機械神編 人間は神になる

 ゴットワールド聖神界に来てから三か月が過ぎた。

 日本で生きてきた俺にとって不便なところもあるが、この世界の生活にも慣れた。


「よし。朝食の準備はこれでいいかな」


 キッチンで今日の朝食を作った俺は、テーブルに料理を並べる。

 今日の朝食はハムと卵のサンドイッチにサラダ、ホットミルク。


「ユリーナ。朝ごはんできたぞ~」


 リビングからユリーナの名を呼ぶが、返事がない。

 またか。しかたない。

 俺はユリーナの寝室に向かい、ドアをノックする。


「ユリーナ、朝だぞ?……入るからな」


 俺はドアを開けて、寝室に入る。

 ベットではまだ寝ているユリーナの姿があった。

 あ~あ、また布団を床に落として……しかも腹を出して寝てるよ。

 ユリーナって……寝相が悪いんだよな。


 俺はカーテンを開け、ユリーナの肩を揺らす。


「ほら、ユリーナ。起きて。朝だぞ」

「んん……あと一年」

「長いわ。朝ごはんだぞ。このままだと仕事に遅刻するぞ」

「うぅ……分かったわよ」


 ユリーナは目を擦りながら、ベットから起き上がる。


「ユリーナ。顔を洗ってから朝食な」

「は~い」


 ユリーナは欠伸をしながら、洗面所に向かった。

 まったく……彼女の私生活は乱れている。

 最初は起こしに行くときはドキドキしたが……今では何とも思わない。

 お母さんの気分だ。


「顔を洗ってきたわ」

「なら朝食を食べよう」

「えぇ」


 ユリーナと俺はリビングに移動し、席に着く。

 俺が手を合わせると、ユリーナも真似して手を合わせる。


「「いただきます」」


 俺達は朝食を食べ始めた。

 サンドイッチを食べるユリーナはとても幸せそう。

 彼女の幸せそうな顔を見ると、俺は思わず頬を緩めてしまう。


「今日も美味しいわ」

「ありがとう」

「こんなおいしい料理を毎日食べられるなんて……まるで上級の神様になった気分」

「前々から気になっていたんだけど、その下級だとか上級ってなに?もしかして神にも上下関係とかあるのか?」

「そうよ。神には下級、中級、上級、最上級ってな感じで分かれているの。下級は平凡な暮らししかできないけど、中級はそこそこいい暮らしができて、お店でおいしいごはんが食べられるの。上級は豪華な暮らしができて、毎日おいしいご飯が食べられるの」


 なるほど……つまり平民と貴族みたいなものか。


「下級の神でおいしい料理を作ったりはしないのか?色々な神がいるんだろう?料理の神がいてもおかしくないと思うんだが」

「料理の神は全員、中級と上級の神が住む街で働いているわ」

「全員!?なんで」

「おいしい料理を作れる神は少ないからね。料理ができる神は全員、中級と上級の神々に連れていかれるの」

「そうなのか」

「前はこの街にも料理ができる下級の神がいて、屋台を開いてたんだけどね。その神も中級達の神に連れていかれちゃって」


 中級や上級の神はずいぶん勝手だな。

 娯楽が少ないこの世界で、下級の神達から料理ができる神を奪うとは。

 因みにこの世界の娯楽は本ぐらいしかない。俺は読めないけど。


「アキラも気を付けてね。料理ができるってバレたら連れていかれるから」

「分かった。バレないようにするよ」


<><><><>


「じゃあ、私……仕事に行ってくるから」

 

 剣を腰に差し、軽鎧を纏ったユリーナは玄関を出ようとしていた。


「待って、ユリーナ。忘れ物」


 俺はランチクロスに包んだ弁当箱をユリーナに渡す。


「今日の昼食だ」

「ありがとう」

「じゃあ、いってらっしゃい」

「うん。行ってきます」


 ユリーナは手を振りながら、玄関を出た。

 彼女を見送った俺は、今日の家事を始める。


「さて、仕事しますかね」


 俺はまず家の隣にある井戸から水をくみ、大きな桶に入れる。

 そしてその桶に今日の洗濯物を入れ、石鹸で洗い始めた。

 この世界では洗濯機がないから、自分の手でやらないといけない。


「これ……結構、疲れるんだよな」


 一時間以上洗濯した後、濡れた服やタオルを物干し竿に干した。


「ふぅ~洗濯はこれで終わり。次は家の中か」


 俺は家の中に戻り、はたきで壁や手が届かないところを叩き、埃を落す。

 埃はほうきとちりとりで取り、ごみ箱に捨てる。

 次は雑巾で乾拭きして、水雑巾だな。


 俺は乾いた雑巾で壁や床などを拭き、水で濡らした雑巾で拭いた。


「よし。掃除は完了」


 家の中を全て綺麗にした俺はフゥ―と息を吐く。

 こんなものか。


「少し休憩しようかな」


 俺はお茶を沸かして、カップに注ぐ。

 爽やかな香りが俺の鼻を刺激する。


「いい香り。やっぱゴットワールドの紅茶は地球のものより質がいい」


 俺は紅茶を一口飲んだ。

 ん~疲れた体が癒される。


「おいしい。……しかし、この世界の食文化は劣っているな」


 食材や調味料は地球のものより上質なのに、それを下級の神達は調理することができない。

 実に悲しいことだ。

 神ってのは何でもできるイメージがあったが、そういうわけじゃあ…ないみたいだな。


 俺はゴットワールドのことを考えながら、紅茶をもう一度飲もうとした。


 その次の瞬間、バリン!となにかが割れたような大きな音が聞こえ、床が揺れた。

 思わず俺は紅茶が入ったカップを床に落としてしまう。


「な、なんだ!?」


 俺が驚いていた時、


「アキラ、無事!?」


 扉を勢いよく開けて、ユリーナが家に入ってきた。

 彼女の顔は汗だらけで、急いで家に帰ってきたのが分かる。


「ユリーナ!」

「よかった。無事みたいね」


 俺を見て、ユリーナはホッと胸を撫で下ろす。

 彼女の様子から見て、どうやらただ事ではないことが起きているようだ。

 いったい……なにが!?


