第20話 『封じられた真実』
第20話:「封じられた真実」
王都の夜は静かだった。
だが、その静寂の中に、確かに追手の気配があった。
「奴ら、まだ追ってきていますね。」
レオンが鋭い目で背後を確認する。
「……ええ。」
セラは息を整えながら答えた。
黒衣の兵士たちは、ロウエンの命令で動いているのか、それとも別の勢力なのか。
だが、一つだけ確かなことがある。
彼らは、セラたちを逃がすつもりはない。
「このままでは、いずれ追い詰められるな。」
エルが低く呟く。
「どこか、安全な場所を探さなければ。」
「どこへ行けば……?」
「……一つ、心当たりがある。」
エルが立ち止まり、周囲を見回した。
「この先に、かつての刻印の神官たちが使っていた地下聖堂がある。今は廃墟になっているが、隠れ場所としては最適だ。」
「でも、そこに行って何をするの?」
エルは少し考え込み、低い声で言った。
「……“ルイスの記憶”を取り戻すための鍵を探す。」
「……え?」
セラは足を止め、目を見開いた。
「ルイスの記憶……?」
「そうだ。」
エルは静かに続ける。
「ロウエンを止めるには、奴の支配を正当化する根拠を崩さなければならない。そのためには、ルイスの存在が重要になってくるだろう。」
「待って、待って!」
セラは思わずエルの腕を掴んだ。
「どうして、あなたがそんなことを知ってるの?」
「……。」
エルは少し目を伏せた後、ゆっくりと口を開いた。
「俺は、ルイスの記憶を消そうとしている勢力の存在を知っていた。」
「……!!」
「彼らが何を恐れ、何を隠そうとしているのかを考えた時、一つの可能性が浮かんだんだ。それが、“ルイスの記憶の鍵”だ。」
「……そんなもの、本当にあるの?」
「確証はない。」
エルは冷静に言った。
「だが、刻印の王の記録が完全に消えている以上、何者かが“意図的に隠した”と考えるのが自然だろう?」
セラは息を呑んだ。
「つまり……ロウエンを止めるためには、その“鍵”を見つけなきゃいけないってこと?」
エルは静かに頷いた。
「それが、ロウエンの支配を覆す手がかりになる可能性がある。」
セラは拳を握りしめた。
ルイスがこの世界を変えた意味を証明するために——
「だったら、絶対に見つけ出さなきゃいけない。」
セラの中で、新たな決意が生まれはじめた。
「ルイスが残したもの——それがこの世界にどんな影響を与えているのか、俺たちはまだ知らなすぎる。」
エルの目が、真剣に光る。
「……分かった。」
セラは決意を込めて頷いた。
ルイスの記憶の鍵が、この戦いを変えるかもしれない。
彼らは再び走り出した。
しばらく走り続け、彼らは王都の外れに辿り着いた。
そこには、崩れかけた石造りの聖堂があった。
「……ここが?」
「かつて、刻印の神官たちが祈りを捧げていた場所だ。」
エルが扉を押し開くと、埃っぽい空気が広がった。
「随分と荒れていますね……。」
レオンが呟く。
「でも、隠れるには最適ね。」
セラは中に足を踏み入れた。
古びた祭壇の前に、大理石の床が剥がれたような場所があった。
「ここ……何か隠されてるのかしら?」
「そうだ。元々ここには、王家の秘密の記録が収められていたと言われている。」
エルは慎重に床を調べ始めた。
「おそらく、この下に地下室があるはずだ。」
セラは息を呑む。
もしそこにルイスの記憶に関する何かが残されていたなら——
「エル、どうやって開けるの?」
「……仕掛けがあるはずだ。」
エルが周囲を見回し、祭壇の側面に埋め込まれた石版に手を触れる。
すると——
ゴゴゴ……ッ!!
鈍い音を立てて、床の一部がゆっくりと開いた。
「開いた……!」
セラは驚きながら階段を覗き込んだ。
そこには、奥深くへと続く暗闇が広がっていた。
「行こう。」
エルが先に進み、レオンとセラも続く。
地下室は意外にも広く、中央には古びた石の台座があった。
そして、その上に——
「……これは?」
セラが慎重に近づくと、そこには一片の石板が置かれていた。
「これが、“ルイスの記憶の鍵”……?」
エルは石板を慎重に見つめ、ゆっくりと指で表面をなぞった。
「……これは……」
彼の表情が険しくなる。
セラは不安を抱えながらも、エルの様子を見守る。
「ルイスの記憶の鍵で間違いなさそうだ。」
「……どうして?」
セラは思わず問い詰めた。
「あなたは、この石板を見たことがあるの?」
エルは一瞬、言葉に詰まる。
「いや……直接は、見たことはないが。」
「じゃあ、なぜこれがルイスの鍵だと分かるの?」
エルは深く息を吐き、石板を示した。
「この石板には、古い刻印文字が刻まれている。」
「……刻印文字?」
「かつて王家に仕えていた神官たちが記録を残すために用いた文字だ。」
エルの指が、石板の一角を示す。
「ここを見ろ。これが、刻印の王が持つべき“象徴”を示す紋章だ。」
セラは息を呑んだ。
「ルイスが……?」
「そうだ。」
エルの声が低く響く。
「これは、間違いなく“刻印の王”に関するものだろう。 つまり、ルイスと関わっている可能性も極めて高いはずだ。」
セラは石板を見つめながら、震える手でそれを抱きしめた。
「これが、ルイスの記憶に繋がる鍵……?」
確信はまだない。
でも、この石板を解読すれば、ルイスが刻印の王だったという決定的な証拠が見つかるかもしれない。
それを知ることができれば、ロウエンの支配を覆せるかもしれない。
セラは石板を見つめながら、唇を噛みしめた。
ルイスの記憶がもしこの石板に刻まれているのなら——
解読さえできれば、ロウエンの正当性を打ち砕く鍵になる。
「……だったら、これを解読するしかないわね。」
セラは強く頷き、石板を抱きしめた。
「ルイスの記憶を明らかにして、ロウエンの支配を止める。」
エルとレオンがその言葉に頷く。
「そうだな。そのためには、安全な場所を確保して、この記録を解読しなきゃならない。」
「でも、解読する方法は……?」
「心当たりはある。」
エルの目が鋭く光る。
「かつて王家に仕えていた神官たちが、刻印の記録を守っていた場所がある。その聖堂跡に向かえば、解読の手がかりが見つかるはずだ。」
セラは大きく息を吸い、決意を固めた。
「じゃあ、そこへ行きましょう。」
だが、その瞬間——
——バンッ!!!
突然、地下室の扉が乱暴に蹴破られた。
「しまった、追ってきましたか!」
レオンが剣を構える。
闇の中から現れたのは、黒衣の兵士たちだった。
「お前たちがここに来ることは分かっていた。」
先頭の男が冷たい声で言う。
「その記録は、この世にあってはならないものだ。」
「なぜ……!」
セラは石板を握りしめ、叫んだ。
「なぜ、ルイスの記憶を消そうとするの!?」
男は表情一つ変えずに答えた。
「それを知る必要はない。」
「そんなこと、認めるわけない!」
セラは剣を抜き、石板を守るように構えた。
「ならば、力ずくで消してやる。」
男が手を上げると、黒衣の兵士たちが一斉に襲いかかってきた。
「くそっ……!!」
レオンが剣を振るい、エルが魔法で応戦する。
だが、黒衣の兵士たちは異様なほどの動きの速さで、次々と攻撃を繰り出してくる。
「こいつら、普通じゃない……!」
エルが歯を食いしばる。
「セラ、今のうちに行け!」
「でも……!」
「あなたが記録を持ち帰らなければ意味がありません!」
レオンが叫ぶ。
「ここは俺たちが時間を稼ぐ!」
エルの叫び声に、セラは石板を抱え、後ずさる。
「でも、あなたたちが……!」
「大丈夫です、私たちを信じてください!」
レオンが力強く言った。
セラは拳を握りしめた。
この記録を守らなければならない。
ルイスがこの世界に刻んだ記憶を、消されるわけにはいかない。
「……分かった!」
彼女は踵を返し、出口へと駆け出した。
「逃がすな!!」
黒衣の兵士たちがセラを追いかけようとする。
だが——
ゴォォォッ!!
エルの魔法が炸裂し、兵士たちの動きを止める。
「今のうちに!」
セラは振り返らずに走った。
彼女は、ルイスの記憶を守るために——戦いの先へと進む。
セラは息を切らしながら、地下聖堂の狭い通路を駆け抜けた。
背後で響く剣戟の音、エルの魔法が炸裂する轟音、レオンの怒号——
(私がここを抜ければ、ルイスの記憶は守れる!)
そう信じて走るしかなかった。
石板を抱え、暗い通路を進む。
だが、その時——
シュッ——!!
空気を裂く音とともに、鋭い刃が壁に突き刺さった。
「……っ!」
セラはとっさに立ち止まる。
目の前に、黒衣の兵士が立ち塞がっていた。
「逃がさない。」
低く冷たい声。
——そして、セラの背後にも新たな足音が迫っていた。
挟み撃ち——
「……っ!」
セラは剣を構える。
「その石板を渡せば、命は保証しよう。」
「……冗談じゃない!」
セラは震える手で剣を握りしめた。
「これは……ルイスが残したもの……!」
「ならば、ここで消えるがいい。」
兵士が剣を抜き、鋭く踏み込む。
——その瞬間。
ガキィン!!
鋼がぶつかる音が響いた。
「ぐっ……!」
兵士が大きく後退する。
そこにいたのは——
「……間に合いました。」
レオンだった。
「……お怪我は、……ありませんか。」
「レオン!?」
「エルが敵を足止めしてる間に、私も先に抜けてきました。」
「……!」
セラの胸が熱くなる。
レオンは、セラが確実に脱出できるように辺りを見渡している。
「だったら……絶対に逃げ延びなきゃ!」
セラは拳を握りしめた。
「セラ、急ぎなさい!」
レオンが黒衣の兵士と刃を交える。
セラは再び駆け出し、先へ進むと——
石壁の奥に、崩れかけた階段があった。
「ここから、地上に出られる……!」
だが——
——ズズンッ!!
突如として天井が崩れ、瓦礫が落ちてくる。
「きゃっ……!!」
バランスを崩し、転がるように地面に倒れ込む。
「ぐ……っ!」
必死に体を起こそうとした、その時——
「もう終わりだ。」
黒衣の男が静かに剣を構えた。
(ここで終わる……?)
そう思った瞬間——
「——終わるわけ、ないだろ!!」
再び、鋼がぶつかる音が響く。
「……!」
剣を受け止めたのは、エルだった。
「エル……!?」
セラは驚きながらも立ち上がる。
「エル、お前……どうやって!」
レオンが叫ぶ。
「お前が先行した後、すぐに敵を撒いてきたんだ!」
エルは短剣を振り、黒衣の兵士たちを牽制する。
「セラ、行け!! 今度こそ!!」
「でも……!」
「俺たちも絶対に後から行く!! だから、今は何としても記録を守ることを優先しろ!!」
エルがそう言い放つ。
「……っ!」
セラは強く頷き、最後の力を振り絞って駆け出した。
彼女は、ルイスの記憶を守るために——
ついに地上へと飛び出す。
夜明けの光が、薄暗い空に滲んでいた。
「……間に合った。」
セラは荒い息を吐きながら、石板を抱きしめた。
ルイスの記憶を守るために——彼女は、生き延びた。
だが、戦いは終わっていない。
エルとレオンも無事なのか?
黒衣の兵士たちは、まだ追ってこないのか?
「これが……本当に、守られるべきものなの?」
セラの心には、新たな疑問が芽生え始めていた。
ルイスの記憶を巡る戦いは、まだ始まったばかりだ。
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