転機

仰天

「本当にあの子の家庭教師をやるんですか?」

帰り道に車の中で田町はそう訊いてきた。


「いやまあ冗談でしょ」

冗談というよりは会話の勢いのように思えた。


「だってあの子がどこに住んでるか知らないし」

玉緒が笑ってそう言うと田町も笑った。


「でもなんか存在感ある子だったなあ」

田町もそう感じたらしい。


「なんかすごかったよね」

玉緒もそう同調した。



などと思っていたのは土曜日までの話である。翌日にはそんな事はすっかり忘れていたが、さらにその翌日の月曜日に事務所に電話がかかってきた。


「ご無沙汰しております。カガリヤの平野です」

もちろん電話を受けたのは受付で、応対したのは田町だが、まさかまさかの会長室長からの直々の電話である。もちろん初めての電話だった。


かささぎさん、家庭教師の話あれ本気だった」

事務所に居た玉緒に田町はそう言った。


月謝という形でも構わないが、それが面倒ならCM契約を来年から新たに三年契約にしてもいいという話で、さらに近場のほうがいいだろうという事でもし良ければ公博氏が住む白金のタワマンの一室を用意するという話だった。ちょっとまって怖い。


「なんか怖い!」

玉緒は正直にそう言ったが、


「いいから一週間以内に引っ越せ!」

いつの間にか横に居た社長がそう怒鳴った。そんなの無理だってば!



そして社長は大声で専務を呼んで社長室にこもった。もちろんこれは来年からのCM収入に関する臨時経営会議のようなもので、まさか玉緒への報酬が彼女個人への月謝になるとは露ほども考えていないのだろう。月謝で、とか言ったら殺されそう。

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