第3話 シスター・アクルクスを助ける



 ★




 あーしは、アクルクスっていう修道女のお姉さんを見つめていた。


 やっぱり、あのときのお姉さんにちょっと似ている。


 背が高くて、目のシュっとした美人系で、スタイルも良い。あーしと完全に正反対で、なんだかちょっと憧れちゃうな。小悪魔系のセクシーな姿が似合うかも。


 いや、今はそれどころじゃない。


 悪魔に襲われていて怖がっていたんだ。フォローしないと。


「それより、ルクスたそ……けがとかない?」


 ウインクすると、彼女は困ったような目で首を傾げた。


「大丈夫です……たそ?」


「うん。アクルクスだからルクスたそ。あーしはポラリスだから、ポラちゃむって呼んで?」


 あーしが自分を両手の人差し指で差すと、ルクスたそは口をパクパク言わせていた。


「ポ、ポラリスさん? どうして急に親し気なのでしょう……?」


 あれ、ちゃむはなし? ガード固いね。あーしはウインクしながら肩に手を置く。


「やだなー、死にそーなところを一緒にかいくぐったんだから、もうズッ友でしょ!」


「ずっとも?」


「うん、ずっと友達って意味!」


「えええ」


 嫌がっているというより、単純に驚いて目を回しているみたいだ。悪魔と遭ったショックがでかいのかも。そのときだった。


「悪魔はどこだ!」


 ドタバタと数人の男たちが入ってきた。体に黒いローブを羽織り、腕にはグロい触手がうごめいて、ゆがんだ黒い槍や斧を持っている。


 一番大きな剣を持った青年がこちらを睨んだ。


「ポラリス! また単独行動か!」


「リゲル君、遅いじゃん? もう終わったよ」


「ふん。醜い悪魔の姿を喜ぶ異端者め……まあいい、まずは民間人の保護と施設の修復を急げ」


 周りの人たちはてきぱきと働き、片付けや子供たちの保護に入っている。ルクスたそが聞いてきた。


「あの方たちは……?」


「組織のエクソシストだよ」


「組織とかあるんですか?」


「うん。悪魔を倒すだけじゃなくて、後処理もする。悪魔に関わった人は、組織が守るんだ。もう悪魔に騙されないよう、病気を治すとこまで面倒見てくれるよ」


「それは、よかった……レダさんも治るのですね」


 ルクスたそは胸を撫で下ろした。


 医者が箱から戻った子供の診察をしている。病気の子もこれで大丈夫だろう。


 でも、あーしにはわかる。組織が出てきて、安心できることばかりじゃない。


 特にルクスたそはピンチだ!


 案の定、リゲル君はルクスたそに目を止めた。


「そいつか? エクソシストの力を使ったのは」


 すごい形相で、脈がうごめく黒い腕を伸ばしてきた。


 彼は若くしてリート市のエクソシストを総括するリゲル君。ザ・『組織の人間』って感じのエクソシストだ。実力は確かだけど、頭が硬いのが玉に瑕なんだよね。


「ひいっ」


 びっくりしたルクスたそは、震えながらあーしにしがみついてきた。そりゃそうだ、リゲル君見た目怖いもん。戦いは終わったけど、悪魔の残党に警戒して、力を解除していないんだろう。


「わ、わたくしになにかご用で?」


「説明はあとだ。組織本部まで来てもらおうか!」


 あーしは、急いで間に割って入った。


「ちょい待ちっ!」


 ルクスたそはあーしの後ろに隠れる。たその方が背は高いから、隠れられてないけど……。


「ルクスたそ、怖がってるじゃん。まずは説明しなよ!」


「くそ……面倒な奴だ……!」


 リゲル君は腹立たし気に頭をかいた。


「エクソシストの才能のある者は、悪魔と出会うと反応して力が目覚める。しかし、それを制御するには訓練が必要だ。今すぐ組織に入団してもらおう!」


「入団、訓練?」


「説明は以上だ! さあ来い!」


 ルクスたそに手を伸ばす。なんて強引な。


「ぐあああ!」


 しかし彼は、腕を抱えて苦しそうに膝をついた。


「くそ、悪魔の力が、うずくッ……!」


「ど、どうしたんでしょう?」


 ルクスたそは心配そうに見つめていた。このお姉さん、連れ去られそうになったのに、人が良すぎないかな……?


「悪魔の力の副作用だよ。みんな、無理してるからねー」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないけど、まずは自分の心配しなよ。このままだと、無理矢理連れていかれて彼と同じ目にあうよ」


「そんな……」


 彼女は震えた。さっき自分で力を使ったから、その苦しみがわかるんだ。組織に行ったら、より憎しみや怒りに心を浸す訓練をさせられる。途中で、悪魔の力にのまれて死ぬ人も多い。組織はそれを強要しているのだ。


「そいつを早く、連れていけ! 入団し、訓練するのだ……っ! 生存率は半分だが……耐え切れば戦力になる!」


 リゲル君は、もだえながらも命令する。半分死ぬと言われて、入団する人がいたら逆にびっくりだよね。


「はっ」


 組織の人たちは、ルクスたそを取り囲んだ。


「ど、ど、どうしましょう」


「とりま、ここから逃げよ?」


「逃げよって、どこに?」


「あーしの家!」


「ええっ」


「ちょい、めんご」


 あーしは鎌を背負って、ルクスたそをひょいっと抱きかかえた。悪魔の力は肉体強化もできるのだ……にしても軽い。やせすぎでは?


「じゃ、またあとで~♪」


 ぴょんっと飛んで逃げ出した。

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