27 いざ出発
さて。先ほどミスター・リュネットが「ジュベナイル中央駅」と言ったのを覚えているだろうか?
サーブルの街はここから東に数十キロ。歩くと1日ではまず到着はできない。
そこで俺たちがまずこれから向かうのは、ジュベナイル中央駅だ。
「おいおい冗談だろ?産業革命前の街に、鉄道があるわけないじゃないか。」
そんな声が聞こえてきてもおかしくない。俺も最初はそう思っていたのだ。
しかし聞いて驚くな。この世界の鉄道はなんと「馬車軌道」なのである。
しかも客車を引くのは普通の馬ではない。
ここでは「ソルティレージュ・シュヴァル」と言われる、魔力によって突然変異した品種の馬を使うようだ。
と言うわけで、まずはその馬車軌道の駅、ジュベナイル中央駅まで徒歩で向かう。
「僕、初めて駅に行くんだよねえ」
横にいたリュイが話しかけてきた。
「俺は一回だけあるかな。赤ちゃんの時に。」
ジュベナイル中央駅は、ジュベナイルの中央部から少し南に行ったところにある。
小さい頃、母に連れられて街中を散歩した時に一回だけ見たことがある。
「よく覚えてるよねぇ…。僕なんか全然覚えてないよ」
「懐かしいなあ…。リュイも小さかったもんなー」
学校から歩くこと約20分。俺たちの学年はジュベナイル中央駅に無事到着した。
どうやら全ての学年が同じ時間に出発するわけではないらしい。
いや、そもそも行き先が違うからこっちの方角ではないのだろうか…。
ジュベナイル中央駅に来たのは、俺たち1年生、そして2年生と3年生の生徒たちだけだった。
先ほどと同じように整列をすると、クラスごとに先生の率いられて駅の中へと入っていく。
駅にはレンガのようなブロックで作られた立派な駅舎と、その中にいくつかのホームがある。
壁にあった発車案内表には、「3番線 ジュベナイル中央学校 貸切」と書いてあり、俺は前世で見かけた新幹線の団体臨時を思い出した。
「それでは、3番線に止まっている列車の3両目に乗り込みます。しっかりついてくるように」
さて、いよいよ乗り込むようだ。
俺たちは前のクラスに続き、3番目のホームに停車中の列車に向けて歩き出す。
駅は天井が透けガラスになっており、差し込む日光が少しだけ眩しい。
俺たちのクラスは前から順番に列車に乗り込み、そして俺たちの番になった。
「リオンくん、手、握って…」
乗り込む前、リュイからそう言われたので、もちろん喜んで応じた。
小さい手をぎゅっと握って、ホームと列車の広い隙間をまたぐ。
俺たちは列車の3号車に乗り込んだ。
数段ほどの階段を上がると、そこは昔ながらのSLにつながっている客車のような、どこか懐かしい感覚がした。
木で作られた客車は、生徒たちが歩き回ると床下からギシギシと音を出す。
「はえーすごい」
「こっちであってるかな?」
客車の中は木造のクロスシートとなっていて、10個ほどの席が左右2列、真ん中の通路を挟んで置かれていた。
俺たちのチームも、適当に座れそうな場所を探して、席に座る。
オレ、リュイ、エルが一列に、そして反対側にノアとレオが座った。
まあ普通に考えるとこの座り順だよね。
普通は窓になっているところは閉じられている…
かと思いきや、どうやら取り外し式の窓になっているようだ。
窓枠からバコンと取り外すと、隣のホームの様子が見えた。
他の生徒たちも続々とこちらを真似して窓を取り外していった。
「なんか、旅行って感じがするね!」
エルが意気揚々にそう言ったが、彼以外は誰一人旅行なんて行ったことが無いので、反応はイマイチだった。
オレはもちろんあるが、(前世に)10年以上のギャップがあって反応ができない。
「サーブルってどういう場所なんだろうね」
「海がすごい綺麗なんだって!」
向かい合わせになったリュイとノアが話を始めたということは…
「エルさま泳げたりするのー?」
「うーん、、、。1年ぐらい前に海に行った時には泳いでたけど、今はどうかなあ…。」
「へー!よかったら教えてほしいな~」
「喜んで!僕もレオと一緒に泳ぎたい!」
あらら…。私は再びぼっち状態に。
そうこうしているうちに、列車の中もほとんど満員になってきた。
ホームからはカラン、カランと言う鐘の音が聞こえてくる。
前世でいう発車ベル、的なものだろうか…。
そういえば…俺駅で死んだんだっけ…。
あの時眩暈がして、そのまま線路に倒れ込んで…。
いやあ、終電だったし、あの場にいる人たちにはだいぶ迷惑をかけたに違いない…。
少なくともその日のうちには家につけなかっただろう…。
心の中でお詫びをしておく。
「ヒヒーン!!!」
列車の先頭から、馬のような鳴き声が聞こえたかと思うと、列車はゆっくりと進み出した。
「すごーい!」
「動いてるー!」
「馬が前にいるぞー!」
初めて列車を体験した生徒たちは、旅行の始まりに興奮を隠せない様子だった。
もちろんおれもその一人だった。
窓の外からは、景色が流れていく速度がだんだん上がっていく。
さっきまで駅の中だったのに、もうすっかり街の風景になっていた。
進行方向左側の車窓を見ると、先ほど歩いてきた学校の姿も見える。
ガタンゴトン…
ガタンゴトン…
出発から数分後。
列車は馬に引っ張られ、サーブルの街を目指していた。
新幹線ほどではないものの、速度はそれなりに出ていた。
目視では時速60kmから80kmほどだろうか…。
「意外と…速いね…」
俺の左側から聞こえてきた声は、リュイが発したものだった。
「手繋いどくか?」
「うん…。」
窓際に座っているから多分怖いんだろう。
よくよく考えれば、前世の電車でも窓なしでそのまま空気が入ってきていたら普通に怖いだろうし…。
出発から数十分。そろそろジュベナイルの街も遠くなってきた。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます