第13話

 ミグニットの屋敷へ移動し、あいかわらず本のいっぱい置かれた居間へ通された。

「二人そろって来るなんて、いったいどうしたの?」

 と、のんきにミグニットが問いかけ、ヴェリシュは口を開いた。

「少し聞きたいことがあるんです。ミグニットほどの魔法使いなら、時を巻き戻すことができるのでは?」

 神妙に投げかけられた問いに、ミグニットは返す。

「時を巻き戻す? さすがにボク一人じゃ……」

 ふいにわたしの方を見て、彼は言った。

「聖女の魔力と合わさったら、可能かもしれないね」

「そうですか。では、世界を改変するのはどうですか?」

 ミグニットの顔つきが少し険しくなった。

「何を考えてるんだい、ヴェリシュ。ボクの力を何に使おうとしてるの?」

 さすがに怪しまれたようだ。

 ヴェリシュはすぐにごまかし笑いをした。

「いえいえ、ただの好奇心ですよ。深い意味はないんです」

「本当に? ユヴィーニャを巻き込んで何か企んでるなら、許さないからね」

 と、少年魔法使いは彼をにらんだ。

 わたしは何と言えばいいか分からず、ただただ笑みを浮かべるばかりだ。

 すると、ミグニットがわたしへ言った。

「ユヴィーニャも気をつけなよ。君の力は正しく使われるべきなんだから」

「え、ええ、そうね」

 と、わたしはどぎまぎと返す。

 ヴェリシュはため息を漏らすと、腰をあげた。

「もういいです、帰りましょう」

「ええ」

 遅れてわたしが立ち上がると、ミグニットが言った。

「そういえば、ユヴィーニャに見せたいものがあったんだ」

「え?」

「もし時間があるなら、残ってよ。すぐにとって来るから」

 と、立ちあがるミグニット。しかし、その視線は何故だかヴェリシュを見つめていた。

 牽制しているようだ、と気づいたわたしは困惑する。一方、ヴェリシュはやや機嫌の悪い顔をしていた。

「それは今度にしてくれませんか? 今日は俺とやることがあるんです」

「君には聞いてないよ、ヴェリシュ」

「以前から思っていましたが、ミグニットは本当に生意気ですね」

 と、ヴェリシュの視線が冷え冷えとし、わたしは慌てて止めに入った。

「ごめんなさい、ミグニット! また今度にしましょう! ほら、ヴェリシュももう行くわよっ」

 有無を言わせず彼の腕をつかみ、引っ張るようにして歩き出す。

「おじさんには言われたくないねー!」

 と、言い返すミグニットの声がしたが、わたしはかまわずにヴェリシュを外へと連れだした。


「大人げないわよ、ヴェリシュ」

 通りに置いた馬車へ戻る途中、わたしは呆れて注意をした。

 ヴェリシュはしかし、むすっとした顔のままで言う。

「子どものくせに生意気な彼が悪いんです」

「そう言わないで、許しなさいよ。というか、そこまで怒るようなことかしら?」

 わたしが首をかしげると、彼は表情を変えずに言った。

「目の前で好きな女性が他の男性に誘われて、冷静でいられるわけがありません」

「それって……もしかして、嫉妬したの?」

「っ……」

 わたしの問いに彼は、少しだけ頬を赤くさせながら顔をそらした。

 普段は見られない表情に、わたしはくすりと笑みをこぼす。

「心配しないで、ヴェリシュ。わたしが隣を歩きたいと思うのはあなただけよ」

 さりげなく手を寄せて彼の手を握ると、彼もそっと握り返してくれた。


 馬車へ乗り込み、わたしたちは相談を始める。

「結局、いい回答はもらえなかったわね」

「ええ、少々期待外れでした」

 と、ヴェリシュが息をつく。

 わたしもつられてため息をつき、どうしたらいいか考えた。

 ミグニットの協力が得られないなら、どうすることもできない。わたしの持つ魔力だけでは限界があるだろうし、世界の改変など難しいだろう。

