第14話
「なっ。」
私の発言を聞いた動揺からか、治癒術師の女性の治癒術が乱れる。
息が荒いが、乱れるだけで継続して発動し続けているのはなかなかのものだ。
「呪詛の浸透が酷いようです。手持ちの解呪ポーションだと弾かれます。呪詛を解呪しないと治療ができないのですが。」
「使った、等級は。」
「AAです。」
「っ…」
複数使ったところで、呪詛を突破できる効果がなければ意味はない。AAAやそれ以上の物も無いわけではないが、今回は不要だったため持ち込んでいない。そもそも食らうことも無いし、私には不要だ。
わざわざポーション類を持ち歩くのは、ちゃんと準備しています、というアピール以上の意味はない。
「AAA以上、持ってたりしますか?」
手に入るポーションの等級あるいはランクと呼ばれるものは、大雑把に言うとその階層に出てくるモンスターのランクとおおよそ比例する考えていい。
77層付近で活動していたということは、手に入るのはAかBぐらいではないだろうか。
運が良ければ宝箱やルートボックス等と言われる、たまにダンジョン内に存在する箱等から、AA等級ぐらいなら手に入るかもしれない。
中身は運次第だが、箱にもレア度のようなものがあるため、レアな箱から更に低い確率を引けばAAA等級が出る事もあるかもしれない。
AAですら出たという話があれば話題になりそうなものだが、最近そんな話は聞いたことも無い。
AAA等級の解呪ポーションが出たとなると、情報をあまり気にしない私のところに嫌でも話が届くだろうが、そんな話を聞いた記憶はない。
回復ポーションに関しては、上位互換の蘇生ポーションが出回っているためAAA等級の有難味は少ないのだが。
綾部氏が悲痛な顔で、首を振る。
「ですよね。」
呪詛に限らず異常状態やバフ・デバフと言ったもの、ダンジョン領域から出てしまえば効果が維持できなくなり消失する事が殆どである。
手っ取り早く解呪しようとするならダンジョン領域外に出てしまえばいいのだが、現状セラさんを何の準備もなく動かすわけにもいかない。
もし動かせたとしても、外に出すという選択肢は取れないだろう。
そもそもこの呪詛は本来、ポーションや治癒術の効果が全く無くなる程に強力ではない。
では、なぜこのような状況になっているかというと、セラさんのジョブと今回の呪詛の特性の問題だと予想できる。
セラさんのジョブは、探索者証だけでなく、先程準救命士の権限で確認した項目にも記載されていたが『聖女』である。
聖女にも種別が色々とあったりするのだが、大体が治癒・支援系の上位職である。
一人だけというわけではなく、日本には現在10人前後いたのではないだろうか。
そして聖女というジョブは、総じて状態異常系に対する耐性が、極めて高い。しかし、完全無効ではない。
通常の呪詛なら抵抗できるが、今回は呪詛の特性と状況が悪かった。
状態異常には、かかるとリセットされるものと重複するものがある。
今回のものは恐らく重複するタイプ。通常抵抗できれば再度使われても1からで、累積などはしないはずなのだが、何らかの要因で累積したのではないだろうか。
その結果、問題なく抵抗できるはずが、今回は累積した呪詛が耐性を突破し、一気に浸透したと予想される。
もしかしたら、呪詛を使用したのモンスターは特殊個体か何かだったのかもしれない。
鑑定して見た限りでは他の二人も呪詛を受けているが、非常に軽いものだ。
重ね掛けされたということはなさそうである。
そしてセラさんも、二人の様にすぐ呪詛にかかれば、そこでモンスターも去っていたのかもしれない。
しかし、抵抗し続けた結果、10回20回では効かない回数の呪詛を受けてしまったのだろう。
私ならそうなる前に対応してしまうが、3人には不可能だったのだろう。こればかりはどうしようもない。
手っ取り早くダンジョンから出すという方法も、今回の事例ではリスクが高すぎるため取れない。
確かにダンジョンから出せば、異常状態は薄れて消える。
しかし、即時ではない。
強力な状態異常であるほど、消えるまでに時間がかかる。
今回の呪詛は、消失するまでどれだけ時間が必要かわからないが、長くかかることは確実であろう。
ダンジョン領域内の医療施設で通常医療による施術した後にダンジョン外に出せば、ということも考えらえるが、それも危険である。
治癒阻害だけではなく致死毒にもかかっており、それもすぐに効果が消えるかはわからないのだ。
現在はジョブの特性によって抵抗できているが、ダンジョン外に出たと同時にジョブの補助が消えて即死する可能性がある。
蘇生ポーションがあるため蘇生は不可能ではないが、治癒阻害が蘇生ポーションの有効期間内に消失しなければ死亡が確定する。
予測ではあるが、恐らく間に合わないだろう。
まぁ、そもそもここから動かせる状況ではないのだが。
つらつらと御託を並べたが、実のところ、ポーションが無くても力技で解決できる。
所属先の非公開の技術等を駆使するため、色々と面倒なのだ。
<KATURAGI:やってしまってかまいませんよ。後のことはこちらでやります。>
<ADACHICAT:家への経過連絡はこちらでしておきます>
「あ、はい。」
思わず出た言葉に、綾部氏がこちらを見る。
「いえ、問題ありません。」
事後承諾でもなく、上からGOが出たなら躊躇する必要はないだろう。
「あなた、小鳥さん、でしたか。」
私は、治癒術師の女性に話しかける。
「もう限界でしょう。術はもういいので、これ飲んで休憩してください。後は私がやります。」
私は、持続回復系の魔力ポーションを差し出す。
「君は、治癒系職だったのか!?」
「いえ、侍ですよ。」
「は?」
「もうその方、術の行使無理でしょう。ポーションを飲み過ぎて中毒症状起こすことありますし、今魔力枯渇で倒れられても困ります。これは持続回復系ポーションなので直ぐには回復しませんが、中毒にはなり辛いですから。」
「何を言ってるんだ、侍が治療なんて」
「この状況なら私がやるしかないでしょう。『再生M1』」
私が持続回復のスキルを使うと、女性の傷口の少し上に、薄緑に淡く発光する球体が現れ、体に粒子が降り注ぎ始める。
これは以前、食材ダンジョンの200層ぐらいで回収したスキルキューブで取得したスキルだ。
スキルキューブはダンジョンで稀に産出される、使用するとスキルを習得できるアイテムだ。制約なく誰でも使用できるものもあれば、特定のジョブが発現している必要のあるものもある。性能の高いスキルであるほど制約がついていることが多い。
再生Mは、極端に高い魔力値と消費を要求されるが、ジョブの制約無く習得できるスキルである。現状の一般的な最前線の治癒系ジョブが使用できる継続回復スキルより遥かに高性能である。手に入るかどうかの問題はあるが。
なお、スキル名はほぼ同じ効果でもジョブによって名前が異なる事が多い。スキルキューブで習得したスキルも同様で、使用者のジョブによっては習得時にスキル名が変化することもある。
更に面倒なことに、同じジョブの同じスキルが、所属する文化圏によって異なることもあり、WDCOが公開している対応表は辞書のように分厚くなっている。
治癒術師の女性が使い続けていたスキルは、リジェネートだが、効果の度合いが異なるだけで再生も似たようなスキルである。
私が使ったスキル名の後に『M』とついているのは、特殊なランクのスキルだからである。一般的には知られていないランクで、ミスティックランクと呼ばれている。
Mの後に付く数字は、私が使いやすいように威力を調整(改造ともいう)して性能順に数字を付けただけで、本来は『※※M』という1種類のスキルである。
このミスティックランクのスキルは、基本効果に更に追加効果などが山盛り付いており、更に範囲効果があるなど、非常に有用なスキルである。
スキルキューブさえ入手できればジョブの制約無く習得できるという、一見バランスブレイカーのようなスキルとなっている。
しかし、使用時に要求されるコストが高すぎて、全く使い物にならない。
人間の探索者では、魔力運用に特化したジョブを極めた人でもまともに発動できない、産廃のようなスキルである。
所属先から、ソロで活動するなら必要になると言われ、それなりに苦労して入手方が判明しているものを全て集めた。
見つけたら見つけたで、使い物にならないだろうから頑張って改良しな、と言われ、なんとも言えない気分になったものだ。
無理矢理使おうとしたら、いわゆる魔力枯渇状態になって倒れかけた。
再生Mの場合、再生の性能以外のおまけを全て可能な限り排除し、範囲効果を単体ぐらいになるまで縮小したものが再生M10である
再生を10割を残し、いわゆる魔力消費を約1/20まで削り落としている。
数字が1減るごとに消費魔力は半減する。M3なら3割、M7なら7割といった性能となっている。
M1ですら専門職と比較すると、悲しくなるぐらいに魔力消費が膨大である。
「大丈夫です。後は私に任せてください。」
私は、小鳥さんの眼前に手をかざし、術の構成を霧散させる。
「あっ…。」
「どうぞ。」
私は、今一度ポーションを差し出す。
「ピーチ味です。味だけで入ってるわけじゃないですが。」
治癒術師の女性が受け取ったのを確認し、女性の腹部の傷を注視する。
現状維持、というだけで治っていない。いや、極めて遅いがジワジワと治ってはいるのかもしれない。
ただ、時間がかかりすぎて、このままだと治る前に死ぬだろう。
「『浄化』『洗浄』」
ざっくりと血に塗れた体と服をきれいにし、傷口を確認する。
包帯などが残っていたら、そのまま埋め込まれることがあるので、外しておかなければならない。
ポーションなどを使用するときによくあるトラブルが、傷口などの再生時に、体内に異物が取り残されることである。
浅い場所なら押し出されるのだが、石の破片が深くまで刺さっていたりした場合、巻き込んで傷口が閉じてしまうことがよくあるのだ。
異物が取り残されると、後で外科手術で取り出す等の施術が必要になったりする。
今回の場合、消化管が損傷していそうであるため、腹腔内に血液どころか消化液等も溢れ出していることだろう。
後の手間を考えると、いまのうちに徹底的に洗浄しておきたい。
出血などは止まっていないため、浄化と洗浄は継続発動である。
「『念動』」
はみ出している臓物を腹腔内に戻していく。
セラさんの口からうめき声が漏れるが、麻痺を使用すると状況がややこしくなり、私が対応できなくなるかもしれないので、申し訳ないがそのまま続行する。
「他言無用ということでお願いします。」
二人が頷くのを確認し、私はスキルを使う。
光の点が現れる
「『多重連結』セット、再生M3、解呪M9、解毒M3」
スキル名を宣言するたびに光の点が増え、それが細い線で繋がれていき、多角形が作られていく。
多重連結、もまた、所属先から必要になるかもしれないから、と情報をもらったスキルである。
燃費はまぁ、悪い。
えっと、後は何が必要だったか。ああ、そうだ。
「破魔M4、造血、簡易祝福、クローズ」
スキルキューブで取得したスキルを可能な限り追加していく。
とりあえずこんなものでいいだろう。これでダメなら、何をやってもダメだろう。権能でも使わない限り。
「アクティブ」
20センチ角ほどの正八面体を構成していた光が、回転を始め、それと同時に私から膨大な魔力が引き出されていく。
「二人とも少し離れてください。効果が分散します。」
ターゲット指定はしているので、例え分散しても誤差程度ではあるが、やらないよりはいいだろう。
立ち上がろうとした治癒術師の女性が、踏ん張りがきかずに膝を折るが、綾部氏が肩を貸し一緒に離れる。
数秒すると、正八面体から金色の粒子が溢れ出し、女性の体へと吸い込まれていく。
弾かれているようには見えないので、恐らく大丈夫だろう。
処置は終わったので、私はマジックバッグから緊急時用のメディカルユニットを取り出す。
これはバイタルを取得しつつ、必要な輸液等を自動で投与してくれるもので、二の腕に取り付けて使用するタイプとなる。
腕に通すユニットはコンパクトだが、それに接続される本体は50㎝四方程度のサイズがあり、それなりに大きい。
準救命士以上の資格があれば購入できるもので、これは最上位グレードのものである。
税金対策で買ったもので6機ほど常備してあるが、使うのは初めてだ。
腕を出し横に伸ばして浄化した後、腕をユニットに通し、本体とARデバイスとペアリングする。
少し気になったので首の後ろのクッションを追加で差し込み、気道の確保を確実にしておく。
数秒後、ユニットから追加のメディカルパックの要求が来たので2つ、3つとスロットに差し込んでいく。
要求が止まったので、とりあえず予備で1パック接続。追加で必要になったり、バイタルが変動したばあい警告が私まで通知されるように設定する。
鑑定していると、呪詛の浸透が徐々に解消されているのがわかる。
解呪M9を使っても徐々にしか解消しないということは、想像以上の回数の呪詛を重ね掛けをされていることは間違いない。
やはり抵抗力が高いがゆえに、目の敵にされたのかもしれない。
<ADACHICAT:お疲れ様です。救助のアサイン終わってます。>
<Dr.WATARASE:ダンジョンへ向かっています。治療は問題ないと思います。>
<YURI:了解。ドローン患者映しておきます。場所の指定は>
<Dr.WATARASE:可能なら腹部患部アップ、顔、全身で。>
<YURI:了解>
数分観察したが特に問題はなさそうなので、ドローン3機を残し、離れてこちらを見ている二人の傍に歩いていった。
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