NAZU研

なつかわなずな

プロローグ

第1話

-時は2072年、7月31日

 アメリカ、ペンシルベニア州 フィラデルフィアにある歴史の長い名門校。

 私立フーストニア大学。通称UH。


 真夏日和の昼下がり、俺は教授と面談室にて話をしていた。


「コナー…!!頼む!!お前が望むなら秋から4年にでも院にでも入れてやる……!!だから——」


「うちの研究室入れっていうんでしょう!嫌です!!」


「ぐっ……なんでバレてるんだ……!」

「以前もこういうことがあったので……」

 俺はコナー・テイラー。21歳。

 工学部の2年で、この世界の誰より工学を愛している自負がある。

 学校で教わる専門科目はほぼ趣味でやっていたのと、中高生時代から論文執筆に勤しんでいた。その甲斐あってありがたいことに何度か賞をもらう場合もあった。

 そういう背景もあってか入学時から今日のように研究室の勧誘が来ていた。

 気持ちは嬉しい。今までの頑張りが認められているのだから。

 でも本当に、非常にすごく申し訳ないが良い返事は返せない。

「来年になったら考えますから、今は次に投稿する論文の研究がいいところなので」

「それをうちでやってくれるだけでいいから!良い結果が出ればお前も俺も儲かるから!」

「汚い魂胆のために俺を使わないでくださいよ!まだ将来どんなことしたいか、わからないですし……ゆっくり決めさせてください」

 「というわけで、無理です」

「仕方ない。……今は諦めてやる」

「しかしだ!将来お前が別の研究室に入ったら動向は逐一見張ってやるからな!」

 ……扉を開けて出て行った。半ば脅迫のような言葉を残しながら……

 特殊な例を見せてしまったが、こんな教員ばかりではない良い学校だ。

 夢だってこの学校のどこかの研究室に入って、研究者として生涯を過ごすことだ。それはきっと今後も変わらないだろう。

 専攻分野も必要に応じて複数個選べたり、個別でやりたいことがあれば対応してくれる。

 主体性があれば援助は惜しまない。そういうところが好きだ。

 今だって夏季休暇の最中に俺は個人研究のため学校にこもっているが、1名除いて邪魔するものはいない。

 友達と遊んでいては進まない、実家に行けば機材がない……だけど、学校なら全部解決する!

 どんな成果が得られるんだろう……!!早く制作したくてしょうがないな。


「ねえ、ここって”こうがくぶ”?」

「ああ、この俺が愛してやまない工学部だ」

 もうこの地を歩いてるだけで嬉しいまであるからな。

「工学部ってきかいとかつかうの?」

 機械といえばそろそろエネルギーの中央監視装置見に行かないと。

「そうだな。めっちゃ使うけど今はうちに限らずほとんどの学部で使っ……」

 ……ん?

「……………………子供……?」

 大学に?

 絹のような銀髪に真っ赤な瞳の、小学生くらいの子供。

 背負われているもう1人の子供はそいつと瓜二つ。瞳は閉じていて起きる気配はない……

 突然のことに固まっていたが、彼は元気よく名乗りだした。

「おれはリブ!こっちは……わかんないけど」

「なおしてほしいの!!」

「な、なおす…………?」 

 どこからやってきて、なぜここにいるんだ。もう一人に意識はあるのか?脳裏にたくさんの疑問が駆け巡った。

 「そういっても俺は医者じゃねえんだけど……」

 不可解な発言と状況に頭を悩ませる。人違いだろうか。

 後ろのやつも熱中症のように火照っていそうなわけでもなく。一見ただ眠っているだけのように見える……いや、見えないどこかが悪い可能性もあるし俺だけでも病院につれていくべきか……?

 というかいくら大学内といえど子供だけでは危ない!心配だがひとまず親元に届けるほうが最優先か。

「ええと、とりあえず受付に行こうか」

「そこにいったらなおるの?!?!」

「すぐにはなおんないけど、おまえらの家族が待ってるだろう。それから皆で病院に……」


「かぞく?かぞくってなに?」


「……わ、わからないか?一緒に暮らしてる大人、とか……ほら、お前がいま背負ってる片割れもだ。兄弟で、家族じゃないのか?」

「きょうだい、かぞく……」

 いまいち伝わっていないようで。む…と眉間にしわを寄せて悩んでいた。

 複雑な事情があるのかもしれない……ゆっくり話を聞きたいが、今くらいの時刻の気温は32度と予報で見た。これからもっと上がりそうだし、屋内に誘導してからのほうが良い。

「とりあえず行くぞ」

「でもでも、”こうがくぶ”じゃないとなおせない。びょういんじゃだめなんだって。昔いわれたから」

「俺たちが直せるのは無機物だ。機械や建物みたいなさ」

「てか、少なくとも"人間"なら病院に行くだろう」

 見た目は十分子供だが、推測できる年齢より物を知らなすぎる気がした。

 一体どんな環境で育ってきたんだ……?

「そもそもこいつは病気なのか?」

 体温を測るために、もう一人の額に手を当

「ああっっっっっっっつ!!!!!」

「でしょ!」

「よく触っていられるなお前は!」

 熱い物体には溶接で触り慣れてたつもりだったが2秒も耐えられん。よくこいつ背負って歩き回れるな……!!

 緊急事態だ。バスを使って学内の病院に行った方がいい。小児科なら全米の中でもトップレベルで評判が良いと聞くし、診てくれるだろう。

 バス停近くのベンチに彼をおろし、軽く様子を伺う。


 眺めていたら、俺は他の異変に気が付いた。

 こいつ、呼吸をしてない……ピクリとも動かない。

 脈も、何も聞こえない。

「顔色はよさそうだったのに……!」

 万が一の可能性を想像して、ドクンと胸が鳴った。

 ゆっくり視線を下にやる。するとさっきまでリブとやらで隠れていた首の部分が見えた。


 信じがたいがそこにあったのは筋肉や骨じゃない。

 首元からは電線が露出していた。その奥には機械のようなものが埋め込まれており、太陽の光を反射している。


「なあ、リブ……」


「なに?」


「こいつは人じゃないのか……?」

「お前は、人間か……?」


「にんげんってなに?」


 工学に携わる者は特に、そうでない者であってもだ。誰もが一度は夢に見て、開発を期待させる存在。

人を模した機械。


"アンドロイド"


「……俺がなおしてやる」



「こっち、こっち!」

 ここの大学は広く、街の一角にひとつの都市を形成する。アメリカ初のユニバーシティ。

 その中にはずっと改装中の看板が立てられている古い寮があった。

 手を引かれるがままにたどり着いたのはそこだ。

「初めて近くで見たな」

「しってるの?!」

「いや……設備が古いから取り壊す準備をしてるって噂を聞いたことがあって」

 たくさんの学生用寮や教員用の住居でにぎわっているにも関わらず、ぽつんと存在して誰も入ることのない家は確かに浮いてはいたが、気にする者は周りにいなかった。

 なのに、リブはポケットから鍵を取り出して戸を開けた。

「どうしてお前が、鍵を……」

「これ?これは近くにあったやつ!」

「もし目が覚めたらこれで”どあ”を開けてね、こうがくぶにいきなさいって」

「その人は今、どこに……?」

「さがしたんだけど、いないみたい」

「そうか……」

 ギイときしむ扉を押して中へ入れば、薄暗い廊下だ。ほとんど光の入らないこの家は、いくら正午過ぎでも不気味だ。

 地下へと案内され、鉄骨造りの階段を降り進む。待ち受けていたのは何重にもセキュリティのかかった重たい扉。

 リブが正面に立つとそれを認識してなのか、ひとりでに開いた。

「シェルターみたいなとこだな……」

「ずっとここにいたんだ」

 はじめに目に入るのは見慣れぬコンピュータと小さな金庫。

 トタンスズのめっきは剝がれている。キーボードらしきものも、一般的に使われているQWERTY配列ではなくABCの順であり、違和感がものすごい。

 他には広い寝台の上に薄い毛布が二枚。置いてある物に触れなければ、普通に綺麗な部屋だ。

「この通りにすれば大丈夫だとおもう」

 リブが金庫から紙の束を取り出した。


 その量は文庫本より分厚い……札ではない。

「資料?!これ全部か……?!」

 ぺらぺらとめくる。中身は文字がびっしり書いてあるページもあれば図だけ描いてあるページもある。

 信じがたいが、彼らの設計図や注意点が記載された紙であることに間違いなさそうだった。

 いかんせん量が多くすべて読むには覚悟が必要だろうが、どこに何が書かれているか整理されておりとても見やすい。

 ”アンドロイド”を作ろうと目論む研究者は山ほどいるだろうに、21世紀後半に差し掛かった今日でも完成したという話を聞いたことはなかった。なのに、いったい誰が作ったのだろう……

「この資料も、リブ自身もいつできたか覚えてないのか?」

「ううん……おぼえてるのはなまえを呼んでくれたひとのことだけ」

「でもこれをかいたひとかはわかんない。また会って聞けたらいいのにね!」

「そうだな……俺も会って話してみたいよ」

 書いてある事柄が正しいのなら本当に世紀の大発見じゃないだろうか。

 そんな可能性逃すわけにはいくまい。

 俺は一か八か、リブのことを信用してみることにした。


 …… 一旦地下はあとにしよう。諸々準備が必要だ。

 徒歩で10分ほど時間をかけた先にある、入学当初から暮らしている寮へ向かった。

 さすがに実家帰省している者が多く、ロビーも廊下もいつもより静かだ。体感では6割方不在といった感じだった。

 自室に入れることになるのが友人でもなく機械なんてな。自分らしいと言えば自分らしいか。


「入っていいぞ」

冷凍庫から保冷剤を出し、タオルにくるんだものを二つ作る。

「一個はお前ので、もう一個は片割れの方な」

「りょうかい!!」

 俺が古寮に持っていく物の荷詰めをしている間、リブはずっと彼のそばにいた。

「はやくおきてね……」

「……」

 悲しそうに彼の頭を撫でる姿を見ていると、こちらも苦しくなる。

 早くなんとかしないと。


 寮を出て、しばし歩いていたとき。

「ねえお腹すいた!あれほしい!」

 指をさすのはフードトラック。売られているのはサンドイッチなどのパンを扱った料理。

「……食事ってしていいのか?」

「いい!俺が言うからいいんだよ!!」

「ちょっとまて、今確認するから」

 何かあったとき用に、念のため資料を持ってきていた。一応そこに記載されている限りは

・飲食はできるが目覚めているときじゃないと異常をきたす恐れがある

・人ほどの量はいらないが活動の維持に必要……とか。

「ほんとうに大丈夫なんだろうなあ」

「だいじょうぶだし!」

 押しに負けて、しぶしぶと購入する羽目になった。

 選んだのはチーズステーキ。パンに炒めた牛肉と玉ねぎをチーズを一緒に挟んだもので、ここフィラデルフィア発祥の料理だ。

 やはりリブの後ろにいる彼を眠っていると思ったのか、店主はやや小声で話した。

「兄弟かい。やさしい兄ちゃんでよかったなあ、坊主」

「うん!!」

 髪も目色も、顔つきだって似ないのになあ。そう見えるもんか。

 カードで支払いをすませて、リブへ渡す。

「ほら、やるよ。けど身体に変なことあったら言えよな」

「おいしい!!ありがと!!」

 人の話をまるきりスルーして口いっぱいにほおばっていた。まあ騒がしくも喜んでくれてんなら何だっていいさ……

 食べ歩きつつ目的地を目指した。


 戻ってきてからは基本的な整備と資料の確認だ。

 幸い致命的な故障はないようだったが、先程外で見た通りに、いたるところで多くの断線が起きていた。

 ふさがっていない箇所は半田鏝でろう接を行って繋ぐ。きっと全身に血液を送り出すのが血管なら、電線が代わりなのだろう。

「煙とか出るかもしれないから離れてたほうがいいぞ」

「やだ!!ここにいる!」

「……じゃあ扉は開けておいてくれ」

 厄介なのは恐ろしいほど人体に忠実にできているところだ。先の話でも出た血管も、最も細いものは数マイクロメートルだが、その大きさと寸分違わず同じなのだ。

 目覚めさせるには正確に電子を送らせる環境を整えなければいけないようで。つまり、1ミリの1000分の1の物体を精密に動かして、1ミリの1000万分の1より小さな存在を狂わず操らなければいけない。

 ……どう転ぶかわからない緊迫した状況かもしれないと心ではわかってはいる。

 しかし、未知の課題を前に、ある種の爽やかささえ感じるほどポジティブな気分に満ち溢れていた。

「やってやろうじゃねえか……!」


 それからは一つ一つ整理して確実に、手順通りに時間を踏む。あり合わせの空調が持つまで、零点何秒も無駄にしないように。確実に、迅速に行うことの繰り返しだ。

 途中で集中力が切れそうになる前にエナジードリンクを飲んで間を作らず作業を行い続けた。

 何時間と時がたっていただろう。休まず没頭し続けた。が、それができたのは障害になる存在がなかったのも大きいだろう。

 リブもちょっかいをかけたら弟の目覚めが遅れるることを無意識に理解していたのか。昨日のように暴れたり、わがままを言うことはなかった。

 瞬間的に入る情報を捌き続け手を動かすことは、その場から動かずとも尋常ではないほど体力を消耗していく。

 行ったことは新しいことばかりで、なんでもない1年のたった1日なのに、すごくすごく長い、何百年の時を生きていたような気持ちだ。

 それでもなお、疲弊しても絶対に続けろと言う心に従いたかった。従わなければいけない気がした。



 三日目を迎えた朝。睡眠?をしていたリブの傍ら、俺は歴史的に名を遺すかもしれない重大作業もついに終わりに近づいていた。

 あとは、皮膚部分をふさげばいい。

「こ……れでいいんだよな……?」

 反応がない。失敗か?やっぱりそう上手くいくものじゃないんだろうか……

「おい、大丈夫か?」

肩に触れたら、手ではらわれた。

昨晩まで奮闘していた存在によって!!

「気安く触るな」


「動いた!!動いたぞ!!やったーー!!!!ついにやり遂げたんだ!!!!」

すごく辛辣な言葉を吐かれた気がするけど。

「どうしたの……?」

 寝起き?のリブも目をこすりながらやってきた。すぐに瞳は大きく開き、笑顔になった。

「すごい!!!!コナーすごい!!!!」

 彼は軽くあたりを見回し、俺達と目が合うと少し驚いたように目を丸くした。そして、もう一人とまるで同じ声で呟く。


「誰だ、あんた」


 リブとそっくりだし目覚める前なら見分けるのは難しかっただろうけど……まったくの別人だ。

 最初から人懐こかったリブと相反して、目線や声色のすべてに警戒心がにじみ出ている。

 その場の緊迫感が一気に増したが、こっちが圧倒されていては相手も余計混乱してしまう……

 できる限り、笑顔で続けた。

「俺はコナー。コナー・テイラーだ。それでこっちは……」

「リブだよ!きみのきょうだいなんだって!」

「兄弟?」

「そういう存在なのかなって思ってたんだけど、えっと……違うのか?」

「正確にはわからない。……まだ頭が整理できてなくて。何か、失礼な対応でもしてたらごめん」

 変わらず淡々と話す彼だが、すごく大人びている。

 ……しかし。状況は簡単じゃなさそうだ。確かにリブもこいつが誰なのか知らなかったけど、必死に助けようとしてたからてっきり親密な存在にあるのかと思っていたんだが。

 ここ数日は想像を覆されることばっかりだ。

 俺は彼に向けて、今までの経緯を軽く話した。


「……少なくとも今の状況と、お前が変なことはわかった」

「そういうわけだ。」

「じゃあ、俺は君のこと兄さんって呼ぶよ。改めてよろしくね、兄さん」

「うんっ!!よろしく!おとうと!!」

 リブに対しては優しい笑みを浮かべて、互いに握手を交わしていた。リブはぶんぶんと握った手をゆらしていたけど、怒る様子もなくされるがまま。

 なぜか修復した俺には冷たい。

 まあ……悲しくはないが……!決して……!

 会話がひと悶着つきそうなところで、ある質問が浮かんだ。

「おとうとじゃ呼びにくいだろうし、お前にも名前はないのか?」


「それならたぶん、俺は……」


 その時。

 突然大きな地鳴りが鳴り響き、天井にヒビが入った。

「地震か!?こんな時に……!!」

「なっなになに?!」

「気を付けて、兄さん……!!」

 普段鈍いと言われる方だが今だけは二人の盾になろうと咄嗟に体が動いた。

 広げた手にがれきが当たり、少量の出血と痛みを伴った。

 怖い。

 手を失って、今までのように物を作ることができなくなることが。

 ……でもそんなことは言ってられない。二人を見捨てるなんて論外だ。

 大きな音を立てて崩れる部屋から、少年とも少女ともとれる風貌をした子供が地上の後光を纏って姿を現した。

「想定と違います。……これじゃあ私の仕事が増えただけですね」

「安心するといいですよ。殺生に興味はないので」


「なな、な……何者だ?!」

 さすがに命の危険を感じずにはいられなかった。

「きゅうになんだ、おまえ……!」

 リブは少年……?に向けて戦闘態勢のようなポーズを取る。

「旧式の方ですね。目にしたのは初めてです」

 まじまじと見つめた後、少年はリブから距離をおいた。

 それも浮遊しているような形で、とても人間離れした運動だ……

 ありえん……

「三択与えます。

1旧式と”彼”を私に渡すこと、2今すぐ仕様書を焼き払うこと、3この場であなたが腕を切り落とすこと。以上です。選んでください」

「そんなの全部お断りだ」

「……彼らを案じていながら3を選ばないんですね。もう技術者気取りですか?」

 そういうところもあるかもしれない。だってさっきまですごく舞い上がっていたんだ。

 新しい技術を発見できたし、修復だって成功した。自分はひょっとして天才なんじゃないかとか、思わなかったわけじゃない。

 でもそれ以上に別の理由があるんだ。

「俺はまだ、未熟な学生だよ」

「だけどすごいよな。これを書いた人は誰も開発できなかったことをやり遂げて、わかりやすい仕様書も残して……それもとんでもなく精密で。一部修復するだけでも骨が折れた」

「こんなのよっぽど何かを”つくること”が好きじゃないとできない」

 新しい何かを生み出す行為に簡単なことはない。

 物作りに関わる者だけじゃなくとも、人として生きていれば誰もが実感するんじゃないだろうか。

 想像を実現するためには数多の思考が必要で、時に失敗しても糧としなければならず。

 人生を謳歌することに費やせたかもしれない時間も削って、自分の中にしかないゴールを目指す。

 例えそのゴールがどんなものでも、その過程を俺は心から美しいと思う。

「いつの時代の誰かもわからんが、工学に対して情熱を注いだやつがいるんだ。俺はそんな同志の行いに最大の敬意を払いたい。そいつが残した大事な発明と、大事な存在を守ることで……!」

「コナー……」

「……」

「話し合いが成立しないなら、実力行使するまでです」

 こちらに向かってこようとする少年を阻止するように、リブが割って入り二人の組み合いが始まった。

「落ち着きなよ。わかったでしょ!コナーはわるい人じゃない!」

「だからなんだっていうんですか。彼が社会に及ぼす影響も知らないで……」

「しらない!!優しいコナーしかわかんないし!!」

「わかんないけど!いまわかった!!ひとりぼっちをなくしてくれたふたりを痛くしたくないっておもえば、力がだせる!!」

 わずかにリブが優勢となって少年の力が一瞬抜けたとき、相手は反動で遠くへ飛ばされた。

 コンクリートへ強く打ち付けられる少年の体。

 それから数十秒……時がたっても動きがなかったため、俺たちは駆け寄った。

「お前、大丈夫……」

 薄々感づいていたことだ。

 傷口の代わりにあったのは露出した赤や紫のコード。つい何時間か前まで、嫌でも配列を覚えるほど凝視していたそれと同じものだった。

 呆然としているうちに、彼は何事もなかったようにすくっと起き上がった。


「先ほどの言葉、すごく人間的でした。”大事”が素晴らしいと妄信しているあたり、特に」


「それほど自分本位で不快な感情を、私は……知りません」


 呆然としていれば、少年はその場から高く飛んで姿を消した。あまりにも瞬間的に、一連の出来事はすべて夢だったのではないかと感じるほど速く。


 また、その時間もすぐに覆されることになる。

 隙間からでもわかるほど外には多くの警官が並び、高級車が数台、周りを取り囲んでいた。

 大ごとになっている……

 冷や汗が体を伝う感覚で、これは現実なのだと理解させられた。

「失礼します。」

「コナー君に、お話があります。」

 長身の男性は胸ポケットから手帳を取り出し、こちらへ見せた。

 米政府関係者だ。


「乗ってください。それから二人はしばらく、こっちで預かります」

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