第2話 ミシェル
12月5日、クーガーとトーマスのイギリスでの行き付けであるバーの店主ミシェルキムがテムズ川で水死体で発見された。遺体の損傷は激しく、不審な点も多々あり、自殺と殺人事件、双方で捜査されている。
ミシェルとは、クーガーが支社ビルから出たところで営業の為に声を掛けられたのが出会いだった。
クーガーは、ミシェルに気があり何度も店に通いアプローチをし、そしていつも軽くあしらわれていた。だが気の合う飲み友達だった。
ミシェルは、黒髪、色白細身のアジア系美人で店の看板娘としていつもお客に笑顔を振る舞っていたが、店の二階に寝泊まりし、素性も分からず影と謎のある女性であった。
謎めいた女性であったが、クーガーと飲んでいる時一度だけ酔い潰れ、母国語なのであろうアジアの東方の半島のカンドール国の言葉で寝言を涙を流しながら言っていた。
その日からクーガーは、ミシェルの事を女として見始めている。
クーガーは、事件後、家主にミシェルの部屋の処理を頼まれ、遺品だけでも身内に返そうと思い引き受けたが部屋には布団と衣服が少しあるだけで人が住むにはあまりにも寂しい部屋であった。もちろん身元が分かる物は何一つない。遺体にもなかった。
ただ、少し気になる事は、ステンレスのゴミ箱で何か燃やした跡があり、Wi-FiもつけられていたがPCもスマホも無い。
彼女を辿る物が何もない以上諦めようとしていた。
何気に古い建物の窓から顔を出し覗き込むと真下にテムズ川が平滑流暢に流れ、少し脚に力を入れれば、そのまま水面に刺さることが出来るほど近くに水面があった。
クーガーは、川の流れを、ミシェルを偲びながら眺めていた。
その時、川と歩道の境界線の柵に何か引っかかっているのが見える。
それを確認しに行くとPCの電源ケーブルだった。
そこから、クーガーの想定外なことが進んでいくのである。
川底を探索させると予想通りにノート型パソコンがあった。もちろん水没で中のデータを見ることが出来ない、そこでクーガーは旧友のトーマスにデータの復元を頼んだのだ。
そしてクーガーはその復元したデータをオフィスで見るとすぐオセロットにデータを送り即座に連絡した。
***
オセロットは、死亡したミシェルキムが残したPCのデータに驚愕する。
そこには、店の食材や酒の在庫管理、日記、家計簿的な物に多方面への送金記録、家族の写真、などがあった。
送金はフランス、トルコ、アメリカそしてカンドール国に送金されている。
そして数件気になる個人口座の送金記録があった。
――― カンミンジョン
リンクス達と昔仲間だった男。
そしてリンクス隊で唯一死亡者リストに名前が乗った男である。
「おいおい、その女は一体何者なんだ、クーガー!」
「わからない、でも同姓同名ってこともあるだろ」
「この写真がなければその可能性もあっただろうな」
オセロットは、画面の写真を見ながら困惑していた。
信じられないが一つの仮定が思い浮かび思わず口にした。
「……ミンジョンは、生きている?」
口には出したが、
「いや、そんなことはありえない」
「……確かにあの時死んだ、そうだろクーガー?」
オセロットはクーガーに確認した。
「確かに死んだはず、あれで生きている方がむりがある。……ただ遺体は回収されていないのも事実だ」
クーガーも戸惑っているのがわかる。
「……写真の女はジウォンだ、ミンジョンが関係してないことはない。検死の結果もまだだし、何にしろこれ以上想像しても埒があかない!もう少しこの件をこっちで探ってみる、リンクスにも伝えといてくれ、また連絡する」
そう言ってクーガーは通話を切った。
オセロットは、状況が整理できず少しの間、放心していたが、すぐに一本の電話をした。
「どうも不可解なことが起こっている」
相手は、ロサンゼルスにいるリンクス。
オセロットは、クーガーから入った情報と仮定の話など矢継早に話した。
リンクスは、何も言わずにオセロットの話を聞いている。だいたいのことを聞いたうえで、オセロットの言葉を静止するように言う。
「はいはーい。ひとまずカンドールに行ってくるよ」
相変わらず腹の立つ返答だが、ミンジョンが生きていれば、ジウォンがいるカンドール国に何かあるだろうことは、理にかなっている、オセロットは、キレそうなのを必死に堪えていた。
確かに、金の流れはカンドール国に流れているらしい、でもジョンヒョンの故郷は、その隣のザイオン国のはず、一人の独裁者が治める軍事独裁国家だ、そして、人が一人残忍な殺され方で死んでいるし、ジウォンも絡んでいる。
(ミンジョンとジウォンに何が起きているんだ)
オセロットは、嫌な予感がしていた。
彼女の予感はよく当たる。
「わかった、その代わり虎之介も連れてけ、あと念の為、香港のウンピョウに連絡しておく。こっちが片付いたら私もそちらに向かう、それまでくれぐれもトラブル起こすなよ」
「コロコロも呼んでおいてよ」
「お前らがセットになると無駄に事が大きくなる」
「あら信用ないのね」
「あるわけないだろ、昔からそうだろ」
「いいじゃん、もうすぐクリスマスなんだしみんな呼んでこっちでジウォンとパーティーしようよ」
「遊びで行くんじゃない! マジ殺すぞ!」
ミアは、二人のやり取りを聞いていて、事の重大さは、全くわからないが、不安げなオセロットがいつものように戻っていくのがわかった。
(やっぱりリンクスさんはすごいな、オセロットさんも、もういつもの顔に戻ってる)
と思っていた。
その後のオセロットの行動はいつものように早いものであった。
ただ譫言のように、『あいつ絶対殺す』と何度も呟いていた。
そんな光景をミアは、微笑ましく見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます