1-6 デュアエル初級講座・ビルド編

借りたい胸/箭嶋仁武

 信闘祭への出場を決めた、その翌日の昼休みの食堂にて。

直央タダヒロさん、少し話いいですか」

「おう、どした仁武」


 鏑城カブラギ直央タダヒロ、魔刃戦技科4年。熊のような体格と朗らかな気風、ザ・体育会系といった先輩である。

「休み中にすみません、お願いがありまして」

 先輩は食後に級友と喋っていたところである、すぐに切り出すには周りの耳も気になったが。

「デュエルの稽古か?」

「はい」

「都合つけばいいぜ」

「さすが、話早くて助かります」

 デュアエルの練習試合の申し込みである。実行委員会が仕切ってマッチングすることもできるが、特定の相手を望む場合はオファーする方が早い。

「そらそんなシーズンだからな……明後日のこことかどうよ、先で一件入ってるが」

「俺らは行けます、先輩方は連続で平気ですか」

「問題ない、じゃあそこで」

 

 直央先輩は二つ返事である。この面倒見のよさゆえ、魔刃科のリーダー的に慕われる男だ。

「先約がギャラリー許可なんだが、いいか?」

「ええ、許可で構いません」

「じゃあこのままで……んで、あえて俺に声かけたってことは、装備はいつもの俺のでいいんだな」

「ええ、壁槍かべやりでお願いできれば」

 盾の中で最も大きな壁盾かべだてに、片手用の手槍を合わせる防御特化型。仁武が最も苦手とするスタイルである。

「お前らはメイン本太刀だったよな、まあ試したいので来い」

「はい、ありがとうございます」


 一分足らずで話がまとまると、見守っていた先輩からのダル絡みが始まる。

「おら仁武くんよ~いきなし先輩相手ってイキリすぎやぞ」

「お疲れ様です陽駆ハルカ先輩、強い先輩に揉まれるのが一番の勉強ですから」

 先日の説明会を主催した魔刃科4年の紅一点、直央とは似合いのカップル(成立見込み)の仲。実力と人気を兼ね備え、リーダーシップにもあふれるカリスマだが。


「ほほう、直央のおっぱいを奪うってことだな」

 オフでは平然とこういうことを口走る奔放な人である。彼氏(見込み)で遊ぶことに躊躇がない。

「胸を借りさせてもらうってことです」

「つまり、直央の意外と敏感な」

「陽駆は黙れ、後輩の教育によくない」

「ぐすん、そうやって男社会は女の口を塞いで」

「今時マジでセンシティブな物言いをやめろ!」

 こんな不毛な夫婦漫才を毎日のように繰り広げているし、不毛だということは直央も分かっているようで。


「んじゃ、またな仁武」

「ええ、明後日よろしくお願いします」

義芭ヨシハちゃんにヨロな~」


 下級生ひとりで行くとひたすら玩具にされるのは困りものだが。忙しい中で後輩の面倒も惜しまない、いい先輩たちである。

 すぐに義芭にチャットで知らせる。

〈直央さん快諾〉

〈よっしゃ〉

〈陽駆さん昼からハッスル〉

〈い つ も の〉

〈会議は今夜か〉

〈時間決まったら言うわ〉


 よく知っている相手なら試合のシミュレーションも無理ではないが、やはり実際に立ち合えるのは大きい。

 いずれ信闘祭で当たる先輩たちの中でも、直央先輩との稽古が最も重要だった。

 今の仁義デュアルが最も勝ちづらい相手だから、である。



 その日の夜。約束の時間に談話室を訪れた仁武に、手招きしたのは深結ミユだった。

「仁先輩、こっちです」

「おう、お疲れ」

「お疲れ様です。義芭ちゃんはもうちょっと後から来るそうです」

「そっか。けど良かったのか、色々やることあるだろうに俺らの話聞いてて」

 深結にデュアエル観戦をもっと楽しんでもらうために、仁義デュアルの作戦会議も聞いてもらうのだ――と義芭が言い出したのだ。


「課題とかは他の時間にできてるんで大丈夫です! それにこうやって内密な話まで聞かせてもらえるの、光栄ですし楽しいですし」

「なら良いんだ。義芭がゴリ押ししたんじゃとか思って」

「ついてけないときはちゃんと言いますよ、私は義芭ちゃんに。仁先輩こそ良いんですか、部外者が作戦会議を聞いちゃって」

「義芭が信用してるなら問題ないよ、あいつは結構疑り深いし」

 これだとちょっと言い方が冷たいかと思い、仁武は付け加えた。

「俺も、深結ちゃんのことは信用してるし」


 途端に、ぱあっと表情を明るくする深結。よほど素直なのか社交辞令が上手いのか、後者なんだろうと察しつつも悪い気はしない。悪い気を起こす男はいそうで心配だが。

「ありがとうございます、嬉しいです」

「ああ……ともかく、遠慮せずなんでも聞いてくれ」

「はい! ……そういえばコンウェア、お揃いですね」

「ん? ああ、深結ちゃんもゲンキルか」

 コンディショニング・ウェア、疲労回復に最適という触れ込みのトレーナーである。材料工学と精霊生理学の両面からアプローチした新しいアイテムで、アスリートを中心に支持拡大中。仁武も深結も同じブランドの製品を着ていたのだ。

「やっぱり快適な気はしますよね?」

「ああ、筋肉の疲れが取れやすくなってる」

「それです! 仁先輩、寝る前のストレッチはどんなのやってるんですか?」


 仁武は武術、深結はダンスとフィールドは違うが、お互いスポーツ寄りの人間である。合う話題は割と多いのだ。


「はいはいお待たせ~!」

 そうこうしているうちに義芭も到着。

「ってか割と話弾んでるじゃん、ミユミユと仁」

「ああ、サシで話すこと無かったけど、意外と守備範囲被ってるんだよ」

「やっぱり義芭ちゃんとは全然タイプ違うんだなって、仁先輩」

「違うがゆえの分業をずっとやってるからね~」


 男と女、肉体派と頭脳派、前線と後方、直接戦闘と指揮判断、武術と魔術。

 あらゆる点で対極だからこそ、役割分担は明確で仲違いも少ない。話を仕切るのは義芭の担当だった。


「さて、と……今日ミユミユには、明後日にあたしらがやる練習試合の予習をしてほしいんだ」

「はい、 誰との試合なんですか?」

 仲良しということで義芭とはタメ口の深結だが、今回はしっかり生徒モードのようだ。

「魔刃科4年の鏑城直央先輩。知ってる?」

「すごい大柄な人ですよね、陽駆先輩と仲良いのは知ってます」

「そう、魔刃科4年の級長も務めるくらい人望もある方なんだけど、デュアエルでも屈指の実力者なんだ。そして、あたしらにとっては一番相性が悪い」

「だから練習試合で対策を練る、ですか?」

「もっと言うと、あたしらの戦法をどこまで見直すべきかのテストをしたい。けどその内容を分かってもらうのには、デュアエルの戦術をより深く理解してもらう必要があるんだ。プレイヤーたちがどんな理由でどの武器を選んでどう戦うのか、それを踏まえてね」


「理由からの理解、ですね……ふふ、やっぱり義芭ちゃんらしいな」

 義芭は、というか玖郷クザト家は「なぜ」の理解をとにかく重視するのだ。精霊医師である父と、衛生魔技士だった母から、娘へと受け継がれた科学的スタンス。

 

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