第33話 作戦終了、そしてそれぞれの思い
カンドール国 検察庁本部
12月25日
検察庁は、昨晩から職員達が何やらバタバタしていた。
それもそのはず、カンドール国と敵対しているザイオン国でクーデターが成功し、新王が誕生したと言う情報が入ったのだ。
「はぁ、ここに、立役者が居られるのに皆何をやってるんだか」
ソンは溜息をつく。
「立役者は、ジウォン…… いや違うな、あの国の未来を信じた全ての民だろう」
リンクスは、真っ直ぐ前を見てゆっくり玄関まで歩いている。
「……そうですね、皆命をかけて」
ソンは、ドンフンのことを思っていた。
「私にもできますかね」
「はっはっ、さぁね」
リンクスは、笑っている。
二人は、玄関の自動ドアを抜けた。
案の定、そこには、報道陣が待ち構えている。
来る時よりは、カメラも人も少ない、隣の国の大事件に人を割いているのだろう。
(丁度いい、もっと少なければ良かったのに)
リンクスは、あまり目立つのが嫌いである。
そして、リンクスは、報道陣に囲まれ、インタビューに応じていた。
「先に、二人釈放され、最後まで残られたのは何故ですか?」
「副長官と意気投合してね」
リンクスは、最後に釈放されていた。
「この件に関して訴訟など…… 」
リンクスは、インタビューは続いているが、報道陣の囲みを掻き分けて来る女を見て笑みが溢れていた。
「リンクスー!」
ミサキである。
ミサキは、囲みを抜けた瞬間、リンクスに抱きしめキスをした。
リンクスは、それを受け入れ、二人は少しの間周りの目を気にせず抱擁していた。
「世紀の大スキャンダルね、さぁこれから大変よ」
パクは、運転席からその光景を眺め、この後行く仕事や今後の対応に頭を悩めていたが、本当に嬉しそうに微笑んでいた。
そして二人は、その間、フラッシュの祝福をずっと浴びていたのである。
***
短くも長い一日をすごし、無事釈放されたリンクス達は、おばちゃんの店に集まって、ザイオン国のニュースを観ている。
「だから、俺はお前が嫌いなんだよ!」
ウンピョウが興奮してリンクスの胸ぐらを掴む。
「何だよ、俺何にもしてねぇじゃん」
「しただろうが、ミサキちゃんと…… きっ、キスをよぉ!」
「俺からじゃないだろ!」
ウンピョウ達は、リンクスの釈放の生中継を見ていた。
キスをした瞬間、ナイフを持ち店を出て行こうとするのをみんなで止めていたのである。
「おいおい、あれ見ろよ」
クーガーは、テレビを指差す。
「ははっ、元気そうじゃん、ひゃっひゃっひゃ」
コロコロは、笑いが止まらない。
テレビには、ザイオン国の王宮の広場に所狭しと国民が集まり、テラスの中央に、新王のジウォンと先代の王、その横にはソクフンやガンウ、そして、何故か虎之介が泣き顔で手をブンブン振っていた。
「あいつ、なんか言ってるぞ、た、す、け、て、く、れ、だってさ、はっはっは」
オセロットは、読唇術で読み取って大爆笑している。
「まぁ一回り大きくなって帰ってくるさ」
リンクスにとっては、既に他人事である。
そしてそのリンクスをウンピョウは、大好きな虎之介のことなどより、ミサキの件でずっと睨んでいた。
「おい、リンクス、プリンの恨みは忘れねぇからな」
マルセロである。
「てか、お前らいつまでいるんだよ」
コロコロは、マルセロとハンゾーに向かって言った。
二人は、肩身狭そうに、
「俺たち行くとこねぇんだよ」
リンクスは、目の前で焼いていたハラミを皿に山の様に盛りマルセロに差し出した。
「これで、許せ」
「バカやろー、許せるかぁ」
マルセロは、リンクスに飛び掛かろうとしているのを皆が止める。
いつもの賑やかな日常だった。
「ジウォン、頑張るんだよ」
テヒは、騒がしいなぁと思いながらも食事を出し笑顔で呟く。
食事を出すテヒの左手の薬指には、古い指輪が光っていた。
カンドール国の年の瀬は、ビックスター同士の熱愛で悲しむ者、ザイオン国にルーツがある者は、皆喜び、国民は、各々の思いで年を越していったのである。
***
遡ること検察庁に出頭する三時間前。
江原でソンとウンピョウ達は、リンクス達を待っていた。
「遅いな、何かあったのか?」
皆心配していた。
「もうそろそろここを出ないと間に合わない」
ソンも時間を気にしている。
「サザーランドに捕まっているかも、俺が戻ろう」
クーガーは、トンネルに戻ろうしたその時。
「おーい、みんなぁー」
通信機で、リンクスから連絡が来た。
「うぉー、リンクスだぁ!」
コロコロは叫んだ。
空からヘリのプロペラの音がする。
皆が空を見上げると国境の向こうに軍用ヘリが飛んでいる。
「あれで国境越えるのか?ダメだろ?」
オセロットは、ソンの顔を見ている。
「ダメです」
ソンは冷たく言う。
ヘリは、かなり上空で止まり国境を越えていない、そのまま見ているとこっちに向けて何か飛んでくる。
国境をこちら側に越え数秒で黄色いパラシュートが三つ開いた。
ありがたいことに風は、カンドール国の方に優しく吹いている。
「リンクスだ!」
皆が叫んでいた。
「でも何で三つなんだ?」
皆不思議に思っている。
三つのパラシュートの操作は、ベテランの様であり、難なく皆が待っている所に着地した。
皆が喜んで駆け寄っていく、が途中で足を止め、戦闘体勢に入った。
「マルセロ!」
「ハンゾー!」
三つのパラシュートは、リンクス、マルセロとハンゾーであった。
「ああー、待て待て、こいつらは敵じゃない、攻撃するなよ」
リンクスは、両手を上げて皆を止めた。
「敵じゃないだと?いくらお前が止めてもダメだ、トルコの関係のない人間を…… ミシェルを、いやソンミを死に追いやった。仇は取らせてもらう」
クーガーは、銃を構えた。
「ちょっと待て!それはユジュンの私設の軍隊だ、サザーランドやこいつらじゃない」
リンクスが銃の前に立つ。
「クーガー!頼む信じてくれ、隊長は敵意のない女、子供は殺さない!知っているだろ」
マルセロは、必死に頼み込む。
クーガーもわかっている、彼らじゃないことを。
そして空に向けて、銃を何発も撃った。
「くっそー!」
「…… 」
オセロットが何も言わず、クーガーの肩に手を置く。
そしてクーガーは、背を向けて車に歩き始めた。
マルセロとハンゾーは、下を向き申し訳なさそうにしている。
今回の作戦は成功したが失った物も多かった。
「…… これまでの経緯は後で話すよ、ひとまずソンさん、待たせたな」
続けて、
「0410 作戦終了!」
「ところで、虎之介は?」
「えっ?知らないよ」
虎之介は、王をスタジオに送った後、リンクスを助けに王宮に行き、リンクスと入れ違いになったまま、王都の人混みに巻き込まれていたのである。
そして、ソンは、何とか上司を誤魔化し、そして、リンクスに世間の注目を集める為のインタビューを好意的に受けるのを条件として、コロコロと虎之介を先に解放したことにしたのである。
虎之介の後日談としては、先代王の好意で傷の手当てをしてもらい、数日、王宮にゲストとして迎えられていたが、一人が寂しくて王宮を脱出しトンネルから自力で帰ってきたらしい。
その後、虎之介は、わんわん泣きながらリンクス達の下へ合流した。
そしてその後、大晦日に行われたミサキ達の年越しライブにみんな招待され、ミサキとキスをしたリンクスに非難が集まるも大盛り上がりの中、年を越したのであった。
1月2日 カンドール国際空港
リンクス達は、空港に来ていた。
正月にも関わらず、今回これだけの騒ぎを起こした世界的に有名な彼らを一目見ようと国中から人が集まっている。
もちろんミサキやパク、ソンも見送りに来ていた。
「あんた、こんなに顔バレしちゃったから浮気してもすぐバレるからね」
パクは、リンクスの胸を軽く叩いた。
「ちょ、ちょっと、辞めてよパクちゃん、私の片思いなんだから」
ミサキは、照れくさそうだ。
「何言ってんの、俺もミサキちゃん好きだよ、次会う時までちゃんと好きでいてね」
リンクスは、ミサキの目をジッと見てサラッと言った。
後ろでウンピョウがコロコロに抑えられ、クーガーとオセロットは白い目で見ている。
「ミサキちゃん、この人ぉ、信用しちゃダメだよぉ、どこの国にもぉ好きな子いっ、……ふがふが」
虎之介は、二人の間に入り邪魔をするがリンクスに口を抑えられる。
「お前、人の恋路を邪魔するなよ、あ、痛」
虎之介は、噛んだ。
「一人だけ置いてったクセにぃ、信用できるかぁ」
「お前まだ根に持ってんの?小さい男だなぁ」
「何おぉー」
「やんのかぁ」
また、リンクスと虎之介の戯れあいの様な喧嘩が始まった。
「あっはっは、またやってる」
ミサキは、二人との出会いを思い出し、思わず吹き出した。
「大丈夫だよ、虎ちゃん。世界中に好きな子がいるとしても私がリンクスの一番になってやるんだから、だから大丈夫」
二人の間に入り、喧嘩を止めた。
「すぐ会いに行くからね」
とミサキは、リンクスにハグをし、耳元で囁く。
「わかったよ、待ってる」
リンクスは答える。
ウンピョウ以外のオセロット達もミサキの気持ち良さに笑っている。
そんなこんなで、搭乗時間がきた。
「さぁ、皆さんお時間ですよ」
とソンが声をかける。
「ソンさん、色々とありがとう、本当に世話になった」
「こちらこそ貴重な体験出来ましたよ。リンクスさん、必ずまたお会いしましょう。さぁどうぞ搭乗口へ」
名残惜しいが、ソンは皆を搭乗口へ促した。
「それじゃあ、みんな、また会おう!おばちゃんを頼むね」
テヒは湿っぽいのが嫌だとこなかった。
リンクス達は、ミサキ達に向かって大きく手を振り去って行く。
ミサキ達は、彼らの姿が見えなくなるまで見送る。
見えなくなると一瞬この十日間程が夢であったのではないかと錯覚する。
でも間違い無く彼らはここに居たのだ。
一つの国の救世主ではあった彼らは、何の功績も記録にも残ってはいない、だが皆の心には深く刻まれている。
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