第19話 ブラッディムーン➁

 漆黒の闇。その頭上には血だまりの様な不気味な色をしたブラッディムーン。その光を浴びた魔物たちは、いつもより数段パワーアップするという。まるで都市に巣食うネズミのようにザイージョの町を喰いつくそうとするゴブリンたちが大挙して町を襲うのには絶好の夜。はたして彼らは、恐れた様に襲ってきた。

 シモンがカイトに耳打ちした。

「ゴブリンたちが魔法の射程距離に入った。機先を制するため、先制攻撃を仕掛けよう」

 カイトはシモンの申し出を了承。すかさずシモンは呪文の詠唱に入る。

「炎の聖霊よ。火柱をあげゴブリンたちを焼き殺し給え」

 まるで人間の軍隊のように隊列を組み、整然と進撃してきたゴブリンの軍勢を3本の巨大な火柱が襲う。逃げ惑い、散り散りになるゴブリンの隊列。どんなに人間のマネをしようとも、所詮は畜生。無様なものだ。あっという間に10数匹のゴブリンが炎に飲み込まれ、焼かれて死んだ。

 それを城門の上から眺めていた町の男たちは歓声に包まれた。

 カイトは嬉しかった。

「このままゴブリンの数を少しでも減らしていき、なんとか南門を守ることができたなら、直にカークが率いる別動隊がゴブリンたちの隊を横から攻めて勝利に導いてくれるはずだ」

 臆病風に吹かれがちな町の男たちもやる気になっている。

「これはいけるかもしれない」

 カイトは考えた。しかし喜んだのも束の間だった。なんと、カークたち別動隊が隠れているキースの森の辺りから怒号とも悲鳴とも聞こえる声が上がったのだ。

「やっぱり、敵に見つかったか。相手がゴブリンだからって、最初から敵を嘗め過ぎだっちゅーの」

 ローラがニヤニヤしながら言う。

「うわっ、この人は戦闘になると途端に辛辣なことを言うようになるな」

 カイトは徐々にローラのスイッチが入っていくのを感じた。

 このまま手をこまねいている場合ではない。

「シモン。敵の本体の足を少しでも止めたい。魔法を連続で放ってくれ。頼む」

 カイトの指示にうなずいたシモン。炎の聖霊で連続攻撃を仕掛けた。

 ゴブリンたちは炎の攻撃を避けようと、全員が走り出していた。いよいよ本格的な戦闘の始まりだった。

 ゴブリンたちは巨木を何本か切り倒していて、その巨木で南門を突き破る計画のようだ。巨木で激しく南門を突くゴブリンたち。その衝撃は凄まじく。城壁の上に陣取っていた町の男たちは動揺し始めた。

 カイトは出せる限りの大声で叫んだ。

「用意しておいた石つぶてや槍を投げつけろ。南門を守るんだ」

 男たちは我に返り手に手に槍や石つぶてをゴブリンに投げつけた。

 しかし残念なことに、手で投げた槍や石つぶてごときではゴブリンに大したダメージを与えることはできなかった。ゴブリンたちは雨のように降り注ぐ槍や石つぶてをものともせず、南門を巨木で突き続ける。

「ミシッ、ミシシシシッ」

 南門を閉じている閂が悲鳴を上げる。このままでは南門が突破されるのも時間の問題だ。キースの森の別動隊は身動きが取れないのだろう、一向に姿を現わさない。

「どうしよう」

 カイトが一瞬迷った、その刹那。

「ハー、はッはッはッは」やっぱり私の出番が来たか。

 ローラだ。見るとローラの瞳は真っ赤に燃えてルビーのようだ。

「また、始まっちゃったな」

 カイトは思う。シモンも冷たい眼差しでローラを見ている。

「私が下に降りてゴブリンの足を止めて来よう。大丈夫だカイト。私はこんな事慣れっこだし、相手はゴブリンだ。大したダメージは喰らわない」

 ローラはそう言うと、鋼の兜を被りなおし、2本の棍棒を背負い、両手に棍棒を持った。

「いゃぁ、アナタ。自分で『ゴブリンだと思って嘗め過ぎだ』って言ってたばかりだよね」

 カイトは口の中でモゴモゴと反論した。キレているローラは、はっきり言ってカイトも恐ろしかった。

「じゃあ、軽く行ってくるわ」

 そう言うとローラは城壁の上から飛び降りた。

「いゃっ、ちょっと待てローラ。5メートルは高さがあるぞ」

 カイトは止めようとしたが、時すでに遅し。ローラが飛び降りた後だった。

「おいっ、止めろよ」

 カイトはそう叫んで城壁の下をのぞき込んだ。

 ローラは器用に着地前に空中で一回転して、まるで猫のようにふんわりと地上に降り立った。

「ローラ、なんかおまえ、本気で怖いよ」

 カイトはマジでビビッていた。

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