第10話 アテナイの瞳

 ドレイクに助けられてローラは、15歳になるころにはまだ子供なのにも関わらず。、勇猛な戦士として名を馳せていた。

 ドレイクは60歳になった。さすがに戦場では息が切れることが多くなってきた。それで60歳になった誕生日。ドレイクはローラを家に招待して言った。

「俺もそろそろ限界だ。年齢には抗えない。そこでだローラ。今度の戦(いくさ)から、ローラはひとり立ちすることとする。もう俺がローラに教えることはないし、ローラは充分に強い。その辺の魔物に倒されることはないだろう。もちろん戦士としての道のりはまだ始まったばかり。これからさらなる鍛錬が必要だ。そこでだ。実は王さまからある相談を受けているのだ。なんと勇者の家系の少年が、魔王討伐の旅に出ることになったという。そこで長く苦しい旅を乗り越えて、強敵に打ち勝つためには、優秀な従者が必要だということで、今そのメンバーを選定しているところだという」

 ドレイクはゆっくりゆっくり、急な展開の話にローラの思考がついてくるのを確認しながら話した。

「王さまが『誰か優秀な戦士は知らぬか』と言うから、俺はローラを推した。勇者はもうすぐ16歳。ローラも同じ年齢。ちょうどいいと俺は考えている」

 ローラはとんでもない話だと思った。「魔王討伐」。そんなこと真面目にやろうとする勇者だか何だか知らないけど、無謀な少年がいて、その従者になれというのか。バカげた話だ。

「その様な重要なパーティのメンバーに選ばれるのは光栄なことですが、私には養っていかなければならない小さい弟、妹がいます。そんないつ帰れるか分からない旅に出るのは難しいと思います」

 ローラは丁寧に断わった。しかし、それでもドレイクは引き下がらなかった。

「それに関して何だが、あのドけちな王さまがもしローラがパーティに参加するなら金3000万を支払うと約束した。3000万もあればローラの一家がもう飢えることもないだろう。弟、妹たちも育っている。もうすぐローラのように金を稼いでくるようになるだろう」

「いえ、弟、妹たちが戦士になることに私は反対してまして、もっと勉強をさせたいと考えています」

 ローラは戦士のような辛い仕事をするのは自分ひとりで充分だと思っていた、弟たちは、商人とか農民とか堅実な人生を送って欲しいと願っていた。

「そのことはちゃんと知っているよ。でも長男のカイルは13歳もう店の丁稚(でっち)として働ける年齢だ」

 ドレイクはローラのことなら何でも理解している風にうなずきながら言った。

「ローラは家族のために今までよく頑張った。3000万という金があれば、もう家族からの『くびき』から解放される。どうだローラ。広大な大陸を冒険し、様々な強敵と戦って自己を鍛え、さらなる高みに挑む。そんな旅に出たいとは思わないか」

 ドレイクの言葉にローラの心は揺れた。今の生活を続けていても成長の限界を感じていたし、家族の存在を重たく感じているのも事実だ。何よりも3000万という金額の多さに心惹かれた。

「今すぐ返事することはできません。母と相談してみます」とローラは答えた。

 ドレイクはそれに笑顔で応えた。

「そうか。そうしてくれるか。それならもう安心だ」

 ドレイクは全てお見通し。というわけだ。

「あとな、ローラ。最後に俺からのアドバイスだ。お前は自分のルビーレッドの瞳の意味が分かっているか」

 ローラは自分の目が三白眼で、輝くように赤く目立つ瞳であることが嫌いだった。小さい頃「生意気な目をしている」と言われて、年上の男の子たちにいじめられた。この目に何か意味があったのか。ドレイクの言葉に強く興味を感じた。

「その瞳はな、『戦の女神・アテナイの瞳』と呼ばれていて、神話の時代に活躍した女戦士の目とそっくりそのまま同じ目なのだ。俺は子供の頃、女神・アテナイの武勇伝を聞くのが好きで、憧れていた。ローラをひと目見た時、『この娘は、アテナイの生まれ変わりなんじゃないか』と思った。実際ローラは子供のくせに戦の女神のような活躍を見せてくれた。俺は今でもローラはアテナイの生まれ変わりだと信じている。そしてローラがもっと成長したならば、きっとアテナイにも負けない戦士になれる。俺はそれが楽しみだ」

 ドレイクがよく面倒を見てくれたのはそういう理由だったのか。ローラは初めてドレイクを理解することができた。

「ただひとつ、気を付けなければならないことがある。アテナイは血を好むということだ。敵が血を流すことばかりではなく、アテナイみずからも血を流すことが大好きなのだ。アテナイはよく戦場で、敵からどんなに反撃を受けても怯むことなく、怯むどころか、却って生き生きとして戦っていたという。それはまるで、痛みが快感に変わっていたようだという。もちろん戦闘が終わって我に返ると、激しい痛みに襲われたそうだが」

 ドレイクはローラの表情を読みながら話した。ローラはうっすらと微笑んで聞いていた。そしてその表情はローラがアテナイの気持ちが分かるのを示していた。

 ドレイクは確信しただろう。

「ローラは戦闘狂だ」ということを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る