野望

約束

玉緒には野望がある。というか私との約束がある。


「ああ、早く独立したい」

私の膝の上で玉緒はそうぼやいた。


「そんなにヤなの?」

そんなに締め付けが厳しいのだろうか。


「ヤだよ。あれやっちゃダメ、これはしなくちゃダメ、そんなのばっかり」

玉緒は私の首に腕を回してそう言った。


「エースキャスターだししょうがない」

私は正しい指摘をした。


「報道の仕事なんてないし!」

玉緒は不満を顕にした。


玉緒は元々キー局で報道をやりたかったそうだが、受けた会社は全部落ちて仕方なくスカウトされたタレント事務所に入社したのだ。


「茉莉の卒業まであと三年、少しは社会人経験を積むとしてあと五年、遠い!」

玉緒はそういいつつ私の腰を抱いてお腹に顔をうずめた。


「すぐだよすぐ」

私は玉緒の頭を撫でながらそう言った。



私と玉緒の約束とは、二人でいつか独立しようというものだった。

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