずは部屋割りを決めましょう」
すぐに全員の頷きが返ってきて、私達は一番奥の広い部屋で話し合いをすることになった。
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