第28話 ポラリスの決意

「あんがと。最後にそう言ってくれて、嬉しいよ。ポラちゃむがいれば、安心だ」


 あーしを抱きしめる。嫌な予感がした。


「最後って」


「あーしは、もうだめだ。早く逃げて……!」


 じわっと涙が出てきた。


「……どぅーちゃむ! ……わたし、逃げるなんてやだよ!」


 どぅーちゃむは優しく言った。


「だめ、行って、ポラちゃむ」


「やだよ、どぅーちゃむのことおいていけないよ!」


 どぅーちゃむはあーしの頭をそっと撫でながら言ってくれた。


「あーしはもうすぐ悪魔に乗っ取られて、ポラちゃむのことも殺してしまう。そうしたら、あーしたちのこと、みんな忘れて、この姿のことも憎むようになる。その前に逃げて……あーしらのいない世界で、強く生きて」


 覚悟に満ちた目だった。別れたらもう二度と会えない。そうやってなんとなく、子供心に感じていたのかもしれない。


「やだよ。みんな忘れちゃうなんて。どぅーちゃむはみんなのこと守ってくれたのに、みんなに嫌われちゃうなんてやだよ」


 だだをこねるあーしに、どぅーちゃむは優しく笑いかけてくれる。


「ポラちゃむが覚えてくれればいい。ポラちゃむが、好きでいてくれれば、それで十分幸せだよ」


「……でも、わたしだけ、覚えてるなんて……さみしくてやだよ。一緒に好きって言ってくれる人、いてほしいよお」


 ぐずるあーしを、どぅーちゃむは抱きしめてくれた。


「大丈夫。きっと、いつか、一緒に好きって言ってくれる人が、出てくるからね」


「ほんとうに?」


「ほんとうだよ。そうしたら、その人と一緒に、あーしたちの話してくれればいい」


「でも、どぅーちゃむは……」


「悪魔を封じ込めたら、あとはポラちゃむを守るくらいしかできない。しかたないんだよ」


「……じゃあ、わたしが悪魔をやっつける!」


 あーしは、お姉さんの持っていた鎌を奪い取った。


 それを持つと、あーしの体はどぅーちゃむみたいな黒くてフリフリの服に包まれた。角も生えて、しっぽも生えてきた。まるで、どぅーちゃむになったみたいだった。


「どぅーちゃむの代わりに、わたしが……ううん、あーしが悪魔をやっつけるよ!」


「ポラちゃむ……」


 首を振った。


「危ないよ、悪魔と戦うのは。そんな姿、見てられないよ」


「ううん。この姿、好きだから」


「好きだから?」


「そう。好きなもののためならがんばれる。小悪魔系が、『サイキョー』で『カワイイ』ってこと……あーしが世界の人に見せてあげるんだ!」


「サイキョーで、カワイイ……」


 どぅーちゃむは、あーしを見つめてきた。


「うん。あーしが、そうなる!」


「あんがと、ポラちゃむ……」


 どぅーちゃむはあーしを抱きしめた。体が薄くなっていく。


「ポラちゃむ、かわいいね」


 あーしは泣きながら鎌の柄を握り締めた。そして、どぅーちゃむは、消えていった。


 --それが、あーしがサイキョーカワイイエクソシストになるって決めた日だ。


 その日以来、悪魔の姿は、もっと恐れられ、嫌われるようになった。


 七祭星の存在は忘れ去られて、エクソシストの間でだけ、七災星と呼ばれるようになった。


 どぅーちゃむたちの歌を……口ずさむ人はいなくなった。


 その日以来、あーしは十年間、戦い続けている。


 どぅーちゃむにはエクソシストの才能があった。七災星の力の一部を奪い取って、あーしに渡すことに成功したのだ。


 そして彼女の小悪魔系を愛する気持ちを引き継いだあーしは、憎しみなしに悪魔に同調し、力を使えるようになった。


 だから、強い力を、リスクなしで使えるようになった。


 組織からは疎まれる結果になったけれど。


 でも、悪魔の姿が醜いとか言われても関係ない。


 どぅーちゃむが最強で可愛いってこと……証明するんだ!





 

 ★





 

「う……う……」


 あーしが目覚めたとき、よく見知った天井があった。ここは、自分の家のベッドだ。


「ポラリスさん!」


 上から、ルクスたそが覗き込んでいた。心配そうな顔から、少し明るい顔に変わる。


「よかった、目覚めて……!」


「い、生きてる……?」


 あーしはがばっと起き上がった。信じられない。思いっきりアルファに腹をさばかれたはずだ。


 お腹を見ると、大きな傷はなくなっていた。たそがそこに手を当てている。


「はい。悪魔の力を治癒に使う方法も、教わっていましたから」


 淡い光がお腹を照らす。もちろんまだまだ痛むけど、致命傷ではない。


 確かにルクスたそは、五日間の特訓の中で治癒もやっていた。とはいえ、すごい才能だね。


「あ、あんがと。でも、なんでここに……?」


 気を失う前、リート市の公会堂にいた。敵に囲まれて、あーしは倒されて、絶体絶命だったはずだ。なんで生き延びているんだろう。


「リゲルさんたちが来てくれたんです!」


 ルクスたそはぐっと拳を握り締めた。


「リゲル君!?」

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