躍動する鉄壁/箭嶋仁武
二本目が始まる前、義芭は仁武を呼ぶ。つかの間の作戦会議だ。
「次、どうする」
義芭の指示は明確だった。
「一本目と同じ冒頭、今度はドロップなしで飛び越える。どんな対空するか確かめよう」
「了解」
直央先輩の性格上、練習試合だろうと後輩に負け越すのは認められないだろう。手の内を明かすとしても取り返す、という意地での「奥の手」宣言だ。
ならばこちらは「奥の手」をしっかり引き出す、そのための練習試合である。
合図を待つ、仁武も直央も先ほどと同じ構えを取った。
お互いの意思表示がギャラリーにも伝わったところで開戦。
仁武と直央が接近、仁武は跳躍――ここまでは同じ。
しかし今回、直央は急停止からのバックステップを選んだ。仁武の着地を狩ろう、という狙いか。このまま仁武が前に飛び降りると、直央にとっては好機になる。
〈下がって様子見、
義芭の判断で、後ろ向きに落下軌道を修正した瞬間。相手の魔発ノイズが見えた、と思ったら。
「おりゃっ」
「――っ?」
前から飛んできた、手槍だ。仁武は反射的に体軸をずらして避けた、避けたはいいのだが。
「うおお――っ!!」
喊声と共に襲い来る壁。投擲とほぼ同時、壁盾を構えて直央が突進してきたのだ。これも咄嗟の判断で仁武は左後方に跳んだ。仁武の本太刀では盾に有効打は与えられないし、この速度なら躱して背後を取れると見切れたからだが。
「だっ!!」
鈍い音が響いた次の瞬間、仁武を衝撃が襲う。大盾に打たれた、押し倒されそうだ。しかしこのスポーツにおけるルール上のダメージはない、ならば。
「
遅れて突っ込んでくる直央の体へと、仁武はあがくように刀を振り下ろす。空振った腕を掴まれる、足を払われ投げられる、抜かれる。
「――まだ、」
受け身を取りつつ刀を拾い上げて反撃を――と振り向いたそのときには、直央は陣戸を突破していた。
「突破、そこまで!」
審判の宣言。すぐに直央が引き返してくる。
「大丈夫か仁武、思い切りやっちまったが」
仁武は立ち上がりつつ、体の具合を確認。反射的に「大丈夫」と答えるな、というのは父からの教えである。
「ええ、問題ないです。もう一本行きましょう」
立て続けに打撃を食らったが、アーマーのおかげで負傷には至っていない。なので身体的には問題ないのだが。
足早に義芭の元に戻ると、彼女は真っ先に「悪い」と手を合わせた。
「想定外で指示できなかった、あたしの不足だ」
戦局の想定にも、それに対する戦術の準備も、義芭は充分に長けている――と、相棒である仁武は評価している。ただ、想定外には弱い。ゆえに想定外に直面した際は義芭の指揮より仁武の直感を優先する、というルールも二人で決めていた。
「俺も投げ槍が来るとは思ってなかった、もっと上手い避け方もあったのに」
魔刃競技では、身体を通して擬魔刃に魔力が流れた状態、つまり柄を握っての打突のみが有効と認められる。投げた武器が当たったところでルール上の有効打にはならず、文字通り得物を手放す形にしかならない。
だから投擲などはありえない、という思い込みを。直央は「相手の隙を作りさえすれば、有効打突がなくても突破で勝てる」という方針で、見事に突いてみせたのだ。
「最後、盾が急に加速してたと思うが、義芭はどう見えた」
「あれ、盾を飛ばしてたね。蹴り飛ばしながら魔術操動してた」
「……ルール的には」
「OKだし、中盾なら投げて妨害するのもウォーズじゃ見るでしょ?」
「それはそうだが、あんなデカいのをな……けど魔術使えばいけるもんな。あの速度なら避けれるっての、純体の常識が抜けてなかった」
「けど武器も盾も捨てないでしょ普通。そこで反撃されても体術で返せるって自信があったからで、どっちにしろ直央さんじゃなきゃ無理」
「ほんとに凄い人だ……けど、嫌な負け方だな」
想定できなかったから、というのは仁武にとって屈辱的な敗因である。次に尾を引きかねないくらい。
「ああ、けどもう覚えた。次いくぞ」
こういうとき、義芭の切り替えの早さはありがたい。相棒に倣い、仁武も意識を次へと向ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます