第7話 学校
今日は月曜日、学校に登校しなければならない。
私個人としては、特に学力に不安も無くダンジョンに籠り切りでも構わないのだが、両親の学生生活を送って欲しい、という意向のもと、通学形式の高校に通っている。
今の時代、高校以上の完全通学生の学校というのは少数派である。
校舎が無く事務所のみ。授業は仮想空間。必要な時だけ施設をレンタルして集合。というのが主流で、一切登校無しの完全仮想空のみの学校もある。
高校までならネットワーク環境さえあれば、全国どんな場所に住んでいても卒業資格が得られる。
そんな中、通学形式の高校に入学してはや1か月、特になんのイベントもなく、高校生活を送っている。
「おはよう。」
教室の扉を開きそういうと、パラパラと挨拶が返ってくる。
1か月も経てばある程度のグループができており、教室の何か所かで集まって雑談をしていた。
「おはよう、ゆーり。」
「おはよう、なみ。」
席の方へ行くと、小学校時代からの友人である柾目奈美が既に自席に着いていた。
「ふふっ、憂鬱そうな顔してるね。」
「昨日ちょっと失敗したからねー。」
鞄を置き、右隣の自席に座る。奈美の最後尾壁際の席は少し羨ましい。
「たまにはそういう事もあるんじゃない?黒字なんでしょ。」
「よくおわかりで。」
学内ネットにアクセスし、今日の授業予定をARコンソールに表示する。
課題の提出が2教科ほどあるので、送信を今の間に済ませておく。
今時は、ARデバイスさえあれば、学校に持ってくるものは実技がある時に作業服や体操服、人によっては弁当ぐらいのものだ。
私は弁当組なので、母が作ってくれた弁当を持ってきている。
学食は学生向きだからか量が多い料理も多い。学校からある程度補助が出るため、生徒であればかなり安い。
「今日は早く帰らないと。憂鬱だわ。」
「機材持っていくって夜言ってたっけ。昨日は聞かなかったけど、結構するのよね。」
私は誰も聞いていないことを確認し、奈美の耳に顔を近づけ小声で言う。
「さんびゃく」
「それはまた。ご愁傷様?」
「ほんとにねー。いくらかかったか妹が聞き出そうとしつこくて。」
「目に浮かぶようだわ。」
奈美がそう言って苦笑する。
付き合いが長い為、奈美は夏音の性格もよく知っている。
そうして話していると、教室の入り口がザワザワと騒がしくなる。
囲まれているのは一人の男子生徒。
「裕二、昨日の配信見たぜ。すごかったな。」
「おう、見てくれたのか。ありがとう。」
彼は古崎雄二、確か入学早々に探索者ランクがDになり話題になっている人物だ。
ランクDからは中位探索者として扱われる。EからDへの昇格が一つの壁とも言われており、高校1年が位置するランクとしては非常に優秀な部類だ。高校以上で探索者資格を取ると初期ランクはIとなる為、彼は中学生の時に資格を取りランクDまで駆け上がったのだろう。
特別理由が無い限り、中学生から探索者資格を取ろうという人は少ない。高校や大学デビュー、夏休みに友人と、というのが一番多いのではないだろうか。そう考えると、彼はかなり努力したのだろう。
ジョブ持ち下位探索者見習いのGランクである私とは大違いである。
惜しむらくは、持て栄やされ過ぎて最近調子に乗り始めている事だろうか。
1か月前はそれなりに好少年という感じだったのだが。
問題は、彼の席が私の斜め右前の方で近いことだ。
彼の移動とともに、人だかりも一緒に移動してくる。正直言って邪魔だ。
「同接8千人近かったじゃん。すげぇよな。憧れるわ。」
どうやら彼は、私と違って公開でダンジョン配信もしているようだ。
ダンジョン配信とは、ダンジョン内での通信プロトコルが確立したことによって発達した、ライブ配信の一種だ。
広告収入や投げ銭で収益を得ることができるのは、一般的な配信と同じである。
高ランク探索者の配信などは、迫力があり人気があるらしい。
VRでライブ会場に直接いるかのような配信が一般的な昨今、平面映像と文字のコメントだけのダンジョン配信は前時代的である。
それでもうまくやれば、それだけで生活できる収入になるとかなんとか。
私個人は公的には一応企業に所属する探索者で、うちの企業にも配信部門もあるらしい。
たまにサポートを行うこともあるが、他人のダンジョン配信を見ることが無いためよく知らない。
ダンジョン配信は大多数が個人的にやっているはずで、入学から今まで彼が企業に所属しているという話を聞いたことは無いため、個人で配信しているのだろう。
ただ、ダンジョン配信はセンシティブな映像が映ることがある為、WDCOの認可のある配信会社でしか行うことができない。
同接は同時接続者だろう。2千人が多いかどうかもよくわからない。身内限定で現状完全招待制、9人しか登録者がいない私の配信では、2桁にすらならない。
9人のうち2人は、設定作業中にミスで全体公開にし、まだ動画が1つも配信されていない状態なのに登録していた物好きと、その人の紹介だったりする。
ちなみに私はWDCOの関連団体が運営している『Dungeon Log』、通称『DLog』という割とお堅めの、活動記録向けのサイトを使用している。
有名どころであれば、大手配信サイトが運営しているエンタメ系ダンジョン配信向け姉妹サイトの『DTube』等が有名という話を聞いたことがある。
「なみ、8千人って多いの?」
私は小声で奈美に聞く。
「どうかしら、わたしは配信はゆーりのしか見ないから。」
奈美がそう言って首をかしげる。
しかし、声を出して聞くのは失敗だった。
「え、朝山さんもダンジョン配信してるんだ?」
古崎裕二の視線がこちらをロックオンしていた。
ランクDだけあって、聴覚もそれなりに強化されているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます