女傭兵だけど、自分を殺しに来た暗殺者に一目惚れしてしまった

笹塔五郎

第1話 好みのタイプ

 ――好きで傭兵稼業を始めたわけではないが、気付けばその筋で有名になっていた。

 それがフェイリィ・アルソンという女性の人生であり、彼女は依頼であれば――人を殺すこともある。

 ただし、彼女の殺しにはいくつかの信条がある。

 代表的なもので言えば、彼女の殺しの対象はあくまで『悪人』であること。

 悪人の判定は、フェイリィ自身が考える範囲に含まれるかどうかだ。

 さらに、最終的に依頼を受けるかどうかもフェイリィ次第であり、依頼を受けた後でも――依頼内容に嘘が交っていれば、依頼を受けた後でも破棄する場合がある。

 これらの条件を踏まえた上でも、彼女に依頼をする者は多い。

 それだけの実力が、彼女には備わっているからだ。

 逆に――彼女に恨みを抱いている人間も少なくはない。

 だから、暗殺者が送られることも別に驚くようなことではなかった。


「――」


 金属がぶつかり合う音が、静まり返った町中に響き渡った。

 フェイリィは寝床をよく変える。

 同じ場所にいれば、それだけ付け入る隙を与えることになるからだ。

 だが――いくら寝床を変えたところで、彼女にとって安全な場所はない。

 こうして、暗殺者と刃を交えることになっているのだから。


「……ったく、こっちは酒飲んで寝ようと思ってたのに」


 フェイリィは舌打ちをしながら、目の前の暗殺者を睨みつけた。

 全身を黒を基調とした服装で身を包み、ローブを目深に被って仮面までつけている。

 素顔は全く分からないが、華奢な身体つきを見るに、男ではないのかもしれない。

 ただ、実力は本物だ――少しほろ酔い気分であったのは間違いないが、フェイリィとまともに戦って、渡り合えている。

 得物はフェイリィの持つ直剣よりも遥かに短い、いわゆる短刀であるが――それを完全に使いこなしていると言える。

 一方、フェイリィは目の前の暗殺者とは対象的だった。

 黒のコートを羽織っているが、胸元の辺りははだけており、革製のものが目立つ。

 いずれも丈夫な竜の皮を使った上等品であり、見た目だけでなく動きやすさや防具としての役割も果たす。

 暗殺者と刃を交えてすでに十数分以上――以前、決着はついていない。


「そろそろ酔いも覚めてきたし、終わらせようかと思うんだけれど」


 ――とはいえ、フェイリィには余裕があった。

 この暗殺者は確かに強い。

 それでも、フェイリィの方が実力では上回っている。


「……」


 フェイリィの言葉に、暗殺者は反応を見せず、刃を構える。

 至って冷静だ――おそらくは、フェイリィの方が実力的に上であることは、理解しているはず。

 仕事に対しては忠実なのだろう。


(……ま、次で決めるとしましょうか)


 相手が誰であろうと関係はない。

 フェイリィは『悪人』と断じれば斬ることに躊躇いはない。

 自分の命を狙うのであれば――そう判定するには十分な理由だ。

 暗闇の乗じるように、暗殺者が姿を消した。

 ――黒に統一している意味は十全に発揮されている。

 目には自信はある方だが、この暗殺者が簡単に捉えることのできないほど素早い動きを可能としている。

 ――けれど、殺気を完全に隠しきることは不可能だ。


「はい、残念」

「!」


 振り返りざまに一撃――暗殺者もギリギリで気付いたようで、後方へと咄嗟に下がる。

 再び互いに距離ができた。


「今のは確実にやったと思ったけど、あなたやっぱりやるわね。でも――当たってはいるみたいね」


 ピシリと真っすぐ、暗殺者の仮面にひびが入り、そのまま割れて素顔が露わになった。


「……っ!」


 暗殺者は咄嗟に顔を隠すが、フェイリィは確かに見た。

 その一瞬を見逃さずに――素顔を。


「……は? めっちゃ好みのタイプなんだけど?」


 そして――何故か逆切れした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る