一話完結ホラー短編集
檸檬
踊り場
手すりに手をかけると冷たい金属の感覚が肌を突き刺した。ざらついた空気を纏う階段を一段下りる度、何かの記憶の残響を感じる。
靴が階段を叩く無機質な音が辺りに響き続ける。一段降りる度に、心拍数が上がる。これは疲労ではなく、焦燥のように感じる。
――早く下に降りなくては……
永遠にすら感じる階段を駆け降りていると、少し広い踊り場へと辿り着いた。どうやら階段の折り返し地点のようだ。
床は埃を薄く被り、隅には青色のキーフォルダーが転がっている。その中央には一際目を引くものがあった。ハッチだ。金属製の重々しいハッチ。私はそれを開けようとするが、全く開こうとしない。ガタガタというハッチが揺れる音だけが、暗闇へと溶けていく。
私は再び階段を降りた。僅かな焦燥を帯びた息を小刻みに切りながら、階段を降りる。手すりには相変わらず冷たさだけが存在している――
するとまた、踊り場へと辿り着いた。踊り場――普通の踊り場だ。しかし何かおかしい。
同じなのだ。全てが同じ。ハッチの位置から部屋に漂う空気、落ちているキーフォルダーの種類までもが、先程のものと同じなのだ。
私は最初、この事実に気づかなかった。いや、気付きたくなかったのだ。だが、この部屋はこの恐ろしく不気味な事実を仄めかす。私は踊り場を通り過ぎる間際、そこで立ち止まってしまった。得体の知れない恐怖そのものに背中を押されて、私は階段を駆け下りた。
だが、次の踊り場も同じ景色が広がっていた。
床には薄っすらと何かが降り積もり、扉が付いていた。青色の何かが嫌な程目に付いた。私は得も言えぬ恐怖から、何も分からず階段を下りた。自分が先程まで何をしていたのかすら、もう私には分からなくなっていた。
半ば転がり落ちるように、私は階段を下った。同じ踊り場を繰り返す内に、意識は混濁し、気付けば恐怖だけが私の心を支配していた――
ゴンッ―後頭部に鈍痛が走る
手すりに手をかけると冷たい金属の感覚が肌を突き刺した。ざらついた空気を纏う階段を一段下りる度、何かの記憶の残響を感じる。
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