7. 逆戻りは嫌なので
町の外に向かってしばらく歩いて城壁の外に出ると、早速空を舞う魔物が目に入った。
ここから見えるだけでも八体は居るから、一斉に襲われると大変だ。
もっとも、ワイバーンは基本的に他の魔物を捕食するから、人が襲われることは滅多にない。
けれど私達の方から攻撃をすれば反撃されるから、戦うと厄介な相手ではあるのよね。
今回受けている依頼はワイバーンを五体討伐するものだから、無事に倒すことが出来れば今日中に達成出来ると思う。
「練習も兼ねてセシルが先に攻撃して。外したら俺が倒すから」
「本当に私でいいの?」
「大丈夫だ。俺が誰か忘れたのか?」
「そうね……。外したらごめんなさい」
攻撃魔法を外す予感がしたから、先に謝っておく。
けれど、私が放った攻撃魔法は狙い違わずにワイバーンに吸い込まれていった。
「――さすがは聖女様だな。攻撃魔法もお手の物か」
「英雄様、その呼び方はやめてもらえるかしら?」
「すまない、ついうっかり。英雄様もやめてもらえると助かる」
冗談を言い合いながら、ルイスも攻撃魔法を放って、あっという間に空を舞うワイバーンの姿は見えなくなった。
依頼自体はこれで達成なのだけど、ギルドに証拠を提示しないといけない。
だから私達はワイバーンが落ちた場所に足を進めて、魔石を回収する。
魔石は魔物が必ず一つ持っているから、倒した後は亡骸を解体しないといけない。
ルイスは慣れているみたいで、手際よく解体していた。
「魔物の体は素材として高く売れるから、使えるところは全部持っていくんだ。
これだけで一か月分の宿代になる」
「そんなに高いなんて、よほど貴重なのね」
「ワイバーンを倒すのは難しいから、市場に出回らないんだ。それでいて、素材自体が丈夫だから需要が多い」
「ワイバーンをひたすら狩れば、お金には困らなさそうね」
「そう思いたいところだが、俺達がドラゴンを倒してから魔物の数が減っているらしくて、そう遠くない将来は需要が消えると予想している」
貴族なら税収のお陰でお金に困ることは基本的に無いけれど、平民としてお金を稼ぐのはかなり大変らしい。
服を買えたら、仕事を探した方が将来安泰だと思った。
「冒険者って大変なのね……」
「ああ。セシルは治癒魔法を売れば生きていけると思うが、俺には出来ないからね」
「治癒魔法を売るのは絶対に嫌だから、その手は使わないわ」
治癒魔法を売る生活を始めたら、あっという間に聖女として身を削っていた頃に逆戻りだ。
他に生きていく手立てがある今は、治癒魔法を売ることは避けたい。
「あとは、冒険者で大儲けして、それを元に事業を立ち上げることくらいだが、失敗することもあり得る」
「その手があったわ。でも、何の事業を立ち上げるかが問題ね」
私達は元々貴族だから、事業を行うための知識は持っている。
貴族は領地経営のための知識を跡継ぎに教える。私は跡継ぎではないけれど、万が一のためにと勉強させられたのだ。
ルイスも経営について学んでいるはずだから、お金さえあれば商売を始めるのも悪くないと思う。
元貴族だと雇われて働くことには向いていないから、しばらくは冒険者を頑張って商売を始めた方が幸せになれそうだわ。
「問題はそこだな。
事業を思いついてから始めた方が良さそうだ」
「ええ、そうしましょう」
そんなお話をしている間にワイバーンの解体が終わり、私達は町に戻ることになった。
けれども、周囲に沢山の魔物が居ることに気付く。
「魔物の気配……それも沢山いるわ」
「……魔物の気配なんて分かるのか?」
「ええ。あの草むらの中に二十匹と、あの川のところに百匹よ」
「本当だ。セシルはすごいな」
どの魔物も私達を狙っている様子。
広い範囲に有効な攻撃魔法を使えば急襲されても凌げるけれど、あの魔法は魔力の消費量が激しいから、今のうちに倒すことに決めた。
「俺は川の方をやる。セシルは草むらの方を頼む」
「分かったわ。もう攻撃しても良いかしら?」
「ああ、もう攻撃してくれ」
ルイスの言葉を待ってから、攻撃魔法を放つ私。
魔物は気付かれていると思っていなかったみたいで、一匹目が倒れてからようやく動き出した。
今私が使っているのは、他の攻撃魔法よりも難しいと言われている光魔法だ。
火魔法や風魔法、それに水魔法は魔物以外にも被害が及ぶから、今回は使わない方が良いのよね。
ルイスが狙っている魔物が居る場所は何も無いから火魔法で問題無いけれど、私が使えば火事になってしまう。
「こっちは倒したぞ。セシルの方はどうだ?」
「あれで最後よ」
そう口にしながら最後の一匹を仕留めてからルイスの方を見ると、彼は口を開けたまま固まっていた。
すごく間抜けな顔……じゃなくて、一体何に驚いているのかしら?
「まさかとは思うが、全部光魔法で倒したのか?」
「そうだけど……」
「魔力は大丈夫か? 光魔法なんて、俺でも一日に三発しか撃てないぞ」
「まだ余裕だわ。普段はこんなに使えないのに」
ルイスに言われて気付いたのだけど、これだけ攻撃魔法を使っているのに、魔力にはまだ余裕がある。
聖女として治癒魔法を毎日使っていた頃は、攻撃魔法を使う余裕が無かったから、凄く不思議だ。
「普段はしっかり眠れていたのか?」
「王太子様に書類を押し付けられていたから、三時間くらいしか眠れなかったわ」
「魔法があまり使えなかった理由はそれだろうな」
詳しく話を聞くと、人は眠っている間に一番魔力が回復するらしい。
何もしない状態でも少しずつ回復するものの、寝不足だとその回復力も落ちてしまうみたい。
聖女だった頃は毎日寝不足に悩まされていたから、私は魔力の回復が追い付いていない状態だったらしい。
「――それだけ酷い寝不足でも、毎日百人以上に治癒魔法をかけられている時点で驚異的な回復力だよ。聖女様だったというのも納得だ」
「いつも魔力が少ないと罵られていたから、私が不出来だと思っていたわ」
「それは王家がとんでもなく
その魔力量、努力で増えたはずだからね」
「出来ればこの力は隠して生きたいわ」
誉められるのは嬉しい。
でも、この力が知られたら聖女の地位に逆戻りだと思うから、隠して生きていこうと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます