第4話 委員会のバグ

 図書館の準備室で32人の生徒と1人の教師が集まっている。

 1年生、2年生ともに8クラスだから、それぞれ16人。合わせて32人。

 3年生は受験が近いことを理由にして委員会活動を免除されている。


「後期図書委員会の最初の活動を始めようか。まずは僕の自己紹介から。名前は橋本。担当教科は生物。この委員会では僕は基本的に関わらず、君たち生徒で活動してもらう。ということで、その中心となる委員長と副委員長を決めようか。誰か立候補者はいる?」


 橋本先生の言葉に反応する生徒は誰もいない。

 しかし、橋本先生はふむ、と言うだけで表情を変えなかった。


「それじゃあ、委員長は宮原。副委員長は辻村にしてもらおうか。はい、拍手」


 乾いた音が部屋に響く。


「なぜ私たちなんですか?」


 宮原が少し低い声で聞く。


「だって、君たち前期も図書委員だったでしょ? それなら仕事も分かってるし、2人とも僕が担任しているクラスだから丁度いいじゃん。辻村は休んでるけど、そんなの関係なし。休んでるやつが悪い」


 俺たちは前期もクラスメイトとこの担任に押し付けられているのだ。

 だから仕事が分かっている。

 確かに道理にかなっているけど、それで納得はできない。


「丁度よくないです。委員長がどれだけ面倒な仕事か分かってますか?」


 そうだ、そうだ、と宮原にしか聞こえない声で同調する。


「もちろん分かってるよ。問題を起こしてばかりの出来損ないがたくさん集まっている図書委員会の代表になる。確かに嫌だよなぁ」


「分かっているなら——」


 宮原の言葉を遮るように1人の生徒が立ち上がって椅子を蹴った。


「黙って聞いていたら、随分と上から目線な言い草だなぁ。舐めてんのか?」


 あぁん? とでも言いたそうな顔で宮原と橋本を睨む。


「僕は事実を言ったまでだよ。図書委員会に入るのは押し付けられた真面目な生徒か、君のような進級を条件にされた不良生徒。何か間違ってる?」


「正論は聞きたくねぇんだよ」


 今にも橋本に殴りかかりそうな前傾姿勢の不良生徒。


 それを見て俺は思いついた。


「宮原あいつのこと少し煽ってくれない?」


 宮原は一泊置いて小さく頷き、口を開いた。


「その髪型、ベニテングダケに似ている」


「は?」


「ベニテングダケっていうのは赤い毒キノコのこと。キノコみたいな赤髪だからそう思った」


 部屋は急激に静かになり、小さな物音さえ聞こえるようになった。

 その空気を変えたのは橋本先生だった。


「あっはっはっ!!」


 橋本先生は周りが引くぐらいの大笑いをする。

 1人生きてる世界が違うかのように笑い続ける。


「あ、やばい。宮原、右手を前にかざして」


 宮原の煽りが思ったより腹が立つものだったので俺も少し慌てる。


 涙を出すほど笑っている橋本先生と同じかそれ以上に顔を赤くした不良生徒が宮原に向かって歩き始めた。


 同時に俺も地面を蹴る。


「俺を笑うなぁああッ——ぐへっ」


 どんどん加速していた不良生徒に俺は横から突進をお見舞いする。

 彼からしたら、宮原が手をかざした数秒後に何もないはずの側面から大きな衝撃を受けたと感じるはずだ。


 そして、その因果関係を結びつけた結果——


「お前も、能力者なのかよ!!」


 上手いこと思考を誘導できた。


 不良生徒は1年生だ。

 今の1年生はゲームが蔓延しており、特別な能力の存在を耳にしていた可能性が高い。

 そして、その不完全な前提知識を利用して、こいつ強いんじゃね? と思わせる。

 名付けて、はったり作戦。


「だったら何?」


「バトルしようぜ!」


 しかし、残念ながら彼もゲーム参加者のようだ。

 はったり作戦は失敗した。


「いいよ」


 宮原が手のひらを不良生徒にかざして、視線は俺に向ける。


 あ、俺が行けってことか。


「ウィンド——ぐへぇ!」


 何か叫んでいた不良生徒に突進を仕掛ける。


 これ意外と疲れるな。

 そろそろ終わりでよくないか?


「この佐藤龍。お前の能力の弱点を見つけた! それは、手をかざしてから攻撃までのラグがあるという致命的——ぐふぅ」


 よろよろと立ち上がるので、宮原が手をかざす前に助走をつけて突進した。

 我ながら体重が乗った良い突進だった。


「誰か他に私と戦いたい人はいる?」


 不良生徒の佐藤が痛みに堪え、橋本先生が爆笑し、他の生徒はいきなりの出来事に驚いて唖然とする。

 そんなカオスな状況の中、宮原は宣言した。


「私が副委員長、辻村が委員長で決定。これからは私たちの命令に絶対服従」


 なんか宮原ノリノリになってない?


 しかも俺勝手に委員長にされたし。

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