 すると、ヴェリシュがどこかぎこちなく笑いながら言った。

「こうなったら、手当たり次第に試してみるしかありませんね」

「何か策があるの?」

「あると言えばあるんですけど、根拠も自信もありません。なので、無駄に終わる可能性が極めて高いのですが……」

 と、ため息をつく。

 しかし、わたしに言えることはひとつしかなかった。

「いいじゃない、やってみましょうよ。これまでだって、あなたが率先して行動してきたから、今があるんだもの。どんなことでも試す価値はあると思うわ」

「ユヴィーニャ……ありがとうございます」

 と、彼がめずらしく弱々しい笑みを見せた。

「それでは、王城へ向かいましょう」


 王城へ到着すると、ヴェリシュは中へ入らずに外から建物をながめた。

「えーと、たしかもう少し遠かったような」

 と、ぶつぶつ言いながら後ろへ下がったり、左右にずれたりする。

 彼が探しているのは”タイトル画面”だった。わたしには何のことだか分からないけれど、それを見つけ、再現してみたいのだそうだ。

「このあたりですね。ユヴィーニャ、俺の見ている方向に立って見てもらえますか?」

 ようやく位置を探し当てたヴェリシュが言い、わたしは指示通りに移動した。ヴェリシュより少し離れたところに立ち、王城の立派な門を背にする。

「この辺りかしら?」

「もう少し、前に」

「はい」

「うーん……ほんの少しだけ、右に移動してください」

「こうかしら?」

 わたしがちょこっとだけ右へずれると、彼が少しだけ腰をかがめた。

「ああ、この位置ですね。そして本来であれば、ボタンがこの辺りに……」

 と、何もない宙を手で押すような仕草をする。何もないのだから、当然のごとく何も起こらない。

「……やっぱり無駄でしたか」

 ヴェリシュが重たくため息をつき、わたしは苦笑いをしてしまった。

「それじゃあ、次のを試しましょう」

 と、彼の方へ寄っていく。

「ええ、そうですね」

 ため息まじりにヴェリシュがうなずいた、その直後だった。

「君たちまであきらめが悪いとはね」

 唐突に懐かしい声がして、わたしは思わず周囲を見回した。ヴェリシュもまた、声の主を目で探す。

「特別に招待してあげる、こっちへおいで」

 そう言われたかと思うと、次の瞬間に景色が変わって、わたしたちは見知らぬ場所に移動していた。人工物を思わせる無機質な蒼い壁に囲まれた、奇妙な場所だ。

「こ、ここは?」

「いったい、何が……?」

 戸惑うわたしたちに、声の主がこつこつと靴音を響かせながら近づいてくる。

「ここはメインプログラムの中だよ」

 現れた姿を見て、わたしははっと両手を口元へあててさけぶ。

「ディリュース! 生きてたのね!」

 わたしとよく似た顔をした、わたしと同じ髪と目の色を持つ唯一の人物だ。

 しかし、喜ぶわたしとは裏腹に、ヴェリシュは目つきを鋭くさせて問いかけた。

「どういうことですか? あなたはいったい、何者ですか?」

「え?」

 思わずわたしはヴェリシュの方を見る。彼は真面目な顔をしており、ディリュースの姿をしたその人は言った。

「さすがは転生者だね。僕はディリュースの姿をしているけれど、ただのNPCではない。言うならば、僕は物語の管理者さ」

「管理者……」

 彼の背後にはさまざまな景色の浮かんだ、四角い絵画のようなものがいくつも宙に浮いている。その下には長方形の平べったいものがあり、よく見えないけれど机と椅子があるようだった。

「このゲームもといプログラムが正しく進行するよう、監視をしたり手を貸したりしてきたんだ」

 まるで意味が分からない。ディリュースが管理者……?

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