019 かき氷

 夏真っ盛りのとある日、今日も今日とて冷房控えめ、下着姿でも働きやすい環境であるシルキストに一見さんがやってきた。


「あ、あの……ここ、カフェで間違いないですか?」


 入って来たのは水色のブラウスに白いロングスカートの大学生くらいの女性。髪は少し長くて夏に避暑地を歩いていそうなお嬢様っぽい雰囲気だ。

 おそるおそるといった様子で店内を覗く彼女に駆け寄り接客する。


「はい、カフェで間違いないですよ。おひとり様ですか? どうぞ」

「は、はい。ありがとうございます。……その、なんで下着なんですか?」


 ……至極当然の問いだと思う。


「えっと、こちらランジェリーショップを併設しております。よろしければ、そちらもご覧になりますか?」

「そっちは……別に、いいです。高そうだし……」

「いえいえ、そんなことないですよ。今、私が着けているのもここで売っているんですけど――」


 席へ案内しながらブラをアピールする。よくよく考えたら恥ずかしいことなんだろうけど、ここにいるとつい気が緩むというか、当たり前のようになってしまう。

 にしても、恥ずかしがるお客さんなんて珍しい。どうして来店したんだろうかと不思議に思ってしまう。


「えっと、かき氷、いいですか? 練乳いちご味で」

「はい、かしこまりました。他にご注文は?」

「食後に温かいほうじ茶を」



 受け取ったオーダーをキッチンに通し、他の席のバッシングを済ませる。かき氷はオーダーを受けてからかき氷機にセットして削り出すのだけれど、オーナーのこだわりなのか大き目の氷を取り寄せてふわっと仕上がるかき氷を提供している。


「ランちゃーん、かき氷できたよー」


 いちごソースの赤と練乳そして削られた氷の白が層になるように仕上がったかき氷をモエちゃんから受け取り、さきほどのお客様のところへサーブする。


「お待たせいたしました。練乳いちごのかき氷でございます」


 テーブルにお皿を置くと、私はお客様の正面に座る。初めましてのお客様だし、少しお話ししたいなと思ったのだけれど、


「えっと、店員さん? そこにいられると、かき氷の写真をSNSに上げられないよ……?」


 言われて確かにと思ったので、隣に座ることにした。


「えっと、ここ……いかがわしいお店なの? ひょっとして、すっごく高いチャージ料とか取られる?」

「いえいえ、うちは明瞭会計ですし、オプション代とか取りませんよ。ただ、初めましてのお客様と少しお話しをしたいと思いまして。かき氷お好きなんですか?」


 写真を撮り終え、一口食べた彼女に問いかけると、思いもよらない答えが返ってきた。


「初めましてじゃないよ、下条さん」

「……ふぇ?」

「同じ学科の米村だけど……番号遠いから知らないかな」


 大学生くらいかなって思っていたけど、本当に大学生だったどころか、同じ学科の同級生だったとは。どうしよう、知り合いというか――私を知っている人に店で出会うってなんか緊張感あるね。


「普段もっと砕けた話し方の印象があるから、最初は気付かなかったけど、ランって名前出てるし、よくよく見たら下条さんだって」

「そっかぁ。ごめん、まだ学科の人の顔と名前を一致させてなくて」

「ううん。いいの、私が勝手に覚えてただけだし。友達も全然いないし、ここで働いてること秘密にしておく」


 ……秘密にしたいわけじゃないんだけどなぁ。まあ、言いふらすのも違うかなぁとも思っているけど。


「……かき氷が好きで、市内で出しているお店をこの夏に制覇するつもりで来たけど、まさかランジェリーカフェって本当にランジェリーだったとは。ブーランジェリーかと思ってた……」


 確かにパンとカフェだったら組み合わせとして違和感ないだろうけど、ここは下着とカフェでやらせていただいております。

 何はともあれ米村さんはかき氷を満喫した後、温かいほうじ茶で一息ついっていった。


「ここ、冷房がきつくなくていいね。……また、来てもいい?」

「もちろん。お待ちしてます。ふふ」


 かき氷好きってことしかまだ分からないけど、米村さんいい人っぽいのでぜひまだ来て欲しい。

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