第16話 決着

「でも、どうやって……」


 ルクスたそは不安そうだ。確かにもう時間はない。後ろからも魚たちが大群で追ってきている。


 でも、あーしには考えがあった。


「魚クンの場所……絶対とは言えないけど、一つだけ思い当たるところがあるんだ!」


「どこでしょう?」


「最初にいた場所!」


「あっ……」


 魚クンが現れた場所から、あーしたちは一気に押し流された。その先に魚たちがいて、敵の攻撃が始まった。魚クンはそこにあーしらを押し流したかった。逆に言えば、最初にいた場所では、戦いたくなかったんだ!


 そして何より……。


「木を隠すなら森の中……魚を隠すなら、イソギンチャクの中ってね!」


 逃げながら、最初の場所まで来た。ルクスたそと魚の例えで盛り上がった水槽だ。


 たくさんのイソギンチャクがあった。中にはきっと、ある一匹の魚が隠れている。


「めんごっ!」


 がばっと鎌を一振りし、イソギンチャクをぶった斬った。


 イソギンチャクくん、痛いかもだけど……また根っこから生えるから、ちょっと我慢してね!


 赤い体は一気に飛び、さっぱりとした岩場になった。


 そこに、小さくて赤と白の縞々の……かわいい見た目の熱帯魚が隠れていたんだ!


「クマノミくん、見ーつけた!」


「く、くそおっ! ここがばれるとはア……!」


 クマノミは、魚クンの声でしゃべった。


 大当たりだ。魚クン本体はクマノミに乗り移り、イソギンチャクの影に隠れていた。そしてあーしらを下の階に押し流し、操った魚で安全に勝とうとしていたんだ。


 なんかそれが、あーしには無性にむかついた。


 戦う前に、ルクスたそと一緒にしていた話を思い出したからだ。


 --あーしたち、クマノミみたいだね?


 --最の高です!


 --やったー!


 あーしらの思い出を、魚クンなんかに乗っ取られたくないと思ったからだ!


「に、逃げ……」


 あーしは魚クンの後ろに回り込む。そして鎌を突き付ける。


「……あのさあ。悪いけど、体から出てってくれるかな!?」


「ひ、ひいっ」


 こうなれば逃げ隠れしている奴は弱い。あーしは、柄にもなく魚クンを睨みつけた。


「その子、あーしらみたいなんだよね!!」


「はい~!?」


 あーしの怒りは、魚クンにはわからないだろう。でもそれでいい。


 ルクスたそが隣でうなずいている。あーしとルクスたその間でだけ、わかればいいんだ。


「たそっ」


「はいっ!」


 ルクスたそは弓を引いた。クマノミくんに矢が刺さり、気絶して……その中から不気味に光る、魚頭の巨大な人間が飛び出てきた。


「ひ、ひい!」


「魚クン、幸福がどうとか言ってたけどさ。キミがいなくても、あーしらだいぶ幸せだから!」


 あーしはそこにすばやく接近して、ふところに入った。


 ぐるっと回転して鎌を振り、両足を一気に斬り落とす。


「ぐああっ!!」


「『永遠』もあんま、キョーミないんだよね!」


 悲鳴をあげてひるんだところに、切り落された足をキックして泳ぎ、ジグザグに上半身を上っていく。腕を斬り落としながら、体に稲妻みたいな傷も入れていく。


「ギャアアアア!!」


 両手両足を失った魚クンの、背びれと尾びれもスパッと斬り落とす。これで泳ぐのかは知らないけれど……もし逃げられたら困るじゃん?


「今ここで、ルクスたそといられることの方が大事だから!」


 そして、ボロボロ泣いている魚クンの口元に、鎌をギラっと突き付けた。


「はいおしまい。魚クン、七災星の居場所、言ってみよっか?」


「やめて、やめて、やめてくださイ〜!」


「やめてほしいなら、言ってほしいな~」


 鎌をとんとんと目玉の近くで叩く。


 魚クンがエクソシストから逃げてきたのは、こうなるのが怖いからだ。強い悪魔ほど、生きるために色々考えている。吐けば見逃されるかも……とか思ってくれないかな? もちろん、とどめは刺すつもりだけど。悪魔は改心とか絶対しないからね。


「は、はひ……言います。言います」


 魚クンは口をパクパクさせ、涙を流しながら言った。


「これからちょうど一週間後、リート市の国立歌劇場で悪魔の集会が行われます! ムジカ共和国中の悪魔が集まって……七災星アルファ様の復活の儀式を行うのです!」


 目や口の動きを見た。余裕なときは別だけど、命の瀬戸際まで追いつめられたら、悪魔も嘘はつけない。嘘なら絶対わかる……これは本当だ!


「一週間後に国立歌劇場ね! あんがとっ!」


 あ-しは魚クンに笑いかけた。


「あ、あ、ならば、お助けを……」


「めんごっ!」


 ズバッと、魚クンの首をかき斬った。悪魔と言えど苦しまないようにってのが、言ってくれた相手への礼儀だ。たとえ、どんなにむかつく相手だとしてもね!


「あああ……!」


 魚クンは、最後に切ない声をあげて消えていった。


「ポラリスさーん!」


「ルクスたそ、ありがとー!」

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