第36話 ズッ友大作戦
さっきからアルファは撃ち合いの際にうまく位置取りをし、あーしとルクスたその間に入らないよう動いていた。そのせいで、たそは援護ができなかった。でも逆に言えば、たその攻撃が厄介だから逃げているってことだ!
「そんなことないわ~♡ あの子の矢、無駄だったでしょう♡」
「ほらね、言ったとおり!」
必死に否定しているのがその証拠だ。
ルクスたその矢には、悪魔に乗っ取られたものから悪魔を追い出す力がある。
でも、シリウス君が肉塊になったとき、ルクスたその矢で射ってもちょっと肉が飛び散るだけで元に戻らなかった。そのときに、アルファの力は浄化できないと思ったのだ。
だけど、戦いでルクスたその矢はアルファに効いていた。ビームを撃ち落としたり、鎌を跳ね上げたりもできていた。
つまり、効き目が弱いけど、無駄ではないんだ。十年もの長い時間をかけ、アルファはどぅーちゃむの体と深く結びついている。でも、ルクスたその矢に、アルファの力を引きはがす効果は確かにあるのだ!
「たその矢はアルファに効く! だから、たそから逃げるように動いているんだ!」
キィンと、敵の鎌をはじき返した。アルファの動きのキレがびみょい。あーしの言葉に、少し心が揺らいでいるのだ。
「……だとしても、どうするのかしら~♡」
「そうです! 少ししか効果がないのなら、どうやってとどめを……」
たそが聞いてきた。あーしは鎌を向けて答える。たった一つの、解決策を!
「簡単だよ。あーしの鎌と、ルクスたその矢を……完全に同タイミングで打ち込む!」
「ええっ」
「そうすれば、ルクスたその矢が当たって一瞬体から離れたアルファだけを……鎌でぶった斬れる! どぅーちゃむを傷つけることなしにね!」
アルファは唇をきゅっと結んだ。今までにない表情だ。
「……完全に同タイミング……ですか!?」
「うん。少しでもずれればどぅーちゃむの体を傷つけてしまう。それに、チャンスは一回しかない。どーしたって、敵さんの攻撃に合わせて、相打ち覚悟でぶちこむしかないからねっ!」
「ううっ……」
危険な作戦。ルクスたそは考えているようだ。そこにアルファが揺さぶりをかけてくる。
「いいのかしら~♡ 作戦言っちゃって~♡」
「いいんだよ。そっちもこっちも、やること変わんないでしょ!?」
相手は最高の絶望を手に入れるため、こちらを全力でやりにくる。悪魔とはそういう生き物だ。
相手にバレないことより、こっちのタイミングを合わせることの方が大事! 相打ち覚悟の一発勝負。うまくいけば、相手を倒せる。失敗すれば、ジエンドだ。
「それもそうね~~♡」
アルファは鎌を構える。両手に一本ずつ、空に十本ほど浮いている。
「そゆこと。じゃあルクスたそ、行くよ!」
あーしは、そこに突っ込んだ。鎌が飛んでくる。アルファが切りつけてくる。それをよけながら斬り結ぶ。
「えええっ……」
「練習した通りの連携だよ! ルクスたそのタイミングで始めて!」
「えええ~~~」
たそは躊躇している。
その気持ちはわかる。
練習では、連携はかなり良いところまで行っていた。でも、完璧に同じタイミングではなかった。それを、最強の敵相手に一発で成功させなければならない。
「そんな危険なことできません! わたくしのタイミングで、ポラリスさんの命がかかるなんて……」
「ルクスたそだってさっき捨て身だったんだから、これでおあいこでしょ! あーし、心配したんだからね!」
「ううっ」
ルクスたそは最後の一歩が踏み出せないようだ。まったく、自分の命は平気で投げ出すのに、人のことになると心配性なんだから!
その間にも、鎌があーしを襲う。よけきれない。徐々に傷が増えていく。少しでも油断したらやられるし、致命傷を食らうのも時間の問題だ。
「ふふふ~~♡ 相方さん、ダメみたいね~~♡」
アルファは笑う。
でも、ルクスたその気持ちはわかる。彼女はずっと、どぅーちゃむの死を忘れていた。
悪魔の力の効果もあるけど、きっと、ショックだったんだ。
小悪魔系ファッションをこっそり描いているくらい好きで。歌も無意識で覚えているくらいに好きな……大切なお姉ちゃんを、失ってしまったことが、辛かったんだ。
--だから、あーしのこと、『ポラちゃむ』って呼んでくれなかったんだ。
『ちゃむ』って呼び方は、たった一人の大切な姉へ向けてのものだ。
『どぅーちゃむ』のこと、無意識でずっと覚えていたから……そして、彼女の死を、受け止めることができなかったから。言えるはずがない。
当然だよ。あーしがアルファを斬れないのと同じだ。
そして今、あーしを失うことを、何よりも恐れてくれている。だから、一歩を踏み出せない。
だけど、そのせいで、タイミングを合わせることができない。
そうだ。
あーしたちの心は、完全に重ね合わさっていない。本当の意味でズッ友になるために、お互い乗り越えないといけないんだ。
あーしは、アルファを斬らないといけない。
そして、ルクスたそは--。
「ルクスたそ! お願い!」
あーしは叫んだ。血が出る。アルファの鎌に何度も斬り刻まれ、痛くて苦しい。
でも、精一杯叫んだ。
「……命、預けさせてよ!」
もう、人に助けを求めるのを怖がったりなんかしない。
「あーしの全部、賭けさせてよ!!」
大切な人を失うのを恐れて、尻込みしたりなんかもしない。
「世界でたった一人、どぅーちゃむの歌と、小悪魔のかわいさを一緒に好きって言ってくれる……かけがえのない、ズッ友なんだからさ!!」
ルクスたそを、本当の意味で信頼して……少しも遠慮せず、全部を託すんだ!!!
「ポラリスさん……!」
今までずっと言ってきたことを、改めて叫んだ。
「だから、あーしのこと……あだ名で呼んでほしいよ!!!!」
戦いの中で、ルクスたその瞳が一瞬だけ視界に入った。
「あだ名で……」
その顔は、涙にぬれていて……そして、光が宿っていた。
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