「アキラ、今すぐ私と一緒に避難して」

「避難って……なにが起きたんだ?」

「機械兵がこの街を襲っているの」

「機械兵って……この街には結界が張ってあるから安全のはずじゃあ」

「見たことがない機械兵が結界を破壊したの。野生化した機械兵とは違う。恐らく新型。とにかく来て!」


 ユリーナは俺の手を掴み、急いで家を出た。


「!これは」


 外に出た俺の目に映ったのは、燃える建物。

 血を流しながら倒れている神々。

 そして……目玉のような大きなカメラを赤く光らせる機械仕掛けの人形。


「あのロボットが……機械兵」


 機械兵は人の形をしており、二本の足で立っている。

 そして両手の指先から伸びた鋭い爪には赤い血が付着していた。

 すでに何人もの神を殺しているのだろう。


「遅かった」


 ユリーナは鞘から剣を抜き、構える。


「アキラは逃げて!」

「!ユリーナを置いて逃げられるわけ!」

「いいから逃げて!」


 ユリーナが大声で叫んだその直後、機械兵は動き出す。

 弾丸の如き速さでユリーナに近付き、鋭い爪を振るう。


「くっ!」


 ユリーナは紙一重で躱し、剣先から魔法陣を出現させる。


「喰らいなさい!」


 魔法陣から炎の球体が放たれた。

 炎の球は機械兵に直撃。

 爆炎が舞い上がり、機械兵を燃やす。

 しかし、


「なっ!」


 機械兵は無傷だった。


「くっ……やああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ユリーナは剣を振り下ろした。

 だが彼女の剣は機械兵の爪撃によって砕かれてしまう。


「ユリーナ!」


 このままではユリーナは殺される!

 ダメだ、助けないと!

 いや……人間の俺があの機械兵を倒せるのか?

 無理だ。

 俺が行っても無駄死にだ。

 ユリーナの言う通り逃げたほうが……、


「バカか俺は!」


 俺は自分の顔を思いっきり殴った。


 恩人を見捨てて、生きるなんて絶対に出来ない!

 考えろ!考えるんだ!神崎輝!お前は頭を使うのが得意だろう!


「ユリーナを……なにがなんでも助けるんだ!」


 俺がユリーナを救う方法を考えていたその時、



 突然胸のあたりが光り出した。


「な、なんだ!?」


 俺が驚いていると、光を放つ胸から眩しく輝くリンゴが現れた。

 そのリンゴがなんなのか分からない。

 だけど一つだけ分かることがある。

 本能で分かった。


 このリンゴを食べれば、ユリーナ恩人を救えると。

 同時に……人ではなくなると。


「上等だよ」


 俺はリンゴを掴み、口に近付ける。


「ユリーナを救えるなら……人をやめてやる!」


 俺はがぶりとリンゴをかじり、呑み込んだ。

 次の瞬間、身体から黄金の粒子が発生した。


「なんだ……これは」


 身体がとても温かく、心地よい。

 まるで別の自分になったかのよう。


「……」


 機械兵はユリーナに攻撃するのをやめ、赤いカメラを俺に向けた。

 そして……俺に襲い掛かる。

 鋭い爪が俺の喉を切り裂こうとした。


「アキラ!」


 ユリーナは俺を助けようとする。だがそれよりも速く、俺は動く。


「【道具生成どうぐせいせい】」


 自然と口からそんな言葉が出た。

 直後、なにもないところから六本の機械の腕が現れる。

 俺は自分の手と機械の手を超高速に動かし、機械兵の両腕を分解。


 そして分解した部品で俺は自分の手と六つの機械の手であるものを、一瞬で作る。


「完成」


 数秒間で作ったのは、黒い拳銃だ。

 その拳銃の銃口を機械兵に向け、俺は引き金を引いた。

 直後、銃口から放電する弾丸が放たれる。

 弾丸は機械兵の頭を吹き飛ばす。

 頭と両腕を失った機械兵は地面に倒れ、動かなくなる。


「うっ……」


 機械兵を倒した俺は手から拳銃を落し、意識を失った。


<><><><>


「アキラ!」


 ユリーナは意識を失って倒れた輝に向かって走る。

 彼女は輝を抱き起こし、彼の胸に耳を当てた。


 ドクン、ドクン。


 心臓の音が聞こえ、ユリーナはホッと安堵する。


「よかった……気を失っただけか」


 ユリーナは気を失っている輝の顔を見て、微笑みを浮かべる。


「なにが起きたか分からないけど……アキラが助けてくれたのよね。……ありがとう、アキラ」


<><><><>


 気を失って寝ている輝。

 そんな彼を空の上から見ている女神がいた。

 その女神は左目に眼帯をつけており、頭にはとんがり帽子を被っている。

 左手には白と黒に輝く槍が握られていた。


「この時をずっと待っていた……」


 女神は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「これで私達、聖神族の勝利は決まった!」


 後書き

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