She's Our Reason/箭嶋仁武

 義芭ヨシハの目標が実現すれば、魔術使いが命を懸ける必要はなくなるのか、という深結ミユの問いに。


「すぐ頷くことはできない、かな」

 義芭は迷わずに答えた、希望を与えるためのごまかしは嫌う女だ。

「少子化で魔技士自体の数は減っている。魔技士がやっていた仕事を一般人ができるようになっても、その仕事から離れられる魔技士が増えるかは微妙だと思う。けどね」

 楽観を排したうえで、見出せる希望を。現実の延長として、彼女は語る。

「自分たちにもできるなら、魔技士ばっかりに任せるのは違うよなって。社会の意識が変わることは、充分にあり得ると思う。そうなれば、魔技士への重圧は減るんじゃないかな」


「……そっか。それは結構いいかも」

 その希望は、深結にも響いたらしい。

「先輩たちに勝ってほしい理由、また増えちゃいました」

 柔らかな笑みで告げる深結。きっと彼女も、両親の負傷を通して、魔技士の在り方について葛藤を抱えてきたのだろう。


 ならば仁武ジンブからも、自分なりに励ましを贈りたい。

「ありがとう、けどそういう遠い話ばっかりじゃなくて……デュアエルもMAXウォーズも、めっちゃ熱くて面白いスポーツなんだ。深結さん嶺上ミネカミ出身なら、沙堂サドウ研護ケンゴ選手のことも覚えてるだろ?」

 かつて信坂を優勝に導いた、伝説的な刃闘士である。同郷ということで深結は盛り上がってくれるかと思ったが。

「ええ、嶺上の英雄って人ですし」

 そこまでな返答だった、昔の話すぎただろうか。


「それにほら、いずれミユミユも出るかもじゃん」

 深結の肩をぽんぽんとたたきつつ、義芭が言う。

「同じ学校っていう特等席で、めいっぱい楽しんでよ」


 決して軽くない悲しみを抱えてきたであろう後輩の少女に、楽しい学園生活を送ってほしい。

 理由なんて、それくらいで充分なのだ。


「はい! 推しの先輩たちの活躍、特等席で見せてもらいます!」

 その弾ける笑顔を、もっと輝かせたい――なんて思ってしまうくらいに。仁武の心の中で、深結は大きくなりつつあった。




 深結が去った後も二人で勉強を続け、さらにデュアエルの打ち合わせも済ませて部屋に戻ろうというところで。


 「……ねえ、仁」

 いつになく真剣な表情の義芭。

「どした」

「先輩相手だろうとさ。勝ち上がろうぜ、絶対に」

「当然そのつもりだが……珍しいな?」


 勝負への執念が強いのは仁武の方である。義芭も結果は重視するものの、こういうことを言う印象は薄い。

「いやね、良いとこ見せたい相手が増えちゃったからさ。ウチの家族も、仁の親も、信じてここに送り出してくれたじゃん。勇姿で応えたいんだよ、ちゃんと」

 魔技士を目指すにあたり、それぞれに葛藤を抱えてきた家族である。晴れ舞台に挑む姿で安心させたい、という感情は仁武にも共通していあ。

「だな、勇杜イサトとも約束したし」

 義芭の弟である、より仲が良いのは仁武の方だが。


「それにさ、ミユミユもあんなに応援してくれるんだし」

「格好いい先輩を見せたい、か」

 義芭は自らの思考を貫きすぎる癖があり、友人が多い方ではない。仁武や家族以外では最も長い付き合いの深結は、特別なのだろう。


 それで話は終わりかと、仁武は思ったが。

「あのさ、仁」

 作戦会議とはまた違う、真剣な義芭の声。

「なんだよ」

「もし、もしもだよ」

 何事もバッサリ言う義芭が珍しいな、と思ったら。


「ミユミユがあんたのこと好きになったらさ。それは、ちゃんと向き合ってあげて」

「……俺となんてそこまで仲良くは、ないだろ?」

「現状はね。ただあの子、魔術スポーツやってる男子に惹かれる可能性は高いのよ」

「アスリートフェチだってのは聞いてるけど、それと恋愛とは別なんだろ?」

「イコールじゃないけど関係はあるだろ? あんたならあたしを通して人柄も保証済みだし、あたしらの関係もリアルに知ってるからね」


 二人で親密とはいえ、あくまで兄妹同然であって恋人関係ではない、ゆえにどちらかが他の誰かと付き合うことに、バディとしては問題はない。

 とはいえ、とはいえ――などと、仁武が言い方に迷っているうちに。


「まあ、あたしが言いたいのはさ。本当にあの子があんたを好きになったとしたら、あたしらの関係を理由に断ることはしないでってこと」

「それは元から協定の内、だからな」

「そゆこと……こんな時間か、はい解散」

「ああ……いや待て一つだけ」

「うぃ」

「この話の開示範囲、後で教えろ」

「そだね、了解」


 誰にどこまでなら話していいかの取り決めである。一人で抱えるには、ちょっと難しい話だった。


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