第3話 メール
長いメールってなんだ?
気になってしょうがない。
“”あとで“” っていつ?
今夜じゃないのか?
1時間待ってもこないメールに、なんだか、
待っていられなくなった。
催促するみたいで感じ悪いかな?だけど、
『長いメールってなに?』
そう送って、携帯の画面をずっと見ていた。
そして、中野から送られてきたメールが、これ。
『さっき電話でも話したけど、わたし田坂の夢をよくみるんだ。
中学の部活とかの夢でさ。
まだスリムな頃の(失礼)田坂が剣道やってるような夢で。
中学なんて、もう20年以上前のはなしで、何を今更って感じだけど、たぶん私の中でずっと心残りというか、後悔してることがあって、それで夢をみちゃうんじゃないかと思って、今日は意を決して電話してみたんだ。
でも、やっぱり、とても言えそうもないので、
メールにさせてもらいます。
一言で言うと、好きでした。
中1の時からずっと田坂のことが好きでした。
そんなこと、20年前に言えよ!って感じだけど、言えずにいて、言えなかったことを後悔してた。
告白してても、別に何も変わってなくて、きっと失恋に終わっていたのだろうけど。
今更 こんなこと告白して、なんになるわけでもないんだけど、ただただ今も、田坂が幸せでいてくれるといいなぁって、そう思ってる。
ただ20年前に言えなかったこと言って、スッキリしたかっただけなんだ。
そんな感じで、長々とゴメン。 中野 』
告白された……のか?……
驚いたな……
中野が俺に告白するなんて……
それも、こんな、なんの前触れもなく20年以上経ってかよ!!
高校の頃に、ひろから聞いていたから、中野が中学の時 俺のこと好きだったってのは、知ってたけど……
知らなかったことにしといた方がいいんだろな……
初めてだな。
電話で話をしたのも。
今までも、同級会で会って、ちょっと話したくらいだもんな。
電話 ドキドキした。
ちょっと低めの優しい声。
笑う時は、あははははって高い声で楽しそうに笑う。
顔が見えない分、耳から入ってくるその声に集中してしまう。
「ふーーーーーー…………」
あっ!中野も返信待ってるかな。
返信するか!!
『ありがとう。その気持ち嬉しく思う。
あの頃言われていたら、どうなってたかは、わからないけどね。
ただ、今の幸せを大切にしてほしいと思う。
子供のこともね。
20年は長いよね。
もうあの頃のスリムな面影は今はないからね。
思い出は、美化されるから。
ありがとう。 田坂 』 送信
メールに書かれてる通り、ただスッキリしたかっただけなのか?
それとも、何か悩んでるとか?
ダンナとうまくいってなくて、俺と?とか……
いや、それはないな。
告白できなかったことが、心残り か……
それは、俺も同じだな……
あの時、俺が告白してたとしても、
中野と もし、付き合えていたとしても、
中野と結婚する確率なんて、ほんの数%だろうし、もう36だってのに、未だに独身でいることと何の関係もないけど……
なんだか、すごく、残念だな……
おまえは、スッキリかもしれないけど、俺は忘れてたことまで思い出しちまったよ……
中1 バレンタインデー
俺は中野に告白しようと思っていた。
冬休みの最終日に、あんな風に誤解させてしまって、それからの1ヶ月ちょっと、完全に無視されてる。
嫌われてるのわかってるけど、ちゃんと言わないまま諦めたくない。
だから、今日 俺の13の誕生日、中野に告白すると決心した。
バレンタインに逆告白だ!!
放課後になり、
「あっ!私、カギ当番だった!さとみ!私、先に行くね!」
「うん、私1組行ってくるから、ちょっと遅れる」
中野と伊藤のそんなやりとりを聞いて、俺は道場に行った。
道場の中を覗くと、中野が1人で窓を開けているところだった。
すりガラスの窓を開けると、眩しい光が薄暗い道場の中を、舞台のスポットライトのように照らしていく。
俺は声をかけるのを戸惑った。
このまま時が止まればいいのに……
しばらくの間、ただ中野の後ろ姿を見つめていた。
眩しい光に照らされた中野は、まるで天女さまの様に見えた。
勇気を出して、声をかけた。
「中野!!」
「えっ?」
振り返り、目を細めて俺を見た。
「なに?さとみは、1組へ行ったよ」
だから、ちげーよ!!
「……知ってる……俺は……」
「あーーーー!!いたいた!!中野!!」
俺を押しのけるようにして青田がすごい勢いで飛び込んできた。
「大崎怒ってるよー!!遅いって!!」
「えっ!ヤバ!青田!まだ窓 途中!開けといて〜!!」
そう言って、中野は俺の横を走り過ぎて行った。
「俺は……中野のことが……
俺が好きなのは、中野だよ!!」
あと、10秒、いや5秒あれば言えてた。
でも、それを言う間を 仏様は与えてはくれなかった。
俺じゃ駄目ってことか……
結局、この日 告白はできなかった……
そして、終わった……
すべて終わった。
バレンタインデーのあと、俺は中野のことを忘れようと必死だった。
吹石と付き合って、智香子と付き合って、横田と付き合った。
でも、なにか違うと感じてしまった。
中野を忘れようと思っても、同じクラスだし、同じ部活だし、常に目に入ってくる。
つらかった。
中野への想いを引きずっていた、そんな中2の秋だった。
ひろが俺んちへ来て、唐突に
「中野と付き合うことになった」
と言った。
ものすごく驚いた。
なんで……どうして、よりにもよって ひろ
なんだよ!!
でも、その反面、
あぁ そうか……終わった……
やっと本当に終わりに出来るな……と思った。
ひろには 敵わない。
ひろが相手じゃ、勝てるわけない。
ひろが どんだけモテるかは よくわかっていたし、勿論ひろは保育園からの大親友だ。
ひろが、中野と付き合うのなら、祝福して応援してやらなきゃなと思った。
俺の初恋は ここで 終わった。
もうずっと前から終わっていたのかもしれないけど、完全にこれで終わった。
それからは、それまで以上に、俺は中野のことを避けた。
出来るだけ、視界に入れないように、声を聞かないように、近づかないようにした。
その時付き合ってた横田にのめり込んだ。
そうやって俺は、俺の心の中から、中野を追い出したんだ。
中野柚希か……
今は、倉田 柚希だったか……
今 幸せじゃないのか?
ただ俺の幸せを祈ってくれてるのか?
あの頃に戻れたら……
今とは違う人生を送れるのかもしれないけど……
やり直せないのが人生だな……
はぁ……
なんか、眠れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます