第12話

 しかし、私は言わなかった。

 私は起きていたが、遅くに帰ってきた両親に兄のことは言わなかった。

 或いは言えなかったのか、本当のところはわからない。


 兄は私のパジャマを片付けて、乾いたばかりのパジャマを差し出した。

「お兄ちゃん、これって秘密?」

 兄は動揺していたのか、パジャマは絨毯にするりと落ちた。

「お前、秘密にしてくれるのか?」

 兄の不安な表情などこれ以上見たくない。

「あたし、もう寝る。

 お休みなさい」


 今思うと、兄は私の母を好きだったのかもしれない。

 何でそうなったのか、考えるのも億劫だ。

 そうすると、私は母の身代わりになってしまう。

 それとも誰でも良かったのか、のどちらかだ。

 後悔してももう遅い。


 それから、兄は両親のカラオケの度に部屋へ来るようになった。

 大丈夫、避妊しているから安心しろとばかりに。

 私達は、私は、次第にカラオケが待ち遠しくなった。

 中学生になって、クラスの顔ぶれを見た時に、この中で女になっているのは私一人かもしれないと思うとうれしかった。

 私は、子供の頃から兄のことが好きだったので、結果的にうれしかったのだと思う。

 兄の方は、初めのうちは恐る恐るだったのが、愛だの恋だのと語ることもなく、その行為だけに集中していた。


 そして恐れていた。

 私を。

 私が爆弾を抱えていることに。


 